本稿では直流電源を得る回路について述べる。
三相ブリッジダイオード
図 1-1 は三相ブリッジダイオード整流器の回路構成である。
負荷と直列に平滑用直流リアクトルを接続している。
ダイオードのオン電圧,逆阻止電流(逆漏れ電流)及び逆回復電流(リカバリ電流),並びにリアクトルの抵抗は無視できるものとする。
また,三相電源の内部インピーダンスも無視できるものとする。
平滑用直流リアクトルのインダクタンスを増加すると,負荷電流のリプルを低減することができる。
平滑用直流リアクトルのインダクタンスが十分に大きいとすると,ダイオード整流器の交流入力電流波形は,通電期間が 120 [°] の方形波になる。
線間電圧実効値が 200 [V],50 [Hz] の三相電源にダイオード整流器を接続した場合,負荷の直流電圧は約 270 [V] となる。
一方,図 1-2 のように三相電源とダイオード整流器との間に交流リアクトルを接続した場合には,交流リアクトルがない場合と比べて,各ダイオードが逆阻止状態になる時刻に遅れが生じ,重なり角が発生する。
このとき,交流入力電流は台形波状となり,基本波力率は低下するが,高調波ひずみ率は減少する。
また,交流リアクトルを接続しない場合と比べて,負荷電圧の電圧変動率は増加する。各相に 1 [mH] の交流リアクトルを接続したとき,負荷電流が 100 [A] 流れたとすると,負荷電圧は約 30 [V] 低下する。
三相サイリスタ整流器
図 1 には三相サイリスタ整流器を,図 2 には三相ダイオード整流器に降圧チョッパを接続した回路を示す。
ともに直流電源を得る回路である。交流電源は線間電圧実効値を $V$ とする三相対称交流電源であり,電源のインピーダンス及びパワー半導体デバイスなどの回路要素のオン電圧,抵抗分は無視できるものとする。
三相サイリスタ整流器の出力直流電圧平均値 $V_\text{d1}$ は,サイリスタの制御遅れ角を $\alpha$ [rad] とすると,次式となる。
\[ V_\text{d1} = 1.35 V \cos{\alpha} \]
正の電圧 $V_\text{d1}$ は,制御遅れ角 $\alpha$ を $0 \le \alpha \le \frac{\pi}{2}$ の範囲で制御することにより,変化させることができる。
一方,三相ダイオード整流器の出力直流電圧平均値 $V_\text{d2}$ は,サイリスタとダイオードとのターンオン動作の違いから,① 式において $\alpha = 0$ [rad] としたときの電圧に等しい。交流電源の電圧に変動がなければ電圧 $V_\text{d2}$ は一定である。さらに,後段の降圧チョッパの通流率を制御することにより,降圧チョッパの出力直流電圧平均値 $V_\text{d3}$ を変化できる。通流率を $d$ とすると,電圧 $V_\text{d3}$ は次式となる。
\[ V_\text{d3} = d \cdot V_\text{d2} \]
したがって,図 1,図 2 のいずれの回路でも電圧制御ループを組むことにより,たとえ交流電源の電圧が変動したときでも,負荷の電圧を一定にできる。
参考文献
- 令和5年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問3「サイリスタを用いた三相整流器」
- 令和5年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問4「直流電源を得る回路」
- 平成23年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問3「三相ブリッジダイオード整流器の動作」