目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

燃料電池の仕組みと原理

水素エネルギーはクリーンなエネルギーとして期待されている。

この水素エネルギーを有効に利用できるものが燃料電池(fuel cell)である。

燃料電池の概要

燃料電池は水素やアルコールなどの燃料をアノードで電気化学的に酸化し,取り出した電子を,外部回路を通じてカソードに供給し,カソードでの反応に用いる。

燃料電池は,原図的には下図に示すように電子伝導体の空気極(カソード)と燃料極(アノード)およびイオン伝導帯の電解質から構成される。

カソードには酸化剤として一般に酸素が供給され,アノードには水素等の燃料が供給される。

燃料電池は,電解質を介して酸化反応および還元反応を起こし,その反応過程で生じる起電力を取り出す。

図 燃料電池の原理図

図 燃料電池の原理図

反応の過程で化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換するため熱機関のようなカルノー効率の制約を受けない。

現在使用されている燃料電池は水素と酸素を反応物(活物質)として外部から連続的に供給し,水の電気分解の逆反応を用いて発電する。

ここで得られる理論電圧はこの反応のギブズエネルギー変化によって決まる。

水素と酸素から水ができる反応は発熱反応であり,高温では理論電圧は低くなる。

また,得られる理論的な電気量はファラデーの法則から決まるが,具体的には消費する気体の体積に比例する。

また,電気化学反応に関与する電子数も重要な要素であるが,水素 1 分子では 2 電子,酸素 1 分子では 4 電子が関与する反応となる。

燃焼を伴わずに発電することから,発電容量が小さくても発電効率が高い,騒音や排気ガスが非常に少ないといった特徴をもつ。

燃料電池の発電システムでは廃熱回収装置を用いることで,エネルギーの高効率化が図られている。

燃料電池はその動作条件から低温形(200 度程度以下)と高温形(500 度程度以上)に大別される。

低温形の燃料電池

低温形の燃料電池には既に多数の実績があるりん酸形燃料電池と固体高分子形燃料電池があるが,最近では取り扱いの容易な固体高分子形が家庭用として実用化されている。

これらの低温形燃料電池は,取り扱いやすく起動時間が短い長所があるが,廃熱利用用途が限られ,発電効率が低いという短所がある。

また,触媒に希少かつ高価な白金が必要となる。

反応物である水素は都市ガスや下水処理場で発生する消化ガス等を用い,改質機で水素に変換して得る。

将来,水素が直接供給されるインフラが整えば燃料改質装置は不要となる。

高温形の燃料電池

高温形の代表例としては溶融炭酸塩形,固体電解質形があり,その主な特徴は高い総合エネルギー効率と反応物に一酸化炭素が利用可能なことである。

触媒に白金を必要としない高温動作の燃料電池である固体酸化物形(固体電解質形)燃料電池が実用化され,家庭用に小形化も進んでいる。

固体酸化物形は電解質にセラミック系電解質を用い,高効率であり,廃熱温度も高く,廃熱利用用途が広い。

交流系統への連系

燃料電池は出力が直流であるため,インバータを介して交流系統に接続するのが一般的である。

固体酸化物形燃料電池

原理

固体酸化物形燃料電池は,酸素イオン導電性を有する酸化ジルコニウム(安定化ジルコニウム)等の,セラミックス電解質を使用した燃料電池である。

緻密で薄い電解質層の片面には,正極として触媒作用を有する多孔質のセラミックス層が形成され,空気中の酸素を酸素イオンに乖離する。

酸素イオンは電解質層を通り,電解質層のもう一方の面に形成された負極に至る。

負極は触媒作用を有するニッケルと酸化ジルコニウムの多孔質層で,酸素イオンと水素を反応させて水を生成する。

反応の過程で負極において発生する電子が外部回路で仕事をして正極に流れることで発電する。

特徴

固体酸化物形燃料電池は,燃料電池の中で最も高温の 800 ~ 1 000 °C で運転され,高い発電効率が得られる。

固体酸化物形燃料電池にはイットリウムで安定化した酸化ジルコニウムなどの酸化物イオン伝導性のセラミックスが使用されており,運転温度が高いため,触媒に貴金属を用いる必要はない。

高い排熱温度を活かし,ガスタービンとのコンバインドサイクルシステムを構成することで,更なる高効率化も可能で,実用化に向けた開発が行われている。

燃料電池の絶縁耐力等

燃料電池は,最大使用電圧の 1.5 倍の直流電圧又は 1 倍の交流電圧(500 [V] 未満となる場合は,500 [V])を充電部分と大地との間に連続して 10 分間加えて絶縁耐力を試験したとき,これに耐えること。

燃料電池は,次の各号に掲げる場合に自動的に燃料電池を電路から遮断し,燃料電池への燃料ガスの供給を自動的に遮断し,かつ燃料電池内の燃料ガスを自動的に排除する装置を施設すること。

  • 燃料電池に過電流が生じた場合
  • 発電要素の発電電圧に異常が生じた場合又は燃料ガス出口における酸素濃度若しくは空気出口における燃料ガス濃度が著しく上昇した場合。
  • 燃料電池の温度が著しく上昇した場合。

参考 水の電気分解

電力を大量に貯蔵・輸送するために水を電気分解して水素を製造することが検討されている。

水酸化カリウム水溶液などの塩基性電解質を用いたときのカソード上の反応は,次式であり,水素の製造量は電気分解中に通電した電気量に比例する。

2H2O + 2e- → H2 + 2OH-

これは電気分解に関するファラデーの法則に従った現象である。

ファラデーの法則

M. Faraday(ファラデー)により 1834 年に発表された通過電気量と電極で反応する物質の量との関係についての法則で,次の二つよりなる。

  1. 電流の通過により生じる分解生成物の量は,電解質を通過した電気量に比例する。
  2. 同一の電気量によって分解する物質の量は,その電気化学当量に比例する。

この法則は電子伝導性のない純イオン伝導体であれば,電流密度,温度,濃度,および溶媒の性質に無関係に成立する。

1 モル当量の物質を電解するのに要する電気量は物質に無関係に一定で,96 485.34 C(クーロン)である。

この量を 1 ファラデーとよぶ。

また,1 C の電気量で電解される量は電気化学当量とよばれる。

参考文献

www.iee.jp

更新履歴

  • 2021年12月10日 新規作成
  • 2021年12月27日 水の電気分解を追加,参考文献に「平成29年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問7」を追加
  • 2021年12月29日 参考文献に「令和2年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問6」を追加
  • 2022年1月1日 参考文献に「化学辞典 第 2 版「ファラデーの法則」」を追加
  • 2022年1月2日 参考文献に「平成24年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問4」を追加
  • 2022年1月8日 参考文献に「平成28年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問4」を追加
  • 2022年2月12日 参考文献に「平成16年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問6」を追加
  • 2022年4月24日 参考文献に「平成15年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 法規 問6」を追加
  • 2024年9月8日 参考文献に「令和6年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問5」を追加