目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

電力系統の短絡容量

同期発電機の増加や送電線の新増設等により,系統容量(system capcity)*1の増大や系統連系が密になることによって,系統事故発生時の短絡電流short circuit capacity)が大きくなる。

図 リアクタンス

図 リアクタンス

短絡容量とは

短絡容量short circuit capacity,三相短絡容量)とは,電力系統における三相短絡故障時に故障点に流入する仮想的な電力で $\sqrt{3}\times V \times I$ で計算できる。

ただし,$V$ は定格線間電圧,$I$ は短絡電流である。

短絡容量の増加

短絡容量が大きい場合,遮断器の遮断容量を大きくする(すなわちコストアップ),送変電機器の損傷増大,周辺通信線への電磁誘導障害が考えられる。

電力系統の短絡容量が増大する主な原因

電力系統の拡大に伴い短絡容量は増大する。

それは,需要の増加に合わせて電源が増強されること,供給信頼度を向上させるために送電線をループ接続したり,複数台の変圧器を並列運転することにより,低インピーダンスとなるためである。

電力系統連系のメリット

  • 負荷の不等性によるピーク負荷の低減が図れ,供給設備の稼働率が向上する。
  • 河川流量の不等性による常時供給力の増加を図ることができる。
  • 発電設備の大容量化が図れ,経済的な電源開発が可能となる。
  • 供給予備力の共有化が図れ,予備力の節減ができ,電源開発量の節約ができる。
  • 火力・水力・原子力発電の経済運用が容易となり,燃料費の節減が図れる。
  • 火力・原子力発電の補修などの調整が容易となる。
  • 常時および事故時の周波数変動・電圧変動率が少なくなる。また,送電損失が減少する。

短絡容量増大により生じる問題

短絡容量増大により,次のような問題が生じる。

  • 遮断器の遮断容量が増加する。
  • 遮断器,断路器,母線,送電線路など短絡・地絡電流による電磁機械的強度と,架空地線,接地線など地絡電流による熱的強度の確保が必要となる。
  • 中性点直接接地系統においては,地絡電流も増加するので,近傍の通信線への電磁誘導電圧が増加する。

electrical-engineer.hatenablog.jp

短絡容量増大の対応

短絡容量増大の対策としては,短絡容量の増大を許容し,設備側の耐力を高める対策と短絡容量を抑制する対策の二つがある。

系統安定度や電圧安定性の面からは短絡容量増大の許容が望ましいが,使用している設備の耐量や通信線側の誘導対策面からおのずと限界があり,次のような対策をとる。

  1. 発電機,送電線,変圧器のインピーダンスを大きくする。
  2. 送電線や母線間に限流リアクトルを設置する。
  3. 系統間を直流設備(交直変換装置),例えば BTB(Back to Back)で連系し,系統の分割。
  4. 変電所の母線分離による系統構成の変更。
  5. 現在採用されている電圧より上位の電圧の系統を作り,既設系統を分割する。

短絡容量抑制対策として,系統分割をせずに実施する対策(上記の 1,2)あるいは,系統分割をする対策(上記の 3,4,5)が必要に応じて実施される。

遮断器の定格遮断電流の格上げ

局所的には遮断器の定格遮断電流の格上げなどで対応するが,電圧階級ごとに遮断できる電流値には技術的限界がある。

日本の一般送配電事業者は,定格遮断電流を一定値以下(例えば,500 kV 系統は 63 kA,275 kV 系統は 50 kA 以下)に抑えることを目標としている。

遮断容量(breaking capacity)

開閉機器が規定の使用条件および動作状態のもとで,ある所定の電圧において遮断し得る固有遮断電流値。

electrical-engineer.hatenablog.jp

上位の電圧系統を採用

短絡容量増大の抜本対策としては,次期最高電圧を導入して,従来の系統を分割する方法が最も望ましい。

具体的には,系統安定度と短絡容量のトレードオフが限界に達するところで昇圧が必要になる。

なお,公称電圧(66 kV 以上)のラインナップは,大きい順から,500 kV,275 kV,220 kV,187 kV,154 kV,110 kV,77 kV,66 kV である。

わが国の現行の最大許容値としては,一般送配電事業者により異なるが,500 kV 系統で 63 kA または 50 kA,275 kV 系統で 50 kA を採用している。

系統分割(分離)方式の採用

変電所の母線を分割したり,あるいは送電線のループ回線数を減らして,系統のインピーダンスを増加させることによって,短絡電流を抑制する方法である。

系統分割方式

常時母線を分離しておくもので,対策上もっとも有効な方法であるが,系統を常に分割するため安定度が劣り,設備利用率の低下や損失の増加を招き,系統連系のメリットが失われる。

図 系統分割方式

図 系統分割方式
系統分離方式

常時は母線を併用,系統を連系した状態で運用し,事故時に母線を分離,系統短絡容量を抑制した後,事故点の遮断器を開放する方式である。

下図において,事故時は,遮断器 CB1 の遮断を行った後,遮断器 CB2 の遮断を行う。

図 系統分離方式

図 系統分離方式

インピーダンス機器の採用

変圧器や発電機のインピーダンスを高くして短絡電流を抑える方法である。

変圧器,発電機などのインピーダンスを高くすることは,系統短絡容量を抑制する効果は大きい上,機器の縮小化,制作費の低減などの面からも利点がある。

インピーダンスをある以上に高くすると設計が特殊となり,機器代が高くなる。

また,無効電力損失を増加させるばかりでなく,系統の安定度低下,電圧変動の増大などを招くこともある。

直列リアクトル(限流リアクトル)

短絡容量抑制のため系統インピーダンスを高める方法として,限流リアクトル(current limiting reactor)を使用することがある。

その使用方法には送電線に直列にリアクトルを挿入する直列リアクトル方式と,変電所の母線を分離して,その間に挿入する分離リアクトル方式とがある。

直列リアクトル方式ではリアクトルに常時電流が流れるため,無効電力損失,電圧,安定度等の面で不利な点も多く,ほとんど分離リアクトル方式が採用されている。

直流連系による交流系統の分割

短絡電流の多くは無効電流である。

直流送電線は無効電力を運ばないので,直流連系によって交流系統相互間を分割しておけば,短絡容量を抑制することができる。

ただし,設備コストの増加や,系統構成によっては同期安定性や電圧安定性の低下に繋がる可能性があることから,これらの点を考慮する必要がある。

オーム法による三相短絡故障計算

故障点から電源側をみた短絡インピーダンスを求める際にオーム値で求め,計算する方法である。

いま,短絡点の故障前の線間電圧を $V$ [kV],短絡点から電源側をみた短絡インピーダンスを $Z_\text{s}$ [Ω] とすれば,故障点の短絡電流 $I_\text{s}$ [kA] および短絡容量 $P_\text{s}$ [kVA] は,次式で求められる。

\[ I_\text{s}=\frac{V/\sqrt{3}}{Z_\text{s}} \text{ [kA]} \] \[ P_\text{s}=\sqrt{3}V \times I_\text{s} \text{ [kVA]} \]

上式より短絡電流を低減するためには,線間電圧を大きくする(上位の電圧系統を採用),短絡インピーダンスを大きくする(発電機,送電線,変圧器のインピーダンスを大きくする)方法がある。

一方,電力系統の短絡容量は 3 × 基準電圧(相電圧) × 三相短絡容量によって計算する。

電力系統の短絡容量 $P_\text{S}$ [MV・A] は,単位法における基準容量を $P_\text{B}$ [MV・A],故障点からみた電源側の % インピーダンスを とすると,$\displaystyle \frac{100} {\% Z_\text{S}}\times P_\text{B}$ によって計算され,電力系統に連系する同期発電機の減少に対して短絡容量は小さくという関係にある。

電圧維持能力を表す目安

複数母線系統では,一般にノードインピーダンス行列の駆動点インピーダンス要素として得られる。

この $Z_\text{S}$ は,系統規模が大きく,また系統がメッシュ状であるほど小さいため,そうした系統では短絡容量は大きくなる。

これらの特徴から,短絡容量の大小はその地点近傍の電圧維持能力を表す目安としても用いられる。

電力系統の安定度

電力系統の安定度を一機無限大母線系統の動揺方程式である次式で考える。

\[ M\frac{d^{2}\delta}{dt^{2}} = P_{M} - \frac{V_{0}V_{G}}{X}\sin\delta \]

上式の $V_0$,$V_G$ はそれぞれ無限大母線電圧及び発電機内部電圧の大きさ,$\delta$ は両者の相差角,$M$ は発電機の慣性定数であり,右辺第1項の $P_M$ は発電機への機械入力,第2項は電気出力である。

過渡安定度解析で用いられる最も簡単な発電機モデルは過渡リアクタンス背後電圧一定モデルであるが,その場合,上式の $X$ は送電線,変圧器などのリアクタンスと発電機の過渡リアクタンスの和である。

上式で考えると,定態安定極限電力は $\frac{V_0 V_G}{X}$ であり,そのとき $\delta = \frac{\pi}{2}$ [rad] である。機械入力 $P_\text{M}$ が定態安定極限電力より小さいとき,発電機の入出力が等しくなる $\delta$ は 2 点あり,$\delta \lt \frac{\pi}{2}$ [rad] の点は電気出力を $\delta$ で微分した同期化力係数が正で安定平衡点,$\delta \gt \frac{\pi}{2}$ [rad] の点は同期化力係数が負で不安定平衡点と呼ばれる。

後者の運転状態では定態安定度が不安定となる。安定平衡点にあった発電機が何らかの外乱で加速され,$\delta$ が不安定平衡点より少しでも大きくなると発電機は脱調する。

electrical-engineer.hatenablog.jp

参考文献

  • 電気専門用語集(WEB 版)
  • 電気事業講座 電気事業辞典
  • 令和5年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4「電力系統の短絡容量と,この計算に関係するインピーダンス
  • 令和2年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3「電力系統の短絡容量」
  • 令和元年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3「電力系統の短絡容量」
  • 平成25年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4「電力系統の短絡容量」
  • 平成19年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問6「短絡容量の増大」
  • 平成18年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3「電力系統の安定度」
  • 平成12年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問5「電力系統を連系するメリット及び短絡容量の増大に対する抑制効果」

更新履歴

*1:系統容量(system capcity)とは,電力系統の規模を示すもので,その電力系統に並列されている発電機の発電端電力の合計。