電気主任技術者を取り巻く「マクロ的な環境要因」を考えるため,PEST 分析*1を行ってみた。
電気主任技術者制度は我が国における電気保安の安全・安心を確保する制度であるが,電気主任技術者の高齢化,外部委託受託者への入職者減など将来的に制度を安定的に維持するのが困難な状況となっている。
これを踏まえると,電気主任技術者は不足する可能性が大きいため,今のうちに,電気主任技術者の免状を取得しておけば,就職に有利と思われる。
政治 Politics
- 2012年7月,固定価格買取制度(FIT 制度)*2導入
- 電力システム改革(Deregulation)の推進
- 2016年4月,電力小売業への参入が全面自由化
- 2020年4月,発電から小売までを担う大手電力から送配電部門を法的に切り離す発送電分離
- 2021年10月,再生可能エネルギーの割合を 2030 年度までに 36 ~ 38 % へと引き上げるエネルギー基本計画*3を閣議決定(「エネルギー基本計画」令和3年10月)
- 2022年7月より,産業革命以来の化石燃料中心の経済・社会,産業構造をクリーンエネルギー中心に移行させ,経済社会システム全体の変革,すなわち,GX(グリーントランスフォーメーション)*4を実行するべく,必要な施策を検討するため,GX 実行会議開催 → 2023年2月10日,「GX 実現に向けた基本方針 ~ 今後 10 年を見据えたロードマップ」を閣議決定。
- 2020年7月より,電気保安制度ワーキンググループにおいて,電力保安人材の入職要件(実務経験年数等)の見直し,電気人材確保策の検討が行われている。
- 菅内閣総理大臣は 2020 年 10 月 26 日の所信表明演説において,日本が 2050 年までにカーボンニュートラル*5を目指すことを宣言(Decarbonization)
- 菅内閣総理大臣は 2021 年 4 月の地球温暖化対策推進本部及び米国主催の機構サミットにおいて,「2050 年目標と整合的で,野心的な目標として,2030 年度に,温室効果ガスを 2013 年度から 46 % 削減することを目指す。さらに,50 % の高みに向けて,挑戦をつづけていく」ことを表明。
経済 Economy
- 2023年度よりレベニューキャップ制度の第一規制期間(5 年間)が始まる
- 太陽光発電設備や風力発電設備を中心に再生可能エネルギー発電設備が急増(Decentralization)
- 業務ビル(高圧)の設置件数が著しく増加
社会 Society
- 2011年3月,東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所事故
- 電気工作物の適切な保安を通じた国民の安心・安全の確保
- 老朽化したビルの建て替え
- 都市開発
- 人口減少(Depopulation)
- 主任技術者の選任形態は,9 割が外部委託。
- 外部委託の受託者は,電気保安協会が約 5 割,電気保安協会以外の保安法人が約 1 割,管理技術者が約 4 割。
- 2022 年度から第三種電気主任技術者試験は年 2 回実施*6
- 電気主任技術者試験等における令和 5 年度(2023 年度)からの CBT 方式*7での受験が可能になる。
- 2022年12月1日,「令和5年度第三種電気主任技術者試験に係る問題作成方針」公表
技術 Technology
- 電気主任技術者の五感などマンパワーに依存しているが,熟練技術者の高年齢化,新たな人材確保が困難な状況であり,技術継承がなされない。
- 経済産業省を中心として電気保安のスマート化*8が掲げられている(Digitalization)
参考文献
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「エネルギー基本計画」(令和3年10月)
- 「GX 実現に向けた基本方針 ~ 今後 10 年を見据えたロードマップ」(令和5年2月)
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令和2年10月26日 第二百三回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説 | 令和2年 | 総理の演説・記者会見など | ニュース | 首相官邸ホームページ
- 令和5年度電気主任技術者試験の実施日程等のご案内
- 令和5年度第三種電気主任技術者試験に係る問題作成方針
- 経済産業省 電力・ガス取引監視等委員会「料金制度専門会合 中間とりまとめ」(2021年11月)
- 経済産業省 産業保安グループ 電力安全課「電気主任技術者制度について」(令和5年3月31日)
- 経済産業省「電気保安人材・技術WG中間報告」(令和元年11月25日)
- 経済産業省「電気保安体制を巡る現状と課題」(令和元年9月9日)
- 経済産業省「電気保安人材の中長期的な確保に向けた課題と対応の方向性について」(平成31年3月15日)
- 電気学会 用語解説 第146回テーマ:GX(グリーントランスフォーメーション)
- 竹内 純子「エネルギー産業の 2050 年 Utility3.0 へのゲームチェンジ」,日本経済新聞出版社,2017年9月1日
- 西村 和則「電気設備管理と保全品質の向上~総論~」(電学誌,142 巻 3 号,2022年)
- 佐藤 直之「中小規模需要設備の保全品質向上技術」(電学誌,142 巻 3 号,2022年)
更新履歴
- 2023年1月1日 新規作成
- 2023年1月8日 レベニューキャップ制度を追加
- 2023年2月11日 参考文献に「エネルギー基本計画」「GX 実現に向けた基本方針 ~ 今後 10 年を見据えたロードマップ」を追加
- 2023年5月13日 参考文献に「電気学会 用語解説 第146回テーマ:GX(グリーントランスフォーメーション)」を追加
- 2024年3月9日 東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所事故を追加
- 2024年10月13日 参考文献に「電気主任技術者制度について」を追加
*1:PEST 分析とは,政治,経済,社会,技術といった 4 つの観点からマクロ環境(外部要因)を分析するマーケティングフレームワークのこと。これは,戦略的分析または市場調査を行う際の外部分析の一部であり,考慮すべきさまざまなマクロ環境要因の概要を示す。
*2:再生可能エネルギーの普及政策の一つであり,再生可能エネルギーで発電した電気を,長期間固定優遇価格にて電力会社が買い取ることを国が約束する制度。FIT = Feed-in Tariff
*3:2018 年 7 月に閣議決定された第 5 次エネルギー基本計画においては,再エネを初めて「主力電源化」していくものと位置づけていた。
*4:Green Transformation. 太陽光発電などのクリーンエネルギーを利用し経済社会システムや産業構造を変革して温室効果ガスの排出削減と産業競争力向上の両立を目指す概念。
*5:温室効果ガスの排出量と森林などによる温室効果ガスの吸収量を均衡させ排出量を実質ゼロにする。
*6:2022年度(令和4年度)から,第三種電気主任技術者試験は年 2 回実施となり,上期試験,下期試験,両方の申込みが可能となる。
*7:CBT (Computer Based Testing) 方式とは,コンピュータを利用して実施する試験方式のことである。受験者はコンピュータに表示された試験問題に対して,マウスやキーボードを用いて解答する。
*8:電気保安分野において IoT や AI,ドローン等の新たな技術を導入することで,保安力の維持向上と生産性の向上を両立させること。
*9:Risk Based Maintenance. 設備の老朽化や異常,故障のリスクを評価して,評価結果に基づいてメンテナンス・検査計画を策定する考え方を意味する。