水を電気分解して水素と酸素を得る方法は水電解と呼ばれ,クリーンな二次エネルギーとして注目されている水素を得る一つの方法である。
この水電解のカソードでは還元反応が起こり,水素が発生する。
2H2O → 2H2 + O2
電解質としては固体高分子イオン交換膜を利用するものも開発されているが,古くからアルカリ水溶液(例えば,水酸化ナトリウム水溶液)を用いるものが工業的に実施されている。
この理論分解電圧は 25 [°C] で約 1.2 [V] であるが,実際には電解槽電圧はこの値より高く設定される。
一般に,電気化学システムでは,反応に関与する物質の量は用いられた電気量と密接な関係がある。
陰極又は陽極で変化する物質の量は,流した電気量に比例することをファラデーの電気分解の法則,電子 1 mol のもつ電気量の大きさをファラデー定数 : $F$ といい,
である。
水素の生成量は,理論上流れた電気量に比例するが,この理論値よりも実際に用いられる電気量の方が大きい。
電解法による水素製造
電解法には,アルカリ水電解法,固体高分子形(Proton Exchange Membrane, PEM)水電解法,固体酸化物形水電解セル(Solid Oxide Electrolyser Cell, SOEC),アニオン交換膜(Anion Exchange Membrane, AEM)水電解法などがある。
アルカリ水電解法と固体高分子形水電解法は,既に商品化されているが,SOEC は実証レベルにあり,AEM は技術開発段階にある。
演習問題
ここでは,二つの電解セルを直列に接続した電解槽について考える。
電流効率 100 % のときに 1 000 A で 1 時間通電して得られる水素の量はファラデーの電気分解の法則を用いると 37.3 mol であることがわかる。
このとき,同時に発生する酸素の体積は水素の体積の $\displaystyle \frac{1}{2}$ 倍である。
この電解槽の一つの電解セルの電圧が 1.80 V で電流効率が 97 % のとき,上と同じ量の水素を製造するために必要な電気量は 1.03 kA·h,電力量は 3.71 kW·h である。
(参考)水素社会
水素は,水や多様な一次エネルギー源から様々な方法で製造することができるエネルギー源で,気体,液体などあらゆる形態で貯蔵・輸送が可能であり,利用方法次第では高いエネルギー効率,低い環境負荷,非常時対応などの効果が期待されており,将来の二次エネルギーの中心的役割を担うことが期待されている。
このような水素を本格的に利活用する社会を水素社会という。
参考文献
- 「まるわかり 電力デジタル革命キーワード 250」(西村 陽・巽 直樹,一般社団法人日本電気協会新聞部,2018年8月8日)
- 電気学会 電力・エネルギー部門 用語解説 第149回テーマ:水素製造技術
- 令和4年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問6「水電解」
- 平成16年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問7「水の電気分解」
更新履歴
- 2022年3月8日 新規作成
- 2022年7月2日 水電解反応の式,記事の概要を追加
- 2022年8月28日 参考文献に「令和4年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問6」を追加
- 2023年8月4日 電解法による水素製造を追加
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