目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

送電線の自然災害に対する設計

送電鉄塔の荷重設計で支配的なのは,通常は強風又は着氷雪荷重であり,一般的な建築物が地震荷重である点と異なる。

これは鉄塔がトラス構造物であり建築物に比べて軽いことに加えて架渉線を有していることによる。

法的な定め

電気設備に関する技術基準を定める省令32条において,支持物の倒壊の防止について,次のように記載されている。

架空電線路又は架空電車線路の支持物の材料及び構造(支線を施設する場合は、当該支線に係るものを含む。)は,その支持物が支持する電線等による引張荷重,10 分間平均で風速 40 メートル毎秒の風圧荷重及び当該設置場所において通常想定される地理的条件,気象の変化,振動,衝撃その他の外部環境の影響を考慮し,倒壊のおそれがないよう,安全なものでなければならない。ただし,人家が多く連なっている場所に施設する架空電線路にあっては,その施設場所を考慮して施設する場合は,10 分間平均で風速 40 メートル毎秒の風圧荷重の 2 分の 1 の風圧荷重を考慮して施設することができる。

2 架空電線路の支持物は、構造上安全なものとすること等により連鎖的に倒壊のおそれがないように施設しなければならない。

風荷重

風荷重の基本となる設計風速は,10 分間平均風速を用いる場合と瞬間風速を用いる場合がある。

前者の値は夏から秋にかけての台風を想定した高温季では 40 m/s ,冬から春にかけての季節風を想定した低温季では,氷雪の付着を考慮し,高温季の荷重の 1/2 となる風速値としている。

着氷雪荷重

着氷雪荷重には,風荷重と重畳する湿形着雪を対象とした着雪荷重,標高の高い山岳地で発生する着氷荷重,降雪が多い地域で対策が必要な積雪荷重があり,それぞれ過去の観測記録や設計実績に基づいて適切な値を設定する。

ギャロッピングとスリートジャンプ

電線においては,電線に付着した氷雪が羽根状となって風を受けて電線が自励振動するギャロッピング(galloping)や,電線に付着した氷雪が脱落して電線が跳ね上がるスリートジャンプ(sleet jump)があり,相間短絡などの電気事故が発生しないように対策が取られている。

スリートジャンプ

送電線路において,電線の異常動揺の一種であるスリートジャンプが相間の短絡事故(線間短絡事故)にまで発展することがあるが,これはどの線路にも起こりうるという一般的な現象ではなく,着氷雪,風,電線の導体数などと気象,地形,架線条件などの要因が重なり合って発生する特異な現象である。

その発生原理についても,現在も解明されていない点が多いが,着氷雪などによって非対称となった電線の断面に水平風があたることによってギャロッピングが発生し,着氷雪の位置によっては自励振動を生じて電線が上下に震動することによるものであると考えられている。

観測事例などによれば,このような動揺は,電線断面が大きいほど,また,単導体よりも多導体において発生しやすく,振幅が大きく,持続時間も長いことから,径間において相間短絡を起こしやすく,再閉路が成功しても再度相間短絡が発生する頻度が高い。

特別高圧送電線のスリートジャンプ対策の実施事例としては,次のようなものがある。

  • 電線の上下振動周期と捻回周期の同調防止を目的とした抑制装置の取り付け
  • 電線間の接触防止を目的とした相間スペーサの取り付け
  • 垂直配列 2 回線鉄塔の上中下腕金長の差を大きくし,オフセットを設ける
  • 線間クリアランスの増加
  • がいし装置断連防止のためのがいし装置の強度の強化

事故防止の観点では,電線の配列は水平配列とすることが最もよい。

 

図 スリートジャンプ

図 スリートジャンプ

ギャロッピング

電線の表面に,電線の断面に対して非対称な形に氷雪が付着し,これが肥大化すると,微風振動の場合と同様に,電線の風下側に比較的規模の大きいカルマン渦が発生し,電線に対して鉛直方向に上下交互の周期的な交番力が加わる。

このとき交番周波数と電線の固有振動数が一致すると,共振状態となり振動が発生する。これをギャロッピングという。

ギャロッピングが発生すると,径間で相間短絡を起こしやすく,一度再閉路が成功しても,再度相間短絡を起こしやすい。

また,電線の過大張力による素線切れおよび断線の発生,スペーサの損傷およびがいし金具の疲労による機械的強度の低下などの障害が発生する。

防止対策としては,気象条件を考慮した送電ルートの選定,相間スペーサを挿入した振動の抑制,フリーセンタクランプなどの防振装置の採用がある。

参考文献

  • 令和5年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3「電線の振動対策と着氷雪対策」
  • 平成27年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4「送電線の自然災害に対する設計」
  • 平成21年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6「架空送電線に氷雪が付着したときの現象とその対策」
  • 平成19年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問7「架空送電線の着氷雪害」
  • 平成13年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問3「送電線のスリートジャンプ及びギャロッピング」

更新履歴

  • 2021年12月2日 新規作成
  • 2022年4月23日 参考文献に「平成19年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問7」を追加
  • 2022年5月22日 参考文献に「平成21年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6」を追加
  • 2022年10月23日 参考文献に「平成13年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問3」を追加
  • 2023年8月26日 参考文献に「令和5年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3」を追加