目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

送配電設備のアセットマネジメント

託送料金制度(レベニューキャップ制度)にて,一般送配電事業者は国からの指針に基づいた事業計画を策定する。

策定すべき事業計画の設備保全計画の中に,アセットマネジメント等の手法に基づく更新投資,修繕の方針が記載されており,高経年化設備更新ガイドラインにまとめられている。

このような背景からアセットマネジメントシステムが着目されている。

アセットマネジメント

先進諸国において電力流通設備の高経年化対策は重要課題であり,アセットマネジメント技術導入による合理的な対応が志向されている。

日本でも 2023 年度から託送料金制度見直しに合わせ,電力広域的運営推進機関(OCCTO)により「高経年化設備更新ガイドライン」が策定され,リスク評価に基づく更新物量算定手法が導入される。

このガイドラインは,広域系統長期方針の取組みとして,送配電設備が有するリスク量の標準的な算定方法や設備更新に係る工事物量算定の基本的な考え方を定め,2023年度からの新たな託送料金制度の導入にあたって,一般送配電事業者における各設備のリスク量の把握や,これを踏まえた適切かつ合理的な設備保全計画の策定に資することを目的とする。

(出典)「高経年化設備更新ガイドライン」総則 1. 目的

送配電設備の場合,系統全体でベネフィットを生み出しているため,設備個々の寄与分を評価することは難しく,多くの場合,設備規模や供給信頼度の維持を制約条件(前提条件)とし,それを維持するために必要なコストや統計的に評価されるリスクを最小化することで最適保全方策の選択を図る。

このうち「リスク」は,一般的に「故障時の影響度 × 故障率」として,すなわち統計的期待値として求められる。

その際,「故障時の影響度」を金額換算して定量化すること,および,設備状態を的確に把握した上で故障率を推定することを精緻に行うことが望ましい。

信頼性が高く,低故障率が想定される電力流通設備を対象とした場合,精度よく故障率推定を行うためには長期間にわたる実績データの蓄積が必要である。

設備リスク量の算定式

高経年化設備更新ガイドライン」において,設備リスク量の算定式は,以下のように定義されている。

定義においては,日本金属学会誌 第 66 巻 第 12 号(2002)「リスクベースの材料工学・材料技術」等を参考にしている。

リスク量(円/年) = 各設備の故障確率 × 故障影響度

なお,「高経年化設備更新ガイドライン」において,用語は以下のように定義されている。

  • 故障:設備劣化により機能不全となる状態
  • 故障確率:故障が発生する確率(%/年)
  • 故障影響度:故障が発生した場合の影響(円*1

託送料金 第一規制期間におけるリスク量の算定対象設備は,安定供給の観点で影響の大きい主要設備である工務設備 5 品目(鉄塔,電線,ケーブル,変圧器,遮断器),配電設備 4 品目(電柱,電線,ケーブル,柱上変圧器)としている。

アセットマネジメントシステム

電力業界におけるアセットマネジメントシステムは大きく 3 つの要素から構成される。

EMA

Enterprise Asset Management の略で,設備情報や工事情報,並びに巡視・点検情報などを統合管理する。

あらゆる資産の状態を統合管理することで,事業者の資産管理や保守を効率化できる。

設備台帳管理ソリューション

設備・機器の仕様書や図面,完成図書,点検履歴,保全情報等を一元的に管理するソリューションである。

設備管理やアセットマネジメントの情報を業務の過程で管理でき,設計から維持管理に至るさまざまな立場のユーザがいつでも欲しい情報を参照することで,業務での活用と情報共有が可能である。

APM

Asset Performance Management の略で,設備状態を管理する。

2023 年の託送料金制度の第一規制期間に向けて,高経年化対策が必要な 9 設備のリスク量算出方法が,高経年化設備更新ガイドラインにまとめられた。

設備の故障確率と故障影響度から設備状態をリスク量として算出することで,設備状態を定量化する。

AIPM

Asset Investment Planning and Management の略で,設備投資計画の策定,最適化を行う。

APM で算出されたリスク量を基に投資を計画し,リスク量や費用を制約として投資群を最適化する。

特定のグループ毎に制約を設定することで,事業特性に沿った最適な投資計画が策定できる。

アセットマネジメントソリューション

設備の劣化等,機能診断や更新計画に関する情報管理を可能とするものである。

機能診断で評価された設備の定量的な劣化状態(健全度評価)から今後の劣化進行を予測し,更新が必要な時期の見通しを把握する。

また,設備の重要度に応じたリスク値の設定により,予算規模や優先度等の実情に応じた中長期の更新需要量の把握による予算の平準化検討等が可能である。

参考文献

  • 電力広域的運営推進機関,「高経年化設備更新ガイドライン」,2021年12月17日
  • 高橋 紹大,「長寿命設備を想定した運用実績に基づく故障統計解析手法の検討」"Study of statistical failure analysis for long life equipment based on operation data",電力中央研究所報告 GD21025
  • 上田 修,「設備保全・維持管理技術の DX 化と課題」,電学誌,143 巻 3 号,2023 年
  • 用語解説 第140回テーマ:アセットマネジメントシステム

www.iee.jp

更新履歴

  • 2023年2月20日 新規作成
  • 2023年3月11日 参考文献に「設備保全・維持管理技術の DX 化と課題」を追加

*1:各影響度を金額換算(定量化)した値であり,実際の更新費用とは異なる