目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

電力変換装置による高調波障害と対策

パワー半導体バイスのスイッチングを利用して電力変換を行う電力変換装置の交流入力及び交流出力側には,種々の高調波が発生する。

流入力側である電力系統では,コンデンサのような高い周波数でインピーダンスが低い機器に高調波電流が集中して加熱したり,高調波電流と系統側のインピーダンスによって高調波電圧が発生して,系統につながる機器全体に影響を及ぼすことがある。

一方,交流出力側では,PWM 制御を行わない 180° 通電方式の三相ブリッジ接続インバータによって電動機を駆動する場合には,出力基本波周波数の 6 倍の周波数トルクリプルが発生し,電動機の振動などについて対策が必要となることが知られている。

また,変圧器を介してインバータの出力を他の機器に接続する場合には,鉄心の磁気ひずみなどによって変圧器の損失及び騒音が増加し問題になることがある。

これらの対策としては,電力変換装置と直列にリアクトルを挿入して高調波電流を抑制する,又はフィルタを利用して高調波を除去するなどが一般的である。

また,電力変換装置では生成する交流電圧波形を正弦波に近づける努力がなされている。

上記とは別に,電力変換装置の機能を利用して他の機器から発生する高調波を低減することも行われている。

例えば,低減対象の高調波電流成分を検出して,それと逆位相高調波電流を発生させ,加算して相殺することが行われている。

この電力変換装置は電力用アクティブフィルタと呼ばれる。

高調波抑制フィルタ

系統へ流出する高調波電流は上限値を超えないように抑制する必要がある。

高調波の次数が低いほど,系統への影響が大きいといわれている。

各周波数 $\omega$ の三相系統では,負荷が並行押している場合,対称性により特定の次数の高調波はごく小さく,一般に,最も大きな高調波は 5 次高調波となる。

図に示した設備において,$X$ で示すリアクトルは限流リアクトルと呼ばれ,主に構内短絡時の電流を制限することを目的としている。

また,高調波を抑制するためのフィルタ設備の各分路は,高調波次数に対応してコンデンサとリアクトルで構成されている。

第 11 次高調波に対応するための第 11 次分路のフィルタはリアクトルとコンデンサの共振周波数により選定したとしたとき,インダクタンス $L_{11}$ とコンデンサの静電容量 $C_{11}$ は $\displaystyle \frac{1}{\omega C_{11}}=121\omega L_{11}$ の関係にある。

今,6 000 V,50 Hz の系統電圧で,第 11 次分路フィルタの容量が 100 kvar としたとき,そのフィルタの基本波に対するリアクタンスは 360 Ω である。

このとき,リアクトルのインダクタンス $L_{11}$ は 9.55 mH である。

図 高調波抑制フィルタ

図 高調波抑制フィルタ

n 次高調波電流源を電源とする高調波等価回路

n 次高調波電流源を電源とする高調波等価回路を下図に示す。

図 高調波発生源を電源とする n 次高調波等価回路

図 高調波発生源を電源とする n 次高調波等価回路

進相コンデンサ設備に流入する n 次高調波電流

高調波発生源を電源とする $n$ 次高調波等価回路より,進相コンデンサ設備に流入する $n$ 次高調波電流 $I_\text{Cn}$ は次式となる。

\[ I_\text{Cn} = \frac{nX_\text{T}}{nX_\text{T} + (nX_\text{L} - \frac{X_\text{C}}{n})} \times I_\text{Hn} \]

3. 回路で共振を起こす条件式

回路で共振を起こすのは,$I_\text{Cn}$ の式において,分母が 0 のときである。

\[ nX_\text{T} + (nX_\text{L} - \frac{X_\text{C}}{n}) = 0 \]

4. 進相コンデンサ設備に流入する $n$ 次高調波電流

進相コンデンサ設備に流入する $n$ 次高調波電流が,高調波発生源の電流よりも大きくならないようにするためには,$I_\text{Cn}$ の式において,次式が成立する必要がある。

\[ nX_\text{L} - \frac{X_\text{C}}{n} \ge 0 \]

$n = 5$(第 5 高調波)の場合,次式となる。

\[ X_\text{L} \ge \frac{X_\text{C}}{n^2} = \frac{X_\text{C}}{25} = 0.04 X_\text{C} \]

よって,直列リアクトルのリアクタンスの大きさは進相コンデンサのリアクタンスの大きさの 4 [%] 以上であることが必要である。

参考文献

electrical-engineer.hatenablog.jp

更新履歴

  • 2022年7月23日 新規作成
  • 2022年8月28日 参考文献に「令和4年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問3」を追加
  • 2022年10月15日 参考文献に「平成30年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問5」を追加