目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

ケーブルの診断技術と事故点測定法

油浸絶縁ケーブルの絶縁低下は,主にシースの腐食・外傷などによる絶縁体の吸湿,浸水やケーブルの熱伸縮などによる空げきの発生,長年月の使用による絶縁体の変質などの単独あるいは組み合わせにより発生する。

また,架橋ポリエチレン絶縁ビニルシースケーブル(CV ケーブル)の絶縁低下は主に水トリー(water tree)の進展により発生する。

絶縁低下の要因

水トリー

CV ケーブルの絶縁層内に侵入した微量の水分や異物が,経時変化により絶縁体中に浸透し,絶縁低下の要因となる現象。

水トリーには外部半導電層を起点として発生する外導水トリー,内部半導電層を起点として発生する内導水トリー,絶縁体中のボイド・異物を起点として発生するボウタイトリーがある。

近年,CV ケーブルは絶縁層,内・外半導電層を三層同時押出法*1により製作されるので,内導体トリー,外導体トリーはほとんど発生しないようになった*2

なお,CV ケーブルの構造には,内部・外部半導電層ともにテープ巻構造のものを T-T 方式,内部半導電層が押出形成で外部半導電層がテープ処理のものを E-T 方式,三層同時押出しは E-E 方式と呼んでいる。

水トリーは直径 0.1 ~ 1 [μm] の無数の水滴の集合体で,水トリーが発生したケーブルでは $\tan{\delta}$,直流漏れ電流が増大するので,これらが劣化状況を推定する有力な手がかりとなる。

CV ケーブルの特徴

CV ケーブルは,ポリエチレンを絶縁体としたケーブルにおいて大きな欠点であった耐熱性を改善した架橋ポリエチレンを絶縁体としたケーブルである。

乾式架橋方式は,絶縁性能も良く,OF ケーブルと比較して $\tan\delta$(誘電正接)や比誘電率が小さいため誘電体損失や充電電流が小さくなる。

また,三心一括の CV ケーブルと比較して,曲げ特性の改善のため,22 ~ 77 kV で導体断面積 400 mm2 までのケーブルは,3 条をより合わせてトリプレックス形としている。

絶縁診断方法

主な絶縁診断方法は次のとおりである。

直流漏れ電流測定

ケーブルの導体とシース間に一定の直流電圧を印加し,漏れ電流の大きさ・変化・三相不平衡などを時間で整理し,その形状や値から絶縁状態を調べる。

検出精度は高く局部的な劣化の検出が可能であることなどから,高圧ケーブルの絶縁劣化診断手法として幅広く用いられている。

部分放電測定

交流又は直流課電時の部分放電を測定し,一定時間内に発生する一定量を超えるパルス数などを電圧や時間などで整理し,その特徴を調べる。この方法では部分放電発生位置も測定しうる利点もある。

OF ケーブルの部分放電測定

発生している部分放電を測定し,一定時間内に発生する部分放電パルス数等を電圧や時間で管理する。

油中ガス分析では検出困難なケーブル部の部分放電位置の検出に有効である。停電ができない電線路の測定が可能である。

油浸絶縁ケーブルの絶縁油調査

OF ケーブル,POF ケーブルの絶縁油を採取して,誘電特性,ガス含有量などの測定を行い,劣化の程度を調べる。

油中ガス分析

採取した絶縁油中に溶解した放電や熱分解による分解生成ガスを抽出・分析する。

分析結果のガスの種類や量により,異常の有無と異常の程度を推定することが可能である。

絶縁油特性試験

採取した絶縁油の各特性(水分量,体積抵抗率,誘電正接,全酸価,絶縁破壊電圧)を測定する。

各特性の測定結果により,施工不良,気密性,絶縁油の汚損状況,熱劣化等を推定することで,異常の程度を推定することが可能である。

CV ケーブルの絶縁診断

CV ケーブルの水トリーによる劣化に対する絶縁診断手法の主なものは,絶縁体中への空間電荷の蓄積現象を利用した残留電荷法,電流-電圧特性の非線形性を利用した交流損失電流法などがあげられる。

残留電荷

最初に直流課電によって水トリー部に電荷を蓄積させ,次に交流課電で蓄積した電荷を放出させる,直流課電と交流課電を組み合わせた手法である。

検出された電荷の量は,水トリーの数や長さによって変化するため水トリーの発生状況を検知することが出来る。

交流損失電流法

水トリー劣化ケーブルの充電電流の中に,課電電圧と同位相の損失電流成分が含まれることから,この損失分を測定し劣化の状況を把握する手法である。

劣化したケーブルの測定波形には高調波歪みが観測される。

耐電圧法

水トリー劣化ケーブルのスクリーニングを目的とし,常規電圧よりも高い電圧をケーブル線路に課電する。

スクリーニングする劣化レベルに応じて試験電圧や,効果的な試験電圧種類(商用周波,超低周波,可変周波)を選定する。

コアずれ測定

OF ケーブルのコアずれ測定について説明する。

放射線によりケーブルや接続箱の内部を撮影し,内部状況を調査する。

セミストップ部の変形,遮へい層の乱れや,コアずれ量による接続箱内の絶縁紙のずれや損傷を把握し,油中ガス分析と組み合わせることで,異常の程度を推定することが可能である。

事故点測定法

マーレ―ループ法

ホイートストンブリッジの原理により,事故点までの抵抗値を高精度に測定する方法である。

長所として,導体抵抗を利用したホイートストンブリッジ法のため,測定精度が高く,誤差は 1 % 程度以下である。

また,ケーブル事故の多くが 1 線地絡であるため,適用範囲,使用実績が最も多い。

一方,短所として,断線事故に適用できない,三相同時地絡事故のような並行健全相がない場合,測定は困難である。

ケーブル全長を $L$ /相,測定辺抵抗を $R_1$,$R_2$ とすると,$l$ は $2L\middot R_1/(R_1+R_2)$ または $2L \middot R_2/(R_1+R_2)$ と表される。

パルスレーダー法(送信形パルス法)

事故ケーブルにパルスを加え,健全相と異なるサージインピーダンスをもつ事故点からの反射パルスを検知して,パルスの伝搬時間を測定し,事故点までの距離を求める方法である。

長所として,並行健全相が不要であるので,三相同時地絡事故の測定に適している。

また,線路こう長がはっきりしていない場合でも測定できる。

一方,短所として,測定操作,パルス波形の判読に熟練を必要とし,測定精度が若干低い(誤差は一般的に 2 ~ 5 %)。

第 1 波パルスと第 2 波パルスの時間差を $t$,ケーブル内のサージ伝搬速度を $v$ とすると,l は $vt/2$ と表される。

参考文献

electrical-engineer.hatenablog.jp

更新履歴

  • 2021年12月17日 新規作成
  • 2021年12月18日 水トリーの説明を追加
  • 2022年1月28日 参考文献に「令和3年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問5」を追加
  • 2022年5月8日 参考文献に「令和元年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4」を追加
  • 2022年8月21日 事故点測定法を追加
  • 2022年10月16日 参考文献に「平成27年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問6」を追加
  • 2022年10月23日 参考文献に「平成13年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問4」を追加
  • 2022年11月6日 参考文献に「平成23年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問6」を追加
  • 2023年10月14日 参考文献に「平成8年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問3」を追加

*1:三層同時押出し(triple layer extrusion)とは,架橋ポリエチレンケーブル製造時に内部半導電層,絶縁体,外部半導電層の 3 層を一工程で押し出す製造方法。

*2:昭和51年以前に製造された CV ケーブルでは,内導体トリー,外導体トリーが多く発生する傾向があると言われている。