目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

電池電力貯蔵設備

電池電力貯蔵設備は,需要家の負荷平準化,緊急時のバックアップ電源などに用いられてきたが,近年は再生可能エネルギー発電の出力変動に対応するための送電系統の周波数制御に用いる実証試験等も行われるようになった。

そこでは,電極活物質などが異なる様々な二次電池*1が用いられている。

二次電池には,その酸化剤・還元剤や電極材料などの組合せで数多くの種類があり,代表的な二次電池としては,鉛電池,ナトリウム・硫黄電池,リチウムイオン電池ニッケル水素電池レドックスフロー電池がある。

電力用蓄電池の効果

工場やビルの電力需要側に電力用蓄電池が設置される場合があるが,この電力用蓄電池の効果は,以下のとおり。

  • 非常用電源としての活用
  • 瞬時電圧低下対策
  • 電気料金の安い夜間電力の活用
  • 契約電力を下げることによるコスト削減
  • ピークカットによる電気設備の軽減

鉛電池

鉛電池は,1859 年,フランス人のガストン・プランテの発明による二次電池で,長い歴史をもち,自動車の始動用を始め,多くのところで利用されている。

鉛電池は,蓄電容量を示す kWh で見た場合の単価が比較的安く,一部では太陽光発電と組み合わせる用途でも用いられている。

一般的なスマートグリッド設備は,20 年程度の寿命をもつのに対し,鉛電池は 5 ~ 7 年の寿命である。

ナトリウム・硫黄電池(NAS 電池)

ナトリウム(Na)と硫黄(S)を使った蓄電池で,1967 年にアメリカ合衆国のフォード自動車が基本原理を開発したものである。

東京電力日本ガイシが系統用蓄電池として,1984 年から開発し,2002 年に実用化した。

日本ガイシのホームページによると,マイクログリッドや電力ユーザなど世界 250 箇所以上の稼働実績がある。

NAS 電池は当初,夜間の電力を貯蔵し,昼間に放電することで,安価な夜間電力を有効活用し,一日の電力負荷のピークをカットする負荷平準を主な用途として開発された。

鉛蓄電池に比べると,体積と重量が 3 分の 1 なので,限られた敷地で大容量の蓄電施設が実現できる。

NAS 電池は,二次電池の中では比較的,理論エネルギー密度が高いなどの特長を有している。同電池では,円筒形状の単電池を断熱容器に格納し,正極・負極活物質を溶融状態に保つため 300 °C 程度に保つ。このためヒータの消費電力量が大きくならないような運用形態で使用することが望ましい。

ナトリウム・硫黄電池の特徴

  • ナトリウムや硫黄といった主要構成材料が資源的に豊富なことから,量産化によりコストダウンが可能
  • 鉛電池の約 3 倍の高エネルギー密度
  • 充放電効率が高く,自己放電がないため効率的に電気が貯蔵可能
  • 4 500 回の充放電が可能で,長期耐久性に優れる
  • 高温作動型電池のためヒータが必要(300 °C 程度)
  • ナトリウムと硫黄といった消防法の危険物に指定されている材料を使用しているため,取扱いに注意を要する。

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リチウムイオン電池

電解質として有機溶媒電解液等を用いたリチウムイオン電池lithium-ion battery)*2は,二次電池の中では充電効率が比較的高く,常温動作であるなどの特長もあることから,電気自動車用も含めた様々な用途で利用が進んでいる。

この電池は,公称電圧が約 3.7 V の高性能電池である。

正極にはコバルト酸リチウムなどのリチウム遷移金属酸化物,負極にはカーボン,電解質には高い電圧でも分解しない有機物系の材料を用いる。

一般的に電解質には炭酸エステル系の有機電解液を用いる。

この電池の電極反応ではリチウム自体は酸化還元せず, +1 価のリチウムとして存在するため,リチウムが価数変化して酸化還元するリチウム二次電池とは区別される。

また,エネルギー密度が高く,発火などの危険性も高いため,温度が高くなると外部回路の PTC(Positive Temperature Coefficient)素子及び電極間のセパレータが電流を遮断するなどの安全対策が施されている。

放電時には,正極の活物質が還元して電解質中のリチウムイオンが取り込まれ,同時に負極のカーボンにインターカレーションしているリチウムイオンが放出される。

大きな出力が必要な場合,通常より大電流放電されるが,この時のセル電圧は公称電圧より低い。

電池は応用システムの電流や電圧の要求に従って直並列に接続した電池システムとして用いられる。

ある電池の重量エネルギー密度が 175 W・h/kg であり,平均電圧 3.5 V で 500 mA での放電を 10 h 行えるとすると,この電池の重量は約 100 g となる。

リチウムイオン電池は,ナトリウム・硫黄電池に比べ C レート*3を高くとることができるため,比較的小さい電池容量 [kW·h] で大きな出力 [kW] を得ることができる。

リチウムイオン電池の特長

リチウムイオン電池の基本構成材料及び電池反応原理に基づき,発揮されるリチウムイオン電池の特長は次の通り。

高起電力・小型・軽量化

非水系電解液のため 4 V 以上の起電力が得られ,エネルギー密度の大幅な向上,すなわち二次電池の小型・軽量化が実現した。

水系電解液電池では 1.5 V 前後の起電力である。

低自己放電率

原理的に化学的変化を伴わない電池反応に基づくため,副反応による劣化がなく優れたサイクル性,保存特性等の長期安定な電池特性が実現した。

環境性

他の二次電池のような Cd,鉛等の有害物質を含まない。

メモリ効果がない

ニッケル系電池の短所であるメモリ効果(浅い充放電を繰り返すと容量が減少する)がない。

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ニッケル-水素化物電池(ニッケル水素電池

二次電池の一つであるニッケル-水素化物電池は,水酸化ナトリウムなど強アルカリ濃厚水溶液を電解液とした二次電池であり,負極に金属水素化物,正極にオキシ水酸化ニッケルを用いるアルカリ蓄電池の一種である。金属水素化物に LaNi5H6 を使用したニッケル-水素化物電池の電極反応は以下のように書ける。

負極 1/6LaNi5H6 + OH- ↔ 1/6LaNi5 + H2O + e-

正極 NiOOH + H2O + e- ↔ Ni(OH)2 + OH-

ここで,この電極反応式の左向きに進む反応が充電である。

電池の構成としては,正極負極間の距離を短くするとともに短絡を防止するためにセパレータが設けられる。

電池の容量はファラデーの法則に従い活物質量に比例する。900 mA·h の容量に必要な理論的な活物質量は 5.54 g である。

今,公称電圧 1.2 V,容量 900 mA·h のニッケル水素化物電池の全体質量が 13 g であるとき,重量あたりの電気エネルギー容量は 83.1 mW·h/g である。

なお,原子量はそれぞれ H = 1.01,O = 16.0,Ni = 58.7,La = 139,ファラデー定数は 26.8 A·h/mol である。

三洋電機の「エネループ」がニッケル水素電池である。

ハイブリッド車であるトヨタプリウスにも搭載されている。

爆発などの危険性がなく,安全性ではリチウムイオン電池よりも優れている。

レドックスフロー電池

レドックスフロー電池(redox flow battery)は,二次電池の一種で,イオンの酸化還元反応を溶液のポンプ循環によって進行させ,充電と放電を行う。

redox は,reduction-oxidation reaction の短縮形である。

1974 年,NASA が基本原理を発表し,1980 年代に研究が進んだ。

現在,実用化されているのは,バナジウム電池である。

重量エネルギー密度が低く,小型化には向かない。

一方,サイクル寿命が 1 万回以上であり,実用上,10 年以上利用できる。

さらに構造が単純で,電解質タンクの大きさを増すことで電池容量 [kW·h] を増大できるなどの特長を有し,送電系統用として使用されている。

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レドックスフロー電池陽イオン交換膜を用い,硫酸酸性でバナジウムを含む水溶液電解質を正極,負極それぞれ供給し,放電時に正極では 5 価バナジウムが還元,負極では 2 価バナジウムが酸化される。

充電時には正極でバナジウムが酸化,負極でバナジウムが還元される。

回路電圧は約 1.4 V である。

充電中には,負極のバナジウムの還元反応と並行して,硫酸酸性の水溶液が分解して水素が発生すると,放電に必要な 2 価バナジウムが生成しないため,充放電のエネルギー効率の損失につながる。

各種指標

これらの装置を電力貯蔵装置として選定する際には,上記の設置目的に応じてその性能を表す指標を考慮する必要がある。

利用可能なエネルギー量

その単位は通常キロワット時やアンペア時で表示される。

入出力時のパワー

単位はキロワットである。ただし,電池ではこのパワーを示す量として,C レートが用いられることがある。C レートは,電池の定格容量の 1 時間で放電あるいは充電し終える電流値を基準としてその倍数で表し,これが大きいことは電池の単位容量当たりのパワーが大きいことを意味する。

総合効率(充放電効率)

電池への入力エネルギーを分母とし出力エネルギーを分子とした総合効率も重要であり,充放電効率とも言われる。

この効率では,日間の需給調整に利用するような比較的長時間の待機状態を含む場合には,その間の損失も重要となる。

この損失には,自己放電による損失や,ナトリウム硫黄電池での 300 °C 程度の高温を保持するための損失などが含まれる。

SOC

二次電池を運用するにあたっては,過充電,過放電を避けつつ電池容量を有効に利用するため,満充電時に対する充電状況を比率で表した SOC*4 を適切に管理する必要がある。SOC の推定方法は電池種別により異なるが,例えば電池の開回路電圧を用いて推定するなどの方法がある。

参考文献

[rakuten:king-depart:10002869:detail]

スマートグリッドと蓄電技術

スマートグリッドは電力の流れを需要・供給の双方向から最適化するものである。

スマートグリッドは分散された電源や蓄電池,センサデバイスなどで構成されるが,「スマートグリッドと蓄電技術」では蓄電技術に着目してエネルギーマネジメントから説明される。

更新履歴

  • 2021年11月4日 新規作成
  • 2021年11月22日 用語解説を追加
  • 2021年12月19日 参考文献に「令和2年度 第二種 電気主任技術者試験 一次試験 機械 問4」を追加
  • 2021年12月31日 参考文献に「平成28年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問4」を追加
  • 2022年1月8日 参考文献に「平成27年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問7」を追加
  • 2022年3月5日 参考文献に「スマートグリッドと蓄電技術」を追加
  • 2022年10月17日 参考文献に「平成25年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問6」を追加
  • 2023年8月26日 参考文献に「令和5年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問7」を追加
  • 2023年12月31日 NAS 電池の説明に追記

*1:放電過程では内部の化学エネルギーが電気エネルギーに変換されるが,放電時とは逆方向に電流を流すことで,電気エネルギーを化学エネルギーに変換して「充電」という蓄積が可能な電池であり,一般には「蓄電池」や「充電式電池」と呼ばれる。

*2:正極と負極の間をリチウムイオンが移動することで充電や放電を行う 2 次電池。電極材料にはさまざまなものが使われるが,正極に炭素(グラファイト),負極にコバルト酸リチウムを用いることが多い。正極板と負極板をセパレータで挟んで何層も積み重ね,全体を有機溶媒の電解質で満たした構造になっている。(出典)電気事業講座 電気事業辞典

*3:C レートとは,充電及び放電のスピードのことである。定電流充放電の場合,電池の理論容量を 1 時間で完全充電(または放電)させる電流の大きさを 1 C と定義する。放電時の C レートは放電レート,充電時の C レートは充電レートである。

*4:SOC は State Of Charge の略で,充電率または充電状態を表す指標である。満充電状態を 100 %,完全放電状態を 0 % と定義する。