我が国の配電線は架空線が多く,年度により若干の差異はあるものの雷,風水害,氷雪,塩害など自然災害の影響を大きく受けることが多く,約半数を占める。
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その他の事故の要因としては,設備不備,保守不備や自動車の衝突,クレーン車の接触などの故意過失,樹木鳥獣の接触が主な原因としてあげられる。
一方で,地中線は都市の美観,防災上の観点などから都市部を中心に増加しており,主な事故の原因は道路工事における故意過失や設備不備,保守不備があげられる。
以下に,高圧配電線の事故の種類,事故時に動作する保護装置,事故の主な原因についてまとめる。
瞬時故障と永久故障
配電系統の故障には瞬時故障と永久故障がある。
配電系統における故障において,瞬時故障は大部分を占める。
瞬時故障の場合,保護装置によって系統を開路し,故障点の消滅を待って再閉路する方式が有効となる。
瞬時故障
瞬時故障は故障点が自然に消滅してリレー動作に至らない場合や,回路が一旦停電した後に故障点が消滅し,再閉路した場合であり,瞬時的な雷サージフラッシオーバや飛来物,鳥獣,樹木などが電線に瞬間的に接触することなどに起因する故障である。
永久故障
永久故障は故障点が消滅しない場合で,例えば,断線垂下,機器の絶縁破壊及び他物との長時間接触などに起因する故障である。
短絡事故
配電線で短絡事故(phase fault, short-circuit fault)*1が生じると,過電流リレー(overcurrent relay)*2が動作する。
配電線で短絡事故が生じる主な原因は,以下の通り。
- 自然災害
- 支持物倒壊による短絡(例えば,自動車衝突による)
- 配電線の機器内の不良による接触
- 道路工事による地中線の損傷
短絡故障保護
短絡故障は,過電流リレー(OCR : Over Current Relay)により保護する。検出感度については,配電線の過電流リレーは通常設備容量の 150 ~ 200 %,需要家の過電流リレーは契約最大容量の 150 % で動作させている。
また,時限設定は設備被害の拡大防止のため,上位・下位系統と協調を図りながら,できるだけ高感度(通常 0.2 ~ 0.4 秒程度)で遮断するように運用されている。
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異相地絡事故
配電線で異相地絡事故が生じると,過電流リレーまたは地絡リレーが動作する。
配電線で異相地絡事故が生じる主な原因は,自然災害のうち特に雷による碍子の亀裂である。
地絡事故
配電線で地絡事故(earth fault, ground fault)*3が生じると,地絡リレー(earth fault relay)*4が動作する。
配電線で地絡事故が生じる主な原因は,以下の通り。
上図のように,配電用変電所においては,高圧母線に設置する接地形計器用変圧器(EVT : Earthed Voltage Transformer)の三次側オープンデルタに限流抵抗を接続し,一次換算で kΩ オーダーの高抵抗接地とすることが非接地方式として主流である。
1 線地絡故障時の等価回路
A,B 配電線の 1 線当たりの対地アドミタンスを $\dot{Y}$,GPT 二次側挿入抵抗の一次側に換算した等価中性点抵抗を $R_\text{n}$,地絡抵抗を $R_\text{g}$,地絡故障が発生した線の故障発生前の対地電圧を $\dot{E}_\text{a}$ とするとき,1 線地絡故障時の等価回路を下図に示す。
高圧配電線路の地絡故障検出
高圧配電線路の地絡故障は,過電圧リレーによって零相電圧から検出することができるが,多回線の場合,故障回線の選択ができない。
したがって,地絡保護は接地変圧器と零相変流器とから入力をとる地絡方向リレーによって行っている。
接地変圧器は,一次側は中性点直接接地の Y 結線,二次側は開放 Δ 結線とし,その開放端に抵抗を挿入,零相電圧を検出してリレーに供給している。
なお,対地静電容量が大きい系統では,地絡故障時の零相電圧が小さくなり,リレーが動作しにくくなるおそれがある。
その代表的な対策として接地保護母線リレー方式がある。
この方式は地絡故障により零相電圧が発生したとき,これと位相の近似した他電源の電圧を地絡方向リレーへ零相電圧として供給するものである。
零相変流器は各配電線に設置され,零相電流をリレーに供給している。
地絡故障が発生した回線の零相変流器に流れる零相電流は,健全回線のそれとは位相が逆となる。これを利用して故障回線を選択遮断する。
地絡故障保護
配電線は非接地系統であるため,地絡しても導体による回路が形成されないため,事故電流はわずかしか流れない。
事故電流が小さいため,これを検出するのは難しい。
高圧配電線の地絡点故障抵抗の大半は,6 kΩ であることから,地絡リレーの感度も 6 kΩ 程度にして,地絡故障の大部分を検出するようにしている。
多回線の配電線を引き出している変電所においては,零相電圧で動作する地絡過電圧リレー(OVGR),零相電流とその向きによって動作する地絡方向リレー(DGR,earth fault directinal relay)*5を組み合わせて使用する。
また,瞬間的な地絡による不要動作を防止するため,地絡方向リレーには,ある程度の動作時限を持たせている。
地絡方向継電器
地絡方向継電器は位相特性をもっており,充電電流と接地形計器用変圧器(GPT)の中性線電流との合成電流で動作するように調整されている。
地絡事故時に地絡方向継電器の動作に貢献するのは健全フィーダの充電電流であるが,この充電電流は,対地静電容量の大きいフィーダに一線地絡事故が発生した場合には,対地静電容量の小さいフィーダに地絡事故が発生した場合に比べて小さい。
地絡過電圧継電器
地絡過電圧継電器の不要動作防止
高圧配電線路に単相線路部分が多く,対地静電容量が不平衡である場合,地絡過電圧継電器は不要動作することがある。
これを防止するためには,単相線路の相振替えや接地コンデンサの配電線路への取付けを行い,健全時の零相電圧を低減させる必要がある。
配電系統の塩害
塩害は,配電系統の中で,対策,処理が難しいものの 1 つであり,重汚損地域における塩害事故の発生には高圧配電線のトラッキングによるものがある。
この発生機構は絶縁電線の表面が塩分などで汚損された状態で湿潤を伴うと,電線表面に漏れ電流が流れ,その発生熱により局部的に電気を通しにくい乾燥帯が生成される。
このため,導電路が分断されて微小放電が起こり,放電箇所に炭化物が形成される。
トラッキングは,これらが繰り返されることにより導電経路が形成されることである。
通常の塩分付着であれば,雨で洗い流されて問題ないが,台風時または強風時には,雨を伴わない海からの風で,広範囲において塩分を含んだ風が侵入し,事故に至ることがある。
参考文献
- 電気学会技術報告 第1540号「配電用変電所保護リレーシステム技術」(2022年11月)
- 電気専門用語集(WEB 版)
- 令和3年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問7
- 平成30年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4「配電系統の塩害」
- 平成28年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問4「配電線の 1 線地絡故障」
- 平成27年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問7
- 平成15年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4「高圧配電線路の地絡故障検出」
- 平成10年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4「高圧架空配電線(三相非接地系統)の地絡保護」
更新履歴
- 2021年10月30日 新規作成
- 2021年11月14日 加除修正
- 2021年12月25日 「受電設備の保護協調」へのリンクを追加
- 2022年1月8日 「変電所のがいしの塩害対策」へのリンクを追加
- 2022年1月22日 参考文献に「電気専門用語集(WEB 版)」を追加
- 2022年5月14日 参考文献に「平成30年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4「配電系統の塩害」」を追加
- 2022年5月29日 参考文献に「平成15年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4」を追加
- 2022年6月5日 参考文献に「平成10年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4」を追加
- 2022年10月16日 参考文献に「平成28年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問4」を追加
- 2023年8月12日 接地形計器用変圧器の説明を追加