移行電圧とは,変圧器の高圧側巻線に侵入したサージ電圧が,巻線間の静電容量,又は結合リアクタンスを経て低圧側巻線に移行することをいい,前者を静電移行電圧,後者を電磁移行電圧という。
条件によっては低圧巻線及びこれに接続している機器の絶縁を脅かすほどの大きさになることもある。
静電移行電圧に対しては低圧側巻線にコンデンサを設置するなどの対策が採用されている。
一方,電磁移行電圧に対してはコンデンサの設置だけではそれほど低減されないことから,必要に応じて低圧側の相間絶縁を若干強化するか,あるいは低圧側各相対地間に避雷器を挿入するなどの対策が必要となる。
静電的移行電圧
静電的移行電圧は,サージ電圧が急しゅんで時間の短いものであれば,巻線間静電容量と低圧巻線の対地静電容量の比でほぼ決定され,両巻線の巻数比に無関係となる。
高圧-低圧巻線間の静電容量を $C_\text{HL}$,低圧巻線の対地静電容量を $C_\text{LE}$ とすると,低圧巻線側に現れる静電的移行電圧は,式 $\displaystyle \frac{C_\text{HL}}{C_\text{HL} + C_\text{LE}}$ に比例した値となる。
したがって,低圧巻線の端子と対地間にコンデンサを接続することで,低圧巻線への移行電圧を抑制することができる。
また,この移行電圧は巻線の接地遮へい,すなわち混触防止板を設けることでも抑制が可能である。
電磁的移行電圧
電磁的移行電圧は,サージが印加された巻線に準定常分電流により磁束が生じ,それが他の巻線と鎖交した各ターンに電圧を誘導することで発生する。
静電的移行電圧と異なり,低圧巻線端子にコンデンサを接続しても,振動周波数が変わるだけで波高値はそれほど低減されない。
実際の運用では,静電的移行分と電磁的移行分が合成された電圧の波形で低圧側に移行し,さらに低圧巻線の固有振動による電圧分も加わって複雑な様相を示す。
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