「予防保全」には,定期的にメンテナンスを行う「時間基準保全 (Time Based Maintenance : TBM)」と運転中の設備・機器の状態を把握し,その結果に基づいてメンテナンスを行う「状態保全基準 (Condition Based Maintenance : CBM)」がある。
重要な電力設備の保全では,定期点検(TBM)から状態監視保全(CBM)への移行が進められている*1。
電気工作物の保全の必要性(目的)
電気工作物の故障等の発生により,公共の安全や電力の安定供給等が脅かされるので,常に法令で定める技術基準に適合するよう,その性能等を維持すると共に,事故の未然防止を図ることが必要であり,それが保全の目的となる。
保全の概念
技術革新とともに,事後保全,定期計画保全,状態監視保全,リスクベースメンテナンスへと保全は高度化していく。
事後保全(BM : Breakdown Maintenance, CM : Corrective Maintenance)
故障停止又は著しい性能低下に至ってから修理を行う保全方式であり,通常事後保全と緊急保全とに管理上,分類できる。
予防保全(PM : Oreventive Maintenance)
従来の経験又は,その電気工作物の特性から一定期間の周期を定めて点検を行い,定期的に分解・清掃又は部品交換や補修を行い,突発事故を未然に防ぐ保全方式をいう。
定期計画保全(TBM : Time-Based Maintenance)
設備の施設年数に基づく定期計画保全。
TBM のメンテナンス周期は,機器・設備を構成する部品の中で最も寿命の短いものに支配されるため,一律の周期でメンテナンスを続けると一般には過剰なメンテナンスとなる。
JIS Z 8115:2019「ディペンダビリティ(総合信頼性)用語」には,「時間計画保全(Scheduled maintenance)」と記載されている。
状態監視保全(CBM : Condition-Based Maintenance)
設備の状態に基づく状態監視保全。
電気設備の製造時期や設置時期,設置環境や運転状態など,各機器の状態を的確に把握すれば,劣化推移が予測可能となる。
その結果として,設備の保守費用低減,設備の保全運用の適正管理,設備更新時期の的確な把握が期待でき,既設設備の徹底活用,合理的な運用や維持が実現できることが考えられる。
運転状況の把握としては,センシング技術による管理方法もあり,他方で,従来の点検記録を情報化する手法も考えられる。
CBM は技術的にも経済的にも容易ではない場合があり,また,故障時の影響が軽微で修理が簡易・低コストに行える場合には「事後保全」が合理的な場合もある。
このため,事後保全と TBM,CBM の各方式については,それぞれの特徴を考慮して適切に組み合わせることが重要である。
予防保全(状態監視保全)方式を採用する利点(メリット)
- 機器・設備の劣化状態等を把握できるので,無駄な交換が不要となり,保全費用を低減できる。
- 機器・設備の異常兆候の早期発見や予測などが可能であり,機器の故障やシステム停止を未然に防止できる。
- 機器の劣化による機能低下を検知することができ,システムの機能及び性能の低下を防止できる。
リスクベースメンテナンス(RBM : Risk Based Maintenance)
指標(リスク量)を用いて適切かつ合理的に設備更新を判断する。
設備が有するリスク量は,故障確率と故障影響度の積として定義し,そのリスク量を設備毎に算定する。
<設備リスク量の算定式>
リスク = 各設備の故障確率 × 故障影響度
なお,『高経年化設備更新ガイドライン』において,故障確率は故障が発生する確率(%/年),故障影響度は故障が発生した場合の影響(円)で定義される。
故障影響度については,設備故障による停電の影響,災害の影響,事業運営への影響を金額換算し,これら 3 つを合算したもの。
そのため,リスク量は金額換算されるが,金額そのものを直接,対策費等に換算・評価するものではなく,各設備の状態把握や更新の優先度を検討するための指標(目安値)として取り扱う。
RFID
このような信頼性重視の保全管理に向けて,電力設備の計測情報収集等に RFID (Radio Frequency IDentification)を用いた IC タグ応用システムが重要な役割を果たす。
この RFID には,電磁波の伝達方式により 2 種類の方式がある。
電波方式は,タグのコイルとリーダー/ライターのアンテナコイル間との距離が,使用する波長に対して長く,空中を伝搬する電磁波として伝達させる通信方式であり,通信距離を長くとることができ指向性がある。
電磁誘導方式は,タグのコイルとリーダー/ライターのアンテナコイルを磁束結合させて,コイルに起電力を発生させ,ファラデーの法則を応用して通信する方式である。
この方式は,電波方式に対して,近傍 RFID あるいは非接触 IC カードとして早くから実用化されている。
特にこれらのカードは,電源が不要なパッシブ型 RFID タグに分類され,その特徴は,リーダー/ライターからタグに対して,電力供給のための搬送波を送信しながらデータを送れることである。
これにより安価で小型化を達成している。また,そのデータは通常,振幅変調方式である ASK (Amplitude Shift Keying)変調が使用されている。
パッシブタグとアクティブタグ
パッシブタグ(受動タグ)
電池を内蔵せず,リーダ/ライタが発信する電波をエネルギー源として利用して駆動するタグ。
交信範囲は数十センチメートルという制限があるが,安価(10 円以下)に製造できる。
アクティブタグ(能動タグ)
電池を内蔵し,自らの電力で電波を発信するタグ。
交信範囲は数十メートルから数百メートルと広いが,パッシブタグと比較すると価格が高い。
参考文献
- 『高経年化設備更新ガイドラインの策定について~送配電設備更新のための設備管理の高度化(設備リスク評価)~』(2021年10月28日,電力広域的運営推進機関)
- 電気学会 電力・エネルギー部門「用語解説 第147回テーマ:状態保全基準」
- 西村 和則『電気設備管理と保全品質の向上~総論~』(電学誌,142 巻 3 号,2022年)
- 平成26年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問6「電気工作物の保全」
- 平成19年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問8
更新履歴
- 2022年3月1日 新規作成
- 2022年3月3日 パッシブタグとアクティブタグを追加
- 2022年3月5日 参考文献に『電気設備管理と保全品質の向上~総論~』を追加
- 2022年10月17日 参考文献に「平成26年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問6」を追加
- 2023年6月25日 参考文献に電気学会 電力・エネルギー部門「用語解説 第147回テーマ:状態保全基準」を追加
*1:高度成長期に大量に施設された電力設備が本格的に経年対策を要する時期を迎えつつあることが,一つの背景である。