高電圧工学において対象とされる絶縁物としては,気体,液体,固体があげられ,おのおのの誘電体における放電現象ならびに絶縁破壊機構は異なっている。
高電圧電力機器の絶縁材料(insulating material)としては,空気,SF6ガスなどの気体,絶縁油などの液体,エポキシ樹脂,高分子固体,フィルムなどの固体及び真空などがあり,それぞれの絶縁耐力は大きく異なる。
気体絶縁
交流に対する空気の絶縁耐力(波高値,大気圧)は,一般に 30 kV/cm 程度である。
GIS に用いられている SF6 ガス(大気圧)は,空気の約 3 倍の絶縁耐力をもっている。
SF6 ガスの絶縁耐力は電界依存性が高く,金属異物が存在すると大幅に絶縁耐力が低下するため,製造・組み立て時の品質管理は重要である。
液体絶縁
油入変圧器では,絶縁油と絶縁紙の複合絶縁となるが,電圧がほとんど油間隙にかかる。絶縁油(鉱油)と絶縁耐力(波高値)は 200 kV/cm 程度であるが,気泡,水分,微粒子が存在すると絶縁耐力が低下するので,製造・組み立て時に品質管理をする必要がある。
鉱油系絶縁油
鉱油系絶縁油は冷却性が良く,かつ絶縁耐力が優れており,他の液体絶縁材料に比較して,価格が安く豊富に得られるので,変圧器の冷却及び絶縁媒体として,昔から広く使用されてきた。
油入変圧器の絶縁油として要求される特性としては,絶縁耐力が高いこと,粘度が低いこと,引火点が高いこと,凝固点が低いこと,他の絶縁材料や金属材料を浸食しないこと,電気的,化学的に安定性が大きいこと,などである。
絶縁油には一般に鉱油が使用されているが,絶縁油が吸湿したり,空気に長時間さらされると絶縁性能が低下する。
この場合の絶縁油の絶縁特性を確認する診断項目について,絶縁性能低下との関係について説明する。
絶縁破壊電圧
酸化や水分量の増加,油中微粒子などにより絶縁油が劣化すると絶縁破壊電圧が低下する。
全酸価
絶縁油の酸化劣化により有機酸が生成され全酸価が増加すると,絶縁性能が低下する。
体積抵抗率
絶縁油が劣化するとイオン性の物質が増加し体積抵抗率が減少し,絶縁性能が低下する。
誘電正接(tanδ)
絶縁油が劣化するとイオン性の物質を生成するため誘電体損が増加し,絶縁性能が低下する。
水分量(油中水分量)
絶縁油中の水分量が増加すると絶縁性能が低下する。
シリコーン油
シリコーン油は耐熱性,耐寒性に優れ,化学的に極めて安定であり,酸化変質がなく,温度による粘度の変化が少ないという特長がある。
このため,効果ではあるが不燃変圧器用として使用されることが多くなると想定される。
固体絶縁
CV ケーブルで用いられる高分子絶縁材料である架橋ポリエチレン(XLPE)の設計電界(波高値換算)は最近のものでは,500 kV/cm 程度である。他の機器と比較すると絶縁厚さが薄いので,製造時に,絶縁体中に金属異物やボイドが存在し絶縁耐力が低下しないように,きめ細かい品質管理をする必要がある。
絶縁材料の特性
絶縁材料として要求されるおもな特性は電気的特性,機械的特性,熱的特性である。
電気的特性
一般に絶縁破壊の強さと,絶縁特性が重視され,できるだけ高いことが必要である。
絶縁体に電圧を加えたとき,印加電圧を維持し得なくなる現象を絶縁破壊(breakdown)といい,その強さを通常 MV/cm,kV/mm などの単位で表す。
絶縁体は誘電体であるから電圧を加えたとき,電流が吸収される。
印加電圧と電流によって定められた電気抵抗を絶縁抵抗(insulation resistance)といい,絶縁体の状態を判定する目安に用いられる。
その大きさは吸湿,温度などに依存し,時間的,経年的に変化する。
機械的特性
絶縁材料は施工時,使用時に力を受けるので,また構造材料を兼ねていることもあるので,機械的特性も重要な特性である。
引張強さ,曲げ強さ,圧縮強さ,あるいは材料によっては硬度,クリープ特性,耐摩耗性などが求められる。
熱的特性
一般に,耐熱性,熱膨張率,熱伝導率,比熱などが問題となる。
温度の上昇とともに絶縁材料の電気的,機械的特性が低下し,ある温度まで上昇すると使用に耐えられなくなる。
この限界温度を許容最高温度といい,耐熱性を表し,この温度をクラス分けしている。
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