目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

電力系統の周波数

次の文章は,電力系統の周波数に関する記述である。

電力系統の周波数の変動及びその影響

電力系統では,時々刻々変動する需要と供給力の差が周波数変化として表れる。この周波数変化を許容範囲内に収めるために,発電機の出力を数秒から数十秒の間隔で増減している。

周波数の変動は,需要家側においては同期モータを用いた電気時計の精度に影響を与えるだけでなく,製紙工場や紡績工場等の製品の品質に影響を与える場合もある。

また,周波数変動は,火力発電所の蒸気タービンの動翼に振動が発生したり,補機の能力が低下するなど,機器の安全運転や安定運転に悪影響を与える場合もある。

さらに,電気事業者間連系線の潮流の安定制御のためにも周波数を適切に制御することが重要である。

電力系統の周波数は,平常時には標準値からの偏差がある範囲内に収まり,確率的に変動量が標準値を維持するように運用されている。

わが国における電力系統の周波数は,標準周波数に対し ± 0.1 ~ 0.3 [Hz] 程度に収めることを目標としている。

周波数変動による問題

周波数の変動は,次のような問題が発生する恐れがあるため,周波数を一定の範囲内に調整する必要があり,電気事業法においても周波数の維持について一般送配電事業者の努力義務が規定されている。

電気事業法 第二十六条 電圧及び周波数

一般送配電事業者は、その供給する電気の電圧及び周波数の値を経済産業省令で定める値に維持するように努めなければならない。

(以下,略)

電気使用者側の問題の例

  • 工場の精密機械の誤動作
  • 高速度電動機を使用する紡績・製紙工場等での製品品質の低下
  • 周波数低下による電動機の効率の低下
  • 電気時計の誤差の増大

電力系統管理側の問題の例

  • 火力発電設備のタービンの振動
  • 発電機補機の出力減退
  • 電力会社間連系線の潮流の制御の困難化

電力系統の周波数は需給バランスの影響を受け,負荷が発電を上回る場合には周波数は低下する。

周波数の変動は,同期発電機の回転数の変化を意味するが,発電機の連続運転が可能な許容範囲があるため,系統周波数の大幅な低下により,一部の発電機が停止した場合,それによってさらに周波数が低下して他のたくさんの発電機が停止する周波数異常現象を起こし,大停電を起こすこともありうる。

周波数変動に応じて出力調整を行う発電所を周波数制御用発電所という。

我が国では,揚水発電所,貯水池式又は調整池式水力発電所と火力発電所の一部が周波数制御用発電所として利用されている。

電力系統の周波数調整

同期発電機で機械的入力エネルギーが電気主力エネルギーを上回ると回転数は上昇し,周波数が上がる。

その逆では周波数が下がる。

機械的入力エネルギーを一定に保っていても,現実の系統の負荷は時々刻々変化するため,周波数が変動する。

図は系統の負荷変動の大きさと,周波数を維持するための周波数制御の分担を表した概念図である。

図 系統の負荷変動の大きさと周波数を維持するための周波数制御の分担を表した概念図

図 系統の負荷変動の大きさと周波数を維持するための周波数制御の分担を表した概念図

図における横軸は時間を示しており,単位はである。

経済負荷配分制御(ELD)

この図中で経済負荷配分制御(ELD : Electric Load Dispatcher)は長周期の負荷変動分に対応し,日負荷曲線からある程度予測できるので,ベース調整分として予測値に対応する発電機出力をあらかじめ自動で指令しておく。

負荷周波数制御(LFC)

経済負荷配分制御(ELD)よりも短周期の変動分については,系統の周波数と基準周波数の偏差を検出して,図中負荷周波数制御(LFC : Load Frequency Control)による調整を中央制御で実施する。

この負荷周波数制御(LFC)は時々刻々変動する需要と供給力との差を周波数変化としてとらえ,発電機の出力の増減を短時間で実施し,これを許容範囲に収める制御である。

定周波数制御(FFC : Flat Frequency Control)
  • 系統周波数を検出する方式である。
  • 系統周波数の規定値からの偏差を零にするよう自系統の発電電力で制御する方式である。
  • 単独系統,又は連系系統内の主要系統で採用されている。
定連系線電力制御(FTC : Flat Tie Line power control)
  • 連系線電力を検出する方式である。
  • 連系線電力の規定値からの偏差を零にするよう自系統の発電電力を制御する方式である。
  • 連系系統内の小系統側が主要系統との連系線電力を制御する場合に適している。
周波数バイアス連系線電力制御(TBC : Tie line Bias Control)
  • 周波数と連系線電力を検出する方式である。
  • 系統周波数の規定値からの偏差にバイアス値を乗じた値と,連系線電力の規定値からの偏差の和(差)を零にするよう自系統の発電電力を制御する方式である。
  • 連系系統内の各系統が,それぞれ自系統で生じた負荷変動(需給不均衡)を,自系統で処理することを基本としている。

ガバナフリー運転

負荷周波数制御(LFC)よりも短周期の微小変動分には発電機のガバナフリーにより吸収する。

ガバナフリー運転とは,発電機の調速機によって回転速度を一定に保つよう自動で応動させる運転をいう。

火力発電所のタービンや水力発電所の水車の速度制御を行う。この発電機の出力変化量と周波数変化量との関係は発電機周波数特性定数で表され,通常 1.0 [% MW/0.1Hz] 程度である。

自己制御

さらに微小な調整は図中にもある,系統の自己制御で吸収される。

これは負荷は周波数が上がると消費電力が増加し,周波数が下がると逆になるという特性を持っているためである。

アンシラリーサービス

電力系統の需給バランスと適正周波数を維持するために一般送配電事業者は常に発電所の出力調整を実施している。

電気には需要と供給のバランスが崩れると周波数が変動するという特性があり,この周波数変動を発電出力調整により是正し,電力品質を維持することをアンシラリーサービスという。

需給の瞬時変動に対応する機能がアンシラリー機能(周波数維持機能)であり,発電設備を送配電網に連系し,発電された電気の全部または一部を自ら使用する需要家はアンシラリーサービス料を支払い,一般送配電事業者の行う電力品質の維持に関わる費用を負担することが求められる。

参考文献

electrical-engineer.hatenablog.jp

更新履歴

  • 2022年3月24日 新規作成
  • 2022年4月23日 参考文献に「平成17年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問4」を追加
  • 2022年8月11日 参考文献に「平成25年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 法規 問6」を追加
  • 2022年8月28日 参考文献に「令和4年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問4」を追加
  • 2022年11月12日 参考文献に「平成22年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問5」を追加
  • 2022年12月3日 アンシラリーサービスを追加
  • 2023年11月25日 参考文献に「令和5年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問6」「令和5年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問6」を追加