目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

発電用風力設備

風車の種類は水平軸風車と鉛直軸風車に分けられる。

水平軸風車の代表が高速タイプのプロペラ形で,減速比を小さくできる。

鉛直軸風車の高速タイプとしてダリウス形,ジャイロミル形があるが,風速の変動に対し性能変化が大きいので均一な出力を得ることは難しい。

発電事業用の風力発電には水平軸・3 枚翼のプロペラ形風車が広く用いられている。

我が国で現在広く用いられている風力発電には,風車の回転数をほぼ一定とするものと,風車の回転数を大きく変化させるものがある。

前者(風車の回転数をほぼ一定とするもの)には,設備構成が簡素で,かご形誘導発電機を電力系統に直接連系するタイプがある。

後者(風車の回転数を大きく変化させるもの)には,風力発電の発電性能向上などを目的とした,次の二つのタイプがある。

  1. 巻線形誘導発電機の二次巻線を超同期セルビウス(Super-synchronous Scherbius)方式により励磁するタイプ
  2. メンテナンスの負担が大きい増速機を省略するために,数十の極を有する発電機に BTB 変換装置を組み合わせるタイプ

発電用風力設備

事業用電気工作物として設置される発電用風力設備

風力発電所を施設するに当たっては,取扱者以外の者に見やすい箇所に風車が危険である旨を表示するとともに,当該者が容易に接近するおそれがないように適切な措置を講じなければならない。

風車は,次の各号により施設しなければならない。

  • 負荷を遮断したときの最大速度に対し,構造上安全であること。
  • 風圧に対して構造上安全であること。
  • 運転中に風車に損傷を与えるような振動がないように施設すること。
  • 通常想定される最大風速においても取扱者の意図に反して風車が起動することのないように施設すること。
  • 運転中に他の工作物,植物等に接触しないように施設すること。

風車は,次の各号の場合に安全かつ自動的に停止するような措置を講じなければならない。

  • 回転速度が著しく上昇した場合
  • 風車の制御装置の機能が著しく低下した場合

雷撃から風車を保護するような措置

最高部の地表からの高さが 20 m を超える発電用風力設備には,雷撃から風車を保護するような措置を講じなければならない。

ただし,周囲の状況によって雷撃が風車を損傷するおそれがない場合においては,この限りでない。

大形の風力発電設備の雷害対策

近年,自然エネルギーの有効利用という観点から風力発電設備が多数設置されている。

高い構造物が単独で海岸などに設置されるため,雷害を受けやすい。

特に,わが国の風力発電設備の雷害は,多くが日本海沿岸で発生しており,また,冬季におけるものが半分以上を占めている。

風力発電設備の雷害対策において考慮すべき特徴は,下記のようなことが挙げられる。

  • 長大なブレードが回転する。
  • ナセル内部には高電圧部と制御用の低電圧部が混在する。
  • 日本海側の冬季雷は正極性の雷が多く,高構造物から雷雲に向かって放電が進展するため,落雷する確率が他の地域より高い。

風力発電設備の雷害対策としては,下記のようなものがある。

  • 風力発電設備には,ナセルに避雷針が設置されているものが多いが,回転するブレードを保護するのは困難であることから,風車が保護角度範囲内に入るように,独立して避雷針を設置することが有効である。
  • ブレードの先端に受雷部(レセプタ)を,内部に引き下げ導線を設置すれば,雷撃によるブレード破損の可能性は小さくなる。
  • 制御システムの雷害対策としては,接地抵抗の低減や制御ケーブルへの誘導の防護が有効である。
風力設備内部を雷撃から保護するための等電位ボンディング

風力発電設備内部を雷撃から保護するために等電位ボンディングという方法が採用されている。

風力発電設備内部の離れた導電性部分間を直接導体又はサージ保護装置で電気的に接続することで,その部分間に雷電流により発生する電位差を低減させて保護する。

発電用風力設備として使用する圧油装置及び圧縮空気装置

発電用風力設備として使用する圧油装置及び圧縮空気装置は,次の各号により施設しなければならない。

  1. 圧油タンク及び空気タンクの材料及び構造は,最高使用圧力に対して十分に耐え,かつ,安全なものであること。
  2. 圧油タンク及び空気タンクは,耐食性を有するものであること。
  3. 圧力が上昇する場合において,当該圧力が最高使用圧力に到達する以前に当該圧力を低下させる機能を有すること。
  4. 圧油タンクの油圧又は空気タンクの空気圧が低下した場合に圧力を自動的に回復させる機能を有すること。
  5. 異常な圧力を早期に検知できる機能を有すること。

風車を支持する工作物

風車を支持する工作物は,自重,積載荷重,積雪及び風圧並びに地震その他の振動及び衝撃に対して構造上安全でなければならない。

風車が構造上安全であるために設計上考慮すべき風圧荷重
  • 突風や台風等の強風による風圧荷重のうち最大のもの
  • 風速及び風向の時間的変化により生じる変動荷重

商用系統に並列する方式

プロペラ形風車を用いた風力発電では,風を風車のブレード(翼)に当てることにより,揚力を発生させ,風車の軸部(ハブ)に回転力を与える。

ハブには直接あるいは増速装置を解して誘導発電機や同期発電機の軸が接続されており,交流の電気エネルギーに変換する。

これを商用系統に並列する方式には,AC リンク方式と DC リンク方式がある。

AC リンク方式

AC リンク方式では,誘導発電機が多く用いられる。その中で,かご形誘導発電機を用いた方式が構造的に最もシンプルであるが,風車の回転数が商用系統の周波数に対応した回転数にほぼ固定される。

この欠点を補うため,巻線形の誘導発電機を用い,二次抵抗を制御することにより同期速度の 100 ~ 110 % 程度の範囲で回転数を制御できる方式もある。

これらでは,いずれも増速装置が必要であり,また系統への併入時の突入電流を制限するソフトスタート装置や,力率改善用キャパシタが必要である。

巻線形誘導発電機の二次側をインバータなどにより適切な滑り周波数の交流で励磁すれば,更に広い範囲での可変速化が可能であり,併せて電圧や無効電力の調整も可能となる。

これを二次励磁方式という。

DC リンク方式

DC リンク方式では,発電機の交流出力を一旦直流とし,これをインバータで交流として並列する。

二次励磁方式と同様の効果が,更に広い回転数範囲で得られる。

ただし,二次励磁方式と比較すると大きなインバータ容量を必要とする。

また,多極の同期発電機を用いれば,増速装置なしでの発電も可能となる。

洋上風力発電

洋上風力発電は,大量導入やコスト低減,経済波及効果の観点から,再生可能エネルギーの主力電源化に向けた切り札とみられている。

浮体式洋上風力発電

浮体式洋上風力発電は,海上に風車を浮かべて発電する方式の風力発電である。

欧州では海底に風車を設置する着床式が主流であり,浮体式は世界で事例が少ない。

日本は遠浅の海域が少なく,着床式の設置可能な範囲に限りがある。

一方,浮体式の場合は水深の深い場所でも気候条件が整えば設置可能である。

日本は世界第 6 位の排他的経済水域面積を保有しており,設置できる候補地は多い。

今後の普及に向けては発電コスト低減が過大であり,NEDO は 2030 年に発電コスト 20 円/kWh 以下の達成を目標としている。

www.iee.jp

洋上風力発電の導入推進

立地制約のある洋上風力発電の導入を進めていくため,2019 年 4 月に「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(平成30年法律第89号)」(以下,「再エネ海域利用法」という。)が施行された。

再エネ海域利用法に基づき,事業環境整備を進めつつ,コスト効率的な案件の導入が促進されている。

参考文献

更新履歴

  • 2021年11月10日 新規作成
  • 2021年11月22日 用語解説「浮体式洋上発電」を追加
  • 2022年2月6日 参考文献に「エネルギー白書」を追加
  • 2022年2月18日 参考文献に読売新聞 2022年2月18日,プロジェクト探検隊 第18回,「脱炭素の未来 目の前に」を追加
  • 2022年3月6日 参考文献に「平成27年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問6」を追加
  • 2022年4月22日 参考文献に「平成22年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問3」を追加
  • 2022年4月23日 参考文献に「平成17年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問1」を追加
  • 2022年5月15日 参考文献に「平成27年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3」を追加
  • 2022年5月22日 参考文献に「平成23年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3」を追加
  • 2022年10月15日 参考文献に「令和元年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問6」を追加