目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

変圧器の電圧変動率

変圧器の一次端子電圧を一定に保っても,二次端子電圧は負荷の状態に応じて変化する。

これは,内部電圧降下によるものである。

電灯,電動機などの負荷設備は,その端子電圧が定格電圧のときに最大の能力を発揮するものであるから,常に定格電圧に保つ必要がある。

そこで,変圧器の電圧変動について考えてみる。

電圧変動率

指定力率の定格出力のときに定格二次端子電圧を与えるような定格周波数の電圧を供給し,その供給電圧を変更することなく,二次側の負荷を取り去ったときに生ずる二次端子電圧の変動の定格電圧に対する割合を百分率で表したものを電圧変動率 (voltage regulation) という。

すなわち,定格二次電圧を $V_{2n}$,出力を零にしたときの二次端子電圧を $V_{20}$ とすれば,電圧変動率 $\epsilon$ は次式で表される。

\[ \epsilon = \frac{V_{20}-V_{2n}}{V_{2n}}\times100 \text{ [%]} \]

変圧器の電圧変動率は,一次,二次両巻線の比較的小さいな値の抵抗および漏れリアクタンスがその原因をなすものである。

したがって,大きな電機子反作用をもつ発電機に比べると,非常に小さい値である。

変圧器の電圧変動率は,一次,二次両巻線の比較的小さいな値の抵抗および漏れリアクタンスがその原因をなすものである。したがって,大きな電機子反作用をもつ発電機に比べると,非常に小さい値である。

インピーダンス電圧

負荷によって電圧の変動が生ずるのは,巻線の抵抗や漏れリアクタンスによる電圧降下のためである。電圧変動のみならず,この電圧降下は変圧器の特性を左右する大事な量である。

変圧器の二次換算等価回路を示す。この図で $I_2$ [A] を定格二次電流とすれば,そのときの一次抵抗,二次抵抗による電圧降下の合計は $rI_2$ [V] であり,漏れリアクタンスによる電圧降下の合計は $xI_2$ [V] である。この $rI_2$ を抵抗電圧,$xI_2$ をリアクタンス電圧という。

なお,二次換算等価回路における $r$ は,一次巻線抵抗 $r_1$,二次巻線抵抗 $r_2$,巻き数比 $a$ より求められる。

\[ r = \frac{r_1}{a^2} + r_2 \]

同じく,二次換算等価回路における $x$ は,一次漏れリアクタンス $x_1$,二次漏れリアクタンス $r_2$,巻き数比 $a$ より求められる。

\[ x = \frac{x_1}{a^2} + x_2 \]

図 変圧器の二次換算等価回路

図 変圧器の二次換算等価回路

漏れインピーダンス $z$ は,$r$ と $x$ により求められる。また,$zI_2$ をインピーダンス電圧という。

\[ z = \sqrt{r^2 + x^2} \]

これらの定格二次電圧に対する比を百分率で表すことが多く,その場合はパーセント抵抗電圧 $q_\text{r}$,パーセントリアクタンス電圧 $q_\text{x}$,パーセントインピーダンス電圧 $q_\text{z}$ と呼ぶ。

\[ q_\text{r} = \frac{rI_2}{V_2} \times 100 \text{ [%]} \] \[ q_\text{x} = \frac{xI_2}{V_2} \times 100 \text{ [%]} \] \[ q_\text{z} = \sqrt{{q_\text{r}}^2 + {q_\text{x}}^2} = \frac{zI_2}{V_2} \times 100 \text{ [%]} \]

ここで,$I_2$ は定格二次電流,$V_2$ は定格二次電圧である。

電圧変動率の計算

変圧器の二次換算等価回路についてベクトル図を描く。二次端子電圧 $\dot{V_2}$ に抵抗電圧 $r\dot{I_2}$,リアクタンス電圧 $x\dot{I_2}$ をベクトル的に加えたものが無負荷電圧 $\dot{V_{20}}$ である。

図 変圧器の二次側等価回路のベクトル図

図 変圧器の二次側等価回路のベクトル図

$V_{20}$ の大きさを求める。

\[ V_{20} = \sqrt{(V_2 + rI_2 \cos{\phi} + xI_2 \sin{\phi})^2 + (xI_2\cos{\phi} - rI_2\sin{\phi})^2} \] \[ V_{20} = V_2 \sqrt{(1 + \frac{rI_2}{V_2} \cos{\phi} + \frac{xI_2}{V_2} \sin{\phi})^2 + (\frac{xI_2}{V_2} \cos{\phi} - \frac{rI_2}{V_2} \sin{\phi})^2} \]

上式の根号の部分を二項定理($x$ が 1 に比べて小さければ,$\sqrt{1+x} \approx 1 + x/2$)を用いて展開し,第 3 項以下は非常に小さな値となるので省略し,第 2 項まで求めると次のようになる。

\[ V_{20} \approx V_2\{(1 + \frac{rI_2}{V_2} \cos{\phi} + \frac{xI_2}{V_2} \sin{\phi}) + \frac{1}{2}\frac{(\frac{xI_2}{V_2} \cos{\phi} - \frac{rI_2}{V_2} \sin{\phi})^2}{(1 + \frac{rI_2}{V_2} \cos{\phi} + \frac{xI_2}{V_2} \sin{\phi})}\} \]

この式のカッコ内の第 2 項の分母のうち,$(rI_2 / V_2) \cos{\phi} + (xI_2 / V_2) \sin{\phi}$ は 1 に比べて極めて小さいので,これを省略して分母を 1 とみなす。ゆえに,上式は次のように表すことができる。

\[ V_{20} \approx V_2\{(1 + \frac{rI_2}{V_2} \cos{\phi} + \frac{xI_2}{V_2} \sin{\phi}) + \frac{1}{2}(\frac{xI_2}{V_2} \cos{\phi} - \frac{rI_2}{V_2} \sin{\phi})^2\} \]

これを電圧変動率の式に代入し,パーセント抵抗電圧 $q_\text{r}$,パーセントリアクタンス電圧 $q_\text{x}$ を用いて整理する。

\[ \varepsilon = \frac{V_{20}-V_{2n}}{V_{2n}}\times 100 = (\frac{V_{20}}{V_2} - 1) \times 100 \] \[ \varepsilon = \{(1 + \frac{rI_2}{V_2}\cos{\phi} + \frac{xI_2}{V_2}\sin{\phi}) + \frac{1}{2}(\frac{xI_2}{V_2}\cos{\phi} - \frac{rI_2}{V_2}\sin{\phi})^2 - 1 \} \times 100 \] \[ \varepsilon = q_\text{r} \cos{\phi} + q_\text{x}\sin{\phi} + \frac{(q_\text{x}\cos{\phi} - q_\text{r}\sin{\phi})^2}{200} \]

小容量の変圧器では実用上,上式の第 3 項は小さい値になるので,省略することもできる。

\[ \varepsilon = q_\text{r} \cos{\phi} + q_\text{x}\sin{\phi} \]

ここで $q_\text{r}$ = 1.5 [%],$q_\text{x}$ = 7.35 [%] としたとき,負荷力率と電圧変動率との関係を示す。

図 負荷力率と電圧変動率との関係

図 負荷力率と電圧変動率との関係

力率により電圧変動率は変化し,ある力率において最大値となる。電圧変動率の最大値を求めるため,電圧変動率の式を変形する。

\[ \varepsilon = \sqrt{{q_\text{r}}^2 + {q_\text{x}}^2}(\frac{q_\text{r}}{\sqrt{{q_\text{r}}^2 + {q_\text{x}}^2}} \cos{\phi} + \frac{q_\text{x}}{\sqrt{{q_\text{r}}^2 + {q_\text{x}}^2}}\sin{\phi}) \] \[ \varepsilon = \sqrt{{q_\text{r}}^2 + {q_\text{x}}^2}(\sin{\beta}\cos{\phi} + \cos{\beta}\sin{\phi}) = \sqrt{{q_\text{r}}^2 + {q_\text{x}}^2}\sin(\beta + \phi) \]

ここで,$\tan{\beta} = q_\text{r}/q_\text{x}$ である。

ゆえに,電圧変動率の最大値 $\varepsilon_\text{max}$ は,$q_\text{z}$ となる。

\[ \varepsilon_\text{max} = \sqrt{{q_\text{r}}^2 + {q_\text{x}}^2} = q_\text{z} \]

また,このとき $\sin(\beta + \phi) = 1$,すなわち $\beta + \phi = 90$ であるから,電圧変動率が最大値となる力率 $\cos{\phi}$ は次式で求められる。

\[ \cos{\phi} = cos(90 - \beta) = \sin{\beta} = \frac{q_\text{r}}{\sqrt{{q_\text{r}}^2 + {q_\text{x}}^2}} = \frac{q_\text{r}}{q_\text{z}} \]

全負荷以外の電圧の変動率

これまでは全負荷における電圧の変動率について説明してきた。負荷率が変わったときの電圧の変動率を求める。

例えば,1/2 負荷における百分率抵抗降下 $p'$ [%],百分率リアクタンス降下 $q'$ は,それぞれ次式となる。

$p ' = 1/2 p$

$q' = 1/2 q$

よって,1/2 負荷における電圧の変動率は,全負荷における電圧の変動率の 1/2 となる。

参考文献

  • 令和6年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2「単相変圧器の無負荷試験,短絡試験」
  • 第46回 エネルギー管理士試験 電気分野 問9

更新履歴

  • 2024年8月15日 新規作成
  • 2024年8月16日 インピーダンス電圧,電圧変動率の計算を追加
  • 2024年11月17日 参考文献に「令和6年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2」を追加