目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

電力系統用の遮断器

遮断器は,平常時の電力の送電および停止の際に負荷電流を開閉するために用いられており,送配電線や発変電所内の機器に短絡・地絡が発生した際は故障電流を遮断するために用いられる。

電気学会の用語では,次のように定義される。

遮断器(circuit-breaker)は,常規状態の電路のほか,異常状態,特に短絡状態における電路をも開閉し得る開閉機器である。

遮断器の原理

電力系統に故障が発生すると,保護リレーからの指令により該当する遮断器を開放し,故障点を切り離す。

遮断器が故障電流を遮断する場合,アークエネルギーが極小となる電流零点で遮断が行われる。

このとき,遮断器の極間には回路遮断時の過渡現象により急激な過渡回復電圧がかかるため,遮断成功に至るためにはこの電圧よりも絶縁耐力回復特性が上回っていなければならない。

TEPCO が公開している遮断器の原理の動画を以下に示す。


www.youtube.com

遮断器の引外し機能と目的

遮断器において保護リレーからの事故除去指令を受ける箇所の名称は,引外しコイル(トリップコイル)である。

引外しコイルが持つ引外し自由(トリップフリー)の機能は,引外しコイルと投入コイルが同時に付勢されたとしても,投入動作と無関係に自由に引外される機能のことである。

投入動作と事故が同時に発生した場合に開放を優先し,投入・解放を繰り返さないことにより遮断器の損傷・大事故を防ぐ目的で用いられる。

遮断器の消弧作用

交流遮断器におけるアークの消弧は,遮断行程中に接触子の開離によって発生するアークの冷却と,アーク電流遮断後の極間の絶縁耐力の回復によって達成される。

このアークの冷却と絶縁耐力の回復の促進には,次のような種々の方法が単独あるいは組合せで用いられている。

  1. アークからその周辺のイオン密度の低い部分に向かってイオンや電子を拡散させる(拡散効果)。
  2. アーク跡に新鮮な気体又は液体を吹き付けて,極間に残存する物質を新しい物質に置換する(置換効果)。
  3. アークの周囲の消弧媒質を高圧にして,熱伝導による冷却効果及び消弧媒質の絶縁耐力を向上させる(加圧効果)。
  4. アークにより電離されたガスの導電率を,冷却及び電子の吸着によって下げる(冷却効果)。
  5. アークを絶縁物の狭い空間に押し込み,その壁面でイオンや電子を中和する(壁面効果)。

遮断器は,アークを限定された領域に制限し制御するために,通常,接触子を消弧室に収納し,その内部を油,空気,六ふっ化硫黄ガスなどで満たしているか,又は高真空にしている。

交流遮断器の主要性能

交流電路に使用する遮断器である,交流遮断器(AC circuit-breaker)の主要性能を以下に示す。

絶縁性能

遮断器は,適用する電圧階級に応じて,発生する商用周波数電圧および衝撃電圧に十分耐える絶縁性能を有する必要がある。

JEC ではその遮断器に課することのできる使用電圧(実効値)の上限を定格電圧とし,定格電圧ごとに商用周波耐電圧,雷インパルス耐電圧および開閉インパルス耐電圧の性能を定めている。

開閉インパルス耐電圧性能は,定格電圧 550 [kV] の遮断器のみ規定される性能である。

定格電圧の標準値は,常時の系統電圧の変動を考慮し,公称電圧の 1.2/1.1 倍としている。(例えば,公称電圧 66 kV に用いられる遮断器の定格電圧は,66 kV × 1.2/1.1 = 72 kV となる。)

電流容量

遮断器は,常時に流れることがありうる最大電流に対し規定の温度上昇限度を超えず連続して通電できなければならない。

JEC ではこれを定格電流と称し,系統電圧変動や将来の負荷電流増加を考慮して選定しなければならない。

具体的には,変圧器・送電線の過負荷使用に支障のないように選定する。

定常及び過負荷運転時

遮断器の定格運転中に連続的に流れる電流の許容値は,「定格電流」で表される。

例えば,500 [kV] や 275 [kV] の送電線用遮断器では 2 [kA] から 8 [kA] である。

過負荷時の遮断器の電流容量は,直前の通過電流が定格電流以下であれば,短時間の過負荷は可能である。

この際,遮断器の温度上昇の時定数は,油入変圧器に比べると小さく,直列機器として許容できる過負荷電流及び時間は,遮断器で決まるので,遮断器の定格電流は,油入変圧器などの過負荷運用の支障にならないように選定することが必要である。

系統事故時において,遮断器に流れる電流の許容値

系統の短絡や地絡事故時に流れる事故電流の許容値は,遮断器などの直列機器では「定格短時間耐電流」で表される。

事故継続時間中,閉路している遮断器も含めて,直列機器は定格短時間耐電流に耐えなければならない。

定格短時間耐電流は,定格遮断電流と同じ値が標準として規定される。

例えば,500 [kV] や 275 [kV] では,50 [kA],60 [kA] が多く採用されている。

また,継続時間は,最終段保護による事故除去時間も考慮し,2 秒と規定している。

特に直接接地系では,地絡や短絡事故時には事故電流が大きく,変圧器巻線などへ大きな電磁力が発生することから,事故除去が遅れると過熱損傷の恐れがある。

このため,保護・制御装置の信頼度向上を図り,遮断器による確実かつ早期の事故除去により,事故の局限化を図る必要がある。

短絡発電機を用いた短絡試験

故障(事故)電流を流す試験のうち,遮断器の遮断試験,故障電流の通電試験について述べる。

これらの試験は,通常,短絡発電機を用いて大電力試験所で行われる。

短絡時には電圧はゼロとなるので,試験電圧は回路に電流を流すことができれば良く,試験回路のインピーダンスやアーク抵抗の値で決まり,必要な場合,短絡変圧器を介して電圧が調整される。

ただし,遮断器の試験の場合には,遮断と同時に極間に電圧を印加して検証する必要があり,一般的には合成短絡試験が行われる。

遮断・投入性能

遮断性能,投入性能は,遮断器の最も重要な性質の一つである。

定格遮断電流は,すべての定格および規定の回路条件のもとで標準動作責務に従って遮断することのできる電流の限度である。

定格投入電流も,同様の条件で規定されている。

標準動作責務は,事故遮断後の再投入,再遮断など実使用で想定される一連の動作を考慮したものであり,一般用と高速再閉路を行う場合に採用する高速度再投入用がある。

回路条件には,回路電圧,電流,力率などがある。

遮断電流としては,地絡・短絡電流のほか,進み小電流遮断,近距離線路故障遮断(定格電圧 72 [kV] 以上で架空送電線に直接接続される場合),脱調遮断(必要により指定),遅れ小電流遮断,異相地絡遮断(定格電圧 168 [kV] 以下)などがある。

抵抗投入や抵抗遮断方式の場合は,開閉サージ抑制性能も要求される。

遮断する電流や遮断後に遮断器の極間にかかる電圧は,電力系統や故障点によって異なるため,これらを踏まえた遮断性能を有する必要がある。

特に厳しい責務が要求されるのは,以下のケースである。

端子短絡故障(BTF : Breaker Terminal Fault)

遮断器の設置箇所付近で故障が発生した場合の遮断で,大きな故障電流を遮断した際に過渡的な高い電圧が発生する。

変電所の構内など遮断器近傍で発生した地絡及び短絡故障電流を遮断する性能を,端子短絡故障(BTF)遮断性能という。

近距離線路故障(SLF : Short Line Fault)

遮断器から数キロメートル離れた架空送電線で故障が発生した場合の遮断で,遮断器と故障点の間の進行波の往復反射により高い電圧が発生する。

変電所に近い距離の架空送電線で発生した短絡故障を遮断する性能を,近距離線路故障(SLF)遮断性能という。

近距離線路故障電流遮断時には,電流遮断後の過渡回復電圧は端子短絡故障(BTF : Breaker Terminal Fault)に比べ低いが,開放状態にある遮断器線路側端子と地絡点との間の線路上で往復反射現象を起こすため,遮断器極間には電源電圧のほかに,この往復反射現象による三角波形の電圧が印加される。

このようにして発生した過渡回復電圧の,特に初期の部分の立ち上がりが急峻であり,遮断器極間の絶縁回復速度との競合という面から見て,遮断条件は,非常に厳しいものとなる。

進み小電流遮断

無負荷送電線や電力用コンデンサの充電電流など進み電流を遮断するとき,再点弧すると,異常電圧が発生する。

進み電流遮断時には,電流の自然零点で電流が遮断されるが,線路側に対地電圧の最大値に近い充電電圧が残る。

これに対して電源側は電源電圧によって変化し,電流遮断後 1/4 サイクル以後は線路側電圧と逆極性になり,遮断器の極間電圧は遮断器両側電圧の絶対値の和で上昇する。このとき,その電圧が極間の絶縁回復の程度を上回ると極間に再びアークがつながり,振動電圧が生じ,これが常規電圧の 3 倍程度の異常電圧となる。

なお,理論上は振動の途中の零点で遮断され再点弧をする,いわゆる高周波消弧に伴う再点弧を繰り返すと,さらに高い電圧になる。

つまり,遮断器には再点弧しないよう責務が課される。

遅れ小電流遮断

変圧器励磁電流の遮断時や高電圧電動機の無負荷電流を遮断するとき,電流さい断現象によって電流の自然零点をまたないで電流を遮断し,負荷側に異常電圧を生ずる。変圧器の励磁電流等の遅れ小電流を消弧力の強い遮断器で遮断すると,電流さい断によって電流変化率 $\displaystyle \frac{\text{d}I}{\text{d}t}$ に比例した異常電圧が発生する。

遮断器の種類や変圧器の中性点接地方式によっても異なるが,異常電圧の大きさは最大でも常規対地電圧の 5 倍程度となり,遮断器には,この遮断責務が課せられる。

脱調遮断性能

遮断器は,故障点をはさむ両系統が同期状態をはずれ,両系統の電圧ベクトルが最大 180 度の位相差を生じた状態で,遮断できる性能を持つことが必要である。

この遮断性能を脱調遮断性能という。

調相設備用

調相設備用遮断器の特徴は,一般の負荷に比べて開閉頻度が高いこと,及び,開動作時に遮断器極間に発生する過渡回復電圧の様相が一般の負荷遮断と異なることである。

電力用コンデンサ

電力用コンデンサを開放するときには,コンデンサ回路の残留電圧と電源電圧との関係によって,最初の電流遮断後 1/2 サイクルの時点で,開閉器極間の定常対地電圧波高値の約 2 倍の過渡過電圧が現れる。

このとき,再点弧を起こすと高いサージ電圧が発生する場合がある。

また,コンデンサ投入時には,回路の定数で決まる固有周波数の突入電流が流れるので,これを抑制するために直列リアクトルが設置される。

分路リアクトル用

分路リアクトルを開放するときには,リアクトル回路の遅れ小電流を電流遮断能力の高い遮断器で遮断すると,電流裁断により高い過渡回復電圧が発生する場合がある。

遮断時間

定格遮断時間は規定の標準動作責務に従って遮断する場合の遮断時間であり,遮断器の引外し制御装置が付勢されてからすべての極の電流が遮断されるまでの時間である。

定格周波数を基準としたサイクルで表し,2,3,5 サイクルのものがある*1

機械的強度

遮断器は,操作時の衝撃的な荷重や短絡・地絡電流による電磁力・風圧・地震力などに耐える十分な強度を有する必要がある。

定格短時間耐電流は,その電流を 2 秒間遮断器に通じても異常の認められない電流をいい,その遮断器の定格遮断電流と等しい値を標準としている。

遮断器の試験

遮断器は,電力系統の系統電圧が印加された状態で遮断・投入の動作を行うことから,形式試験では事故電流を遮断・投入することが要求されている。

遮断性能を満足していることを確認する試験(遮断試験)では,事故電流を流すため,短絡発電機を用いて試験が行われる。

しかし,短絡発電機と短絡変圧器を電源とした検証(直接試験)には設備上の限界があり,電圧の高い遮断器の試験の場合は,遮断電流は電流源回路である短絡発電機で供給するが,回復電圧は別に用意した電圧源回路から,電流遮断と同時に極間に電圧を印加する合成試験が行われる。

交流遮断器の種類

交流遮断器の種類としては,油遮断器,水遮断器,磁気遮断器,気中遮断器,空気遮断器,ガス遮断器および真空遮断器などがある。

交流遮断器には,高性能,高信頼性,経済性に加え小形化,保守省力化などの要素も要求される。

従来用いられてきた空気遮断器は動作時の騒音が大きいこと,油遮断器は油劣化に対する点検などの課題があり,これらの問題を解決できるものとしてガス遮断器や真空遮断器が開発された。

交流遮断器の歴史的な経過

交流遮断器の歴史的な経過としては,電圧の上昇,大容量化に伴い油遮断器,空気遮断器,磁気遮断器などが開発され,近年 66 kV 以上では,ガス遮断器や真空遮断器が主流となっている。

油遮断器(OCB : oil circuit-breaker)

油遮断器とは,電路の開閉が油中にて行われる遮断器である。

油遮断器の遮断原理は,大電流遮断を自己消弧で行い,小電流遮断をピストン作用で行う他力消弧である。

遮断器の構造としては並切り形と消弧室形がある。

並切り形は鉄タンク内の油中でくさび形など単純な接触子を開閉するもので遮断容量 100 MVA 以下に限られる。

消弧室形は消弧室と呼ばれる接触子を取り囲む構造部をもち,接触子間のアークによる油の気化を利用してアークを冷却,消弧させるもので大容量器に使用される。

油遮断器は油劣化に対する点検の課題がある。

また,火災の危険が伴うことと保守点検における省力化の点で難がある。

油遮断器 消弧室の発明

消弧室のある油遮断器の登場は,1920 年代である。

それまで,絶縁油の中の接点を開閉する油中開閉器を電圧・電流の上昇に合わせて大形化していったが,開閉器の油が爆発する事故を何回か経験した結果,接点部分を油弧室という絶縁物の小室で包む方法が発明され,開閉器から遮断器が独立した。

水遮断器(water circuit-breaker)

水遮断器とは,電路の開閉が水中にて行われる遮断器である。

磁気遮断器(MCB : magnetic air circuit-breaker)

磁気遮断器とは,開路が磁界中にて行われる気中遮断器である。

磁気遮断器の遮断原理はアークに直角に磁界を加えて引き延ばし,これを絶縁物によるギャップ内に押し込み,冷却作用または壁面による消イオン作用によって行う自力消弧である。

この遮断器の特徴は油遮断器に比べ,油を使用しないため清潔で火災の危険がなく保守が容易である。

ただし,高電圧のものは遮断時のアークが大きくなるので製作が困難で,電圧 12 kV までの低圧階級で,特に都市の配電用変電所のメタルクラッドに組み込まれる例が多い。

気中遮断器(air circuit-breaker)

気中遮断器とは,電路の開閉が大気中にて行われる遮断器である。

空気遮断器(ABB : air-blast circuit-breaker)

空気遮断器とは,電路の開路が圧縮空気を吹きつけて行われる遮断器である。

空気遮断器の遮断原理はアークに直角あるいは軸方向に圧縮空気を吹き付けて,冷却作用などによって行う他力消弧である。

遮断部は電流遮断時だけ開き,その後は断路部が開いて同相端子間の絶縁を保ち,投入時は断路部を閉じる。

空気遮断器の保守は容易で火災の危険が少ないなどの利点がある一方で,動作時の騒音が大きいことが欠点である。

ガス遮断器(GCB : gas circuit-breaker)

ガス遮断器とは,電路の開閉が六フッ化硫黄のような不活性ガス中にて行われる遮断器である。

ガス遮断器は SF6 ガス*2の優れた消弧能力,絶縁強度を利用した遮断器で,消弧原理および遮断部の構造は空気遮断器とほぼ同じであるが,空気遮断器に比べて次の特徴を有する。

  1. 多重切りの場合,遮断点数が 1/2 ~ 1/3 となるので寸法が小さくなる。
  2. 消弧に使用したガスを大気に放出しないので排気騒音が少ない。
  3. 消弧能力が優れているので小電流遮断時の異常電圧が小さい。
  4. 耐震性に優れている。

ガス遮断器の場合,遮断して電流が零値となった直後の数マイクロ秒は,極間に導電性の高い高温ガスが存在しているため,急しゅんな過渡回復電圧が加わると残留電流とよばれる微小電流がアークの存在していた空間に流れる。

この電流によって空間に注入されるエネルギーがガスの熱伝導などによる冷却能力を上回らないようにして,熱的再発弧が発生することがないようにしている。

さらにその後も極間の絶縁耐力が過渡回復電圧を常時上回ることで遮断過程が完了する。

アーク時定数が空気の 100 分の 1 以下という顕著な特性(優れた消弧能力)を利用して,極めて優れた遮断性能を実現しており,今日製作されている遮断器の主流になっている。

しかし, SF6 ガスは 1997 年の気候変動枠組条約締結国会議において,温室効果ガスに指定されたため,今日では代替物質の開発やガスを全く使用しない機器の実用化に向けた研究が進められている*3

ガス遮断器には高圧ガスを遮断の際,接触子間に吹き付け,低圧容器に回収する複圧式(ブラスト式)と,接触子の動作に直結したシリンダとピストンからなる圧縮装置で,遮断時に高圧ガスを作り,接触子間に吹き付ける単圧式(バッファ式)の 2 種類がある。

近年は,解析・シミュレーション技術の向上により,高温のアークによる熱膨張作用を活用する方式(自力形と呼ばれる)が主流となりつつある。

自力形遮断器では,従来は一つであった昇圧室を自力室と圧縮室の二つに分け,熱膨張による大きな圧力上昇が圧縮室のピストンに過大な反力として掛からないように工夫されている。

二重圧力方式

二重圧力式は,1.5 [MPa] 程度の SF6 ガスが封入された高圧ガス室と低圧ガス室を有し,高圧ガス室には吹付弁が,低圧ガス室には可動接触子と高圧ガス室に連接したノズル状固定接触子が収納されている。

遮断動作時,接触子を開くと同時に吹付弁を開いて,高圧ガス室のガスをアークに吹付けて消弧する。この方式は,ガス圧縮機が必要である,高圧ガスの液化を防止するために冬季にヒータで加熱する必要があるなどの欠点がある。

パッファ式

パッファ式は,0.5 [Mpa] 程度のSF6 ガスを満たした消弧室内に,固定接触子,可動接触子とともにシリンダとピストンが収納されており,遮断動作時,ピストンを連動させてガスを加圧し,この高圧ガスをアークに吹き付けて消弧する。

この方式は,構造が簡単で保守が容易であるなどの特長があり,GIS(密閉形開閉装置)の普及と相まって急速に発達した。

ガス遮断器の構造

ガス遮断器の構造には,がいしで遮断器全体を対地絶縁し,遮断部をがい管内に設けたがいし形と,接地した金属容器内に遮断部を収納した接地タンク形とがある。

がいし形は耐震性を必要としないヨーロッパなどで広く用いられている。一方,接地タンク形は耐震性に優れている,GIS との組み合わせが容易である。

ブッシング変流器を内蔵することができるなどの特長があるので,わが国で早くから発達し広く普及している。

ガス遮断器の操作方式

ガス遮断器の駆動装置は駆動力の大きい油圧操作機構から,低コストのばね操作機構へと変貌を遂げつつある。

ガス遮断器用の操作方式には,以下のようなものがある。

  • 電気操作方式(電磁ソレノイドや電動機を使って可動接触子を駆動するもので,中・低電圧遮断器に使われる。)
  • 空気操作方式(空気タンクに 0.5 ~ 3 [MPa] の圧縮空気を蓄えておき,操作エネルギー源にする方式をいう。ただし,騒音や空気圧縮機の保守の困難さから,新設の変電所においてはほとんど採用されなくなっている。)
  • 油圧操作方式(アキュームレータに 20 ~ 32 [MPa] の高圧油を保持させて操作エネルギー源とする方式をいう。)
  • ばね操作方式(電動機によりばねを圧縮したり,あるいはねじったりして蓄勢したエネルギーを利用する方式をいう。)

www.iee.jp

油圧操作方式は,動作応答性に優れ,高速・大出力の駆動に適しており,定格電圧 300 [kV] 以上の遮断器に主に適用されている。

また,ばね操作方式は,定格電圧 168 [kV] 以下の遮断器に主に適用されており,電動機によりばねを圧縮したり,あるいはねじったりして蓄勢したエネルギーを利用している。

真空遮断器(VCB : vacuum circuit-breaker)

真空遮断器とは,電路の開閉が真空中にて行われる遮断器である。

真空遮断器は,高真空では,大気の数倍,油の 2 倍以上の高い絶縁耐力が得られる性質を利用したものである。

これは,高真空中では,残存する気体分子の数が少ないので,期待は絶縁破壊に関係しないからである。

遮断部の構造が単純で,遮断動作に必要なストロークが短いので,操作機構に必要とされる駆動力も小さい。

真空遮断器の電流遮断性能は,主として真空バルブ内に配置された電極の構造及び材料で決定される。

電極構造は,遮断電流の小さいものでは,単なる突合せ構造であるが,遮断電流が大きいものでは,遮断時の電流によって磁界を発生させ,電磁力を利用して,アークを駆動することによってアークスポットが局部的に集中するのを防ぎ,電極の局部加熱と溶融を防止している。

小形軽量で所要スペースが小さい,保守点検が容易で省力化できるなどの特長から 36 kV 以下の開閉装置に広く採用されており,近年では 72 kV 定格以上への適用も拡大している。

真空遮断器の絶縁媒体として,ドライエア*4が用いられることがある。

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真空中の消弧

電流通電時に真空中で電極を開極すると,ジュール損により電極材料が爆発的に蒸発し金属蒸気が電極間に放出,電離してアークを形成する。

電極(陰極点)から金属蒸気や電子が供給され,アークが持続する。

電流が零点に近づくと,金属蒸気の供給が減少する。

電流が零点を過ぎた時に反対側の電極に新しい陰極点ができなければアークは消滅する。

直流遮断器

交流遮断器では交流の周期的な電流の零点を利用して遮断するが,直流電流は零点を持たないので,直流を遮断する場合には意図的に電流の零点を作る必要がある。

直流電路に使用する遮断器である,直流遮断器(DC circuit-breaker)は機械式,半導体式,ハイブリッド式に大別される。

逆電圧発生方式

直流電気鉄道で一般的に用いられている定格電圧が 3 kV 以下の気中直流遮断器は,電圧が低いので逆電圧発生方式を採用している。

本方式では,電流遮断時の電極間の直流アークをアークシュート内で伸ばし,この直流アーク電圧を電源電圧以上とすることにより電流を零まで限流して遮断する。

ただし,直流短絡故障等の大電流を遮断する場合に短絡電流が数十 ms 継続するため,電極接点部やアークシュートの損耗が激しく大電流遮断後の点検・保守を必要とする。

転流方式

遮断器を開極してアーク電圧を高くするとともに,遮断部と並列に設けた抵抗,コンデンサなどの回転素子に電流を転流させて,遮断部の電流を遮断する。

図 限流式(転流)の直流遮断器

図 限流式(転流)の直流遮断器

機械式の直流遮断器(他励発振方式)

負荷したコンデンサやリアクトルの発振現象を利用して接点間に発生するアーク電圧を電源電圧以上に上げて電流零点を作り出し,機械的な遮断器により電流を遮断する方法である。

鉄道用の直流遮断器として開発されており,高電圧直流送電に向けて高電圧化を目指した開発がある。

1990 年代末ごろからは交流遮断器で実績のある真空バルブを遮断部に用いて他励発振と組み合わせた直流遮断器が実用化されている。

本方式の遮断器は,動作後の点検・保守が大きく軽減される特徴を持っている。

図 振動式(他励振動)の直流遮断器

図 振動式(他励振動)の直流遮断器

自励発振方式

遮断部と並列に,無充電のコンデンサとリアクトルの直列回路を接続し,遮断部の開極に伴うアークの負性抵抗特性を利用して自励的に拡大する振動電流を発生させ,電流零値となった時点で遮断する。

図 振動式(自励振動)の直流遮断器

図 振動式(自励振動)の直流遮断器

半導体式の直流遮断器(自己消弧方式)

半導体のスイッチング性能を利用して電流を遮断する方式である。

稼働部分がなく高速な電流遮断が可能であるという反面,他方式に比べて通電損失が大きいことで知られている。

ハイブリッド式の直流遮断器

さらに,機械式と半導体式を複合したハイブリッド式の直流遮断器が提案されている。

ハイブリッド式はアークレスの電流遮断が可能で通電損失が小さいという両者のメリットを有した方式であり,実現に向けた開発が進められている。

参考文献

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更新履歴

  • 2021年11月15日 新規作成
  • 2021年12月2日 直流遮断技術の説明を追加
  • 2021年12月11日 電気専門用語集の定義を追加
  • 2021年12月19日 参考文献に「平成17年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問3」「平成16年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問2」を追加
  • 2021年12月28日 参考文献に「平成18年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問2」を追加
  • 2021年12月29日 参考文献に「令和2年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問2」を追加
  • 2021年12月31日 参考文献に「平成28年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問5」を追加
  • 2022年1月4日 参考文献に「平成13年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問2」を追加
  • 2022年1月22日 参考文献に「平成24年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問2」を追加
  • 2022年2月19日 参考文献に「平成9年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問1」を追加
  • 2022年3月10日 参考文献に「真空遮断器を用いた直流遮断器の技術変遷」を追加
  • 2022年5月28日 遮断性能と操作方式を加除修正
  • 2022年9月4日 引外し自由の機能と目的の説明を追加,参考文献に「令和2年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2」を追加
  • 2022年11月6日 参考文献に「平成25年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問3」を追加
  • 2022年12月13日 参考文献に「平成16年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2」を追加
  • 2023年4月7日 参考文献に「電気学会 電力・エネルギー部門の『用語解説』第145回テーマ:短絡試験」を追加
  • 2023年10月18日 参考文献に JEC-2390 : 2023「開閉装置一般要求事項」を追加
  • 2023年11月19日 タイトルを「遮断器」から「電力系統用の遮断器」へ変更
  • 2024年1月28日 検索エンジン向けタイトル「遮断器の役割と性能について」,SNS 向けタイトル「遮断器の役割とは?短絡や故障を防ぐ#遮断器 #送配電」を追加
  • 2024年8月7日 参考文献に記載した過去問題へのリンクを追加
  • 2024年9月8日 参考文献に「令和6年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問3」を追加
  • 2024年9月13日 遮断器の試験を追加,参考文献に「用語解説 第162回テーマ:合成試験とアーク延長」を追加

*1:かつては遮断時間が 8 サイクルの遮断器もあったが,1985 年の JEC 改定時に削除された。

*2:無色・無臭・無毒かつ,絶縁・遮断性能に優れることから,変電機器に幅広く適用され,高電圧・大容量化が図られてきた。

*3:JEC-2390 : 2023「開閉装置一般要求事項」において,絶縁媒体・消弧媒体として N2,ドライエア,CF4,CO2,O2 及びその混合ガス,真空を対象とし,ガス純度,水分量の考え方が記載された。

*4:JEC-2390 : 2023「開閉装置一般要求事項」において,ドライエアは「空気の組成を有し,空気を圧縮して不純物と水分を取り除いて製造する圧縮空気または,窒素と酸素を混合して製造する合成空気(人口空気)を指す」と定義され,組成などが記載されている。