エネルギー供給の不安定化と地球温暖化が懸念される中,2023年2月,政府は原子力発電の推進にかじを切った*1。
注目されているのは,次世代原子炉である。
革新軽水炉
革新軽水炉の特徴は,既存の原子炉(軽水炉)をベースに,炉心溶融や地震・津波などへの安全対策を強化。
主な次世代炉の中で,実用化が最も近いとされる。
ただし,大型炉のため建設地の選定に時間がかかる可能性がある。
革新軽水炉の主な安全対策
地震・津波対策
放射性物質の拡散防止
事故時に格納容器からの常規を,放射性物質を取り除いたうえで大気に放出する。
炉心溶融対策
原子炉から燃料が溶け出しても,コアキャッチャーで受け止めて水で冷やす。
二重の原子炉格納容器
大型の航空機衝突にも耐えられるように原子炉格納容器を強化。
小型モジュール炉(SMR)
小型モジュール炉(SMR)は,出力 30 kW 以下の小型炉を複数連結させ,出力を調整する。
主要部を工場で一括生産し,コストや工期を短縮する。
出力規模が小さい場合,採算が取れるかどうかは不透明である。
米ニュースケール・パワー社が 2029 年の米国での稼働を目指しており,同社には重工大手の IHI やプラント大手の日揮ホールディングスが出社している。
高速炉
高速炉は,高速の中性子を利用し,効率的に核燃料を燃やせる。
高速炉の冷却材の液体ナトリウムは水や空気に触れると反応するなど扱いが難しい。
米テラパワー社が開発しており,米政府の支援を受け,2028 年に米ワイオミング州で実証炉の運転を始める計画で,2022年1月に日本原子力研究開発機構と三菱重工業が技術協力することで合意していた。
ただ,ロシアのウクライナ侵略の影響で,核燃料の確保が難しくなったとして,稼働が 2 年遅れるという。
高温ガス炉
高温ガス炉は,炉心の核燃料から出る熱をヘリウムガスで取り出す原子炉である。
700 度超の高熱を,発電だけでなく水素の製造などに産業利用できる。
水素の安定的な製造などの技術確立が必要である。
日本原子力開発機構は,英国やポーランドでの高速ガス炉の開発計画に参加している。
参考文献
- 「読売新聞 くらしサイエンス」,2023年3月5日
更新履歴
- 2023年3月6日 新規作成
- 2023年8月29日 参考文献に『「超小型原子炉」なら日本も世界も救われる!』を追加
*1:2023年2月,政府は電力の安定供給と脱炭素社会の実現を図る「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を決定した。