わが国では電気事業者間の広域的運営のため,電力系統の系統間連系が整備されてきているが,連系線潮流の制御が複雑になるなどの理由から,相互の連系は 1 点連系を基本としてきた。
この系統間連系により期待できる利点及び考慮すべき留意点の主なものは以下のとおりである。
利点
- 連系した系統全体で経済的な電源運用ができる。
- 系統規模が大きくなると系統の負荷変動率が小さくなるため,系統周波数の変動は小さくなる。
- 電源脱落,基幹送電線のルート事故,気温の変化等による電力需要の増加などは,偶発的な要因によることから,トータルとして必要な供給予備力を節減できる。
- 健全系統からの応援が可能となり,電源脱落による系統の周波数低下を考慮すると,連系前の電力系統では大きすぎる単機容量の発電機を採用できるのでスケールメリットが得られる。
- 系統全体の供給力確保のための広域開発が可能となるとともに,系統全体で協調的な発送変電設備の定期補修が可能となる。
平成12年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問5 解答例
- 負荷の不等性によるピーク負荷の低減が図れ,供給設備の稼働率が向上する。
- 河川流量の不等性による常時供給力の増加を図ることができる。
- 発電設備の大容量化が図れ,経済的な電源開発が可能となる。
- 供給予備力の共有化が図れ,予備力の削減ができ,電源開発量の節約ができる。
- 火力・水力・原子力発電の経済運用が容易となり,燃料費の節減を図れる。
- 火力・原子力発電の補修などの調整が容易となる。
- 常時および事故時の周波数変動・電圧変動率が少なくなる。
- 送電損失が減少する。
地域間連系線の容量増強
保有すべき供給予備力は,需給変動,地域間連系線の容量などを考慮して算出される。
このうち,需給変動は,景気変動によって生じる需要変動(持続的需要変動)と,日々の需要変動及び電源の計画外停止や出水変動による供給力の低下を含む需給変動(偶発的需給変動)に分類される。
地域間連系線の容量が増強されると,供給量不足時に電力融通が可能となり,増強前に比べて必要な供給予備力は小さくなる。
留意点
- 送電線の短絡,地絡事故時の事故電流が大きくなるため,事故電流の抑制対策,遮断器の遮断電流増,通信線の誘導障害対策などが必要となる。
- 系統の連系に伴い,系統の安定を維持するため,周波数の調整が複雑になる。
- 局部的な事故が,系統全体に波及し,広範囲な停電を引き起こすおそれがあるため,事故の高速除去,系統分離などの系統保護対策が必要となる。
- 大きな設備投資を必要とするため,総合的な費用対効果により,その実現時期,規模を決定する必要がある。
電力系統の潮流制御
ループ系統の運用にあたっては,電力潮流が線路容量を超過しないよう,他の系統からの回り込みも考慮しつつ適切な潮流管理を行う必要がある。
リアクタンス成分が支配的である一般的な電力系統においては,系統の地点間の相差角によって有効電力潮流が,そして電圧差によって無効電力潮流が調整できる。
ループ潮流を調整する手段として,発電機の出力調整の他に,ループを構成する系統のリアクタンスを調整する SVC(Static Var Compensator)や,相差角を調整する位相調整変圧器が用いられる場合がある。
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中地域交流ループ
これまで 1 点連系を基本としているため,関西電力送配電,中部電力パワーグリッド,北陸電力送配電の間を結ぶ交流電源ルートは 1 ルートで運用されてきた。
関西電力送配電,中部電力パワーグリッド,北陸電力送配電の 500 kV 系統を交流ループで運用することで,設備更新の低減,運用容量の拡大,供給信頼度の向上が期待できるため,3 社で検討を進めてきた。
検討した結果は,電力広域的運営推進機関*1に提供され,マスタープラン*2でも取り扱われている。
参考文献
-
広域系統長期方針(広域連系系統のマスタープラン)の策定について| 広域系統長期方針・整備計画 | 電力広域的運営推進機関ホームページ
- 電力広域的運営推進機関 マスタープラン 中間整理
- 令和4年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問7「電力供給と供給予備力」
- 令和3年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 法規 問4「電力系統の連系」
- 平成24年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問3「電力系統の系統間連系」
- 平成20年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6「電力系統の潮流制御」
- 平成12年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問5「電力系統を連系するメリット及び短絡容量の増大に対する抑制対策」