一般に,単相交流電源に接続して用いる誘導電動機を単相誘導電動機(single-phase induction motor)と呼ぶ。
家庭用電気機器や小形作業機械など,三相電源がない場合に使用される単相誘導電動機は,固定子に単相巻線を施し,回転子はかご形にした構造の電動機である。
単相交流によって発生する交番磁界をかご形誘導電動機の回転子に印加した場合,正回転する磁界と逆回転する磁界とに分けて考えることができ,それぞれの磁界に対する滑りが異なるため,一度正方向又は逆方向に回転すると,回転方向のトルクが増加し,継続して回転を続ける。
回転の原理
誘導電動機の回転の原理は,永久磁石を回転させると針の上に水平に置いた銅板またはアルミ板も永久磁石の回転に従って回転する。
その理由は,磁石が回転することによって円板に渦電流が流れ,渦電流と磁石との間に電磁力が働くためである。
これがアラゴーの円板*1と呼ばれるもので,フランスの物理学者アラゴーによって 1824 年に発見された。
アラゴーの円板は誘導電動機の原理になっているが,この円板を利用している機器に,家庭用の積算電力計がある。
フランソワ・アラゴ
ドミニク・フランソワ・ジャン・アラゴ(1786年2月26日 - 1853年10月2日)は,フランスの数学者,物理学者,天文学者で政治家である。
物理学では光学や創成期の電磁気学に大きく寄与し,また政治家としても業績を残した。
アラゴーの原理
永久磁石を回転させると,磁石の回転で円板に渦電流が発生し,円板が回転する。
くま取りコイル
図 1 は,くま取りコイル形誘導電動機の原理図である*2。
集中巻された一次コイル磁極に短絡コイルをはめ込んでいる。
短絡コイルの漏れ磁束を無視し,短絡コイルを通過しない磁束を $\phi_\text{A}$,通過する磁束を $\phi_\text{B}$ とすると,図 2 の励磁電流に関する等価回路を得る。
ただし,$V_1$ は一次コイルの供給電圧,$r_\text{S}'$ は短絡コイルの抵抗の一次換算値,$E_\text{A}$ 及び $E_\text{B}$ は磁束 $\phi_\text{A}$ 及び $\phi_\text{B}$ に対する起電力である。
また,鉄損及び巻線抵抗は無視している。
短絡コイルには起電力 $E_\text{B}$ と同位相の短絡電流 $I_\text{S}'$ が流れる。
一方,一次コイルには,$\phi_\text{B}$ を励起する電流 $I_\text{B}$ と短絡電流 $I_\text{S}'$ との和が流れ,起電力 $E_\text{A}$ は $E_\text{B}$ よりも進み位相となる。
したがって,磁束 $\phi_\text{B}$ は $\phi_\text{A}$ に対して遅れ位相となり,図 1 の回転子に発生するトルクは時計方向となる。