目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

計器用変成器

交流の高電圧又は大電流を測定する場合,変圧器を用いて計器の測定範囲に適した電圧や電流に変換することがある。

これらの変圧器を計器用変成器といい,電圧測定用のものを計器用変圧器(VT,PT),電流測定用のものを変流器(CT)という。

計器用変成器の役割

電力系統の電流,電圧は,大電流,高電圧であることから,これを保護リレー装置や制御装置に取り込むために,計器用変成器で小電流,低電圧に変換する必要がある。

計器用変成器の役割は,保護リレーや計器を高圧回路や特別高圧回路から絶縁し,電流や電圧を適当な大きさに小さく変成して継電器や計器に与えることである。

定格二次電圧は,通常 110 V に変成される。

定格二次電流は,通常 5 A または 1 A に変成される*1

計器用変成器の二次側負荷は計器や継電器などであり,線路の一般的な負荷と区別するためこれを負担という。

計器用変成器は,等価回路としては普通の電力用変圧器と同じであるが,変圧比及び変流比の精度を良くするためには,高透磁率の鉄心を使用して励磁電流を小さくするとともに,一次及び二次巻線の巻線抵抗と漏れリアクタンスを極力小さくする必要がある。

実際の計器用変成器では誤差が含まれるため,公称変圧比又は公称変流比と実際の変圧比及び変流比との差を,実際の変圧比又は変流比で除して百分率で表したものを計器用変成器の比誤差という。

変流器の使用中に二次側に接続されている機器を切り離す場合には,まず,変流器の二次端子を短絡するなどの過電圧対策をしておかなければならない。

代表的な計器用変成器

最も代表的な計器用変成器として,電流を変換する計器用変流器(CT : Current Transformer),電圧を変換する計器用変圧器(VT : Voltage Transformer*2)がある。

また,計器用変圧器と計器用変流器とを組み合わせて一体として,高電圧回路の電圧と電流を同時に変成し,主として電力の軽量の目的で使用される計器用変圧変流器(PCT)*3がある。

計器用変成器を使用目的で分類したものを下図に示す。

図 計器用変成器の分類

図 計器用変成器の分類

変流器

変流器(CT:Current Transformer)は,主回路に流れる交流の大電流を,測定しやすい大きさの電流に変換する場合や主回路と測定回路を絶縁する場合などに使われる変圧器である。

変流器の二次側には電流計などが接続されるが,これらの負荷は負担と呼ばれる。

変流器の一次巻線の巻数は 1 ~数回程度で,一次電流が定格電流のとき二次電流が 1 [A] 又は 5 [A] となるように作るのが標準である。

等価回路としては通常の変圧器と同じであるから,励磁インピーダンスが十分大きければ,一次電流 $I_1$ と二次電流 $I_2$ の比はほぼ正確に巻数に反比例する。

一次電流の大きさは一次側回路の条件で決まり,一次電流の起磁力を打ち消すように二次電流が流れるので,二次側を開くと一次電流が励磁電流となって,二次端子には極めて高い電圧が発生して危険である。

保護リレーと組み合わせて使用される変流器

保護リレーと組み合わせて使用される変流器では,系統短絡事故時の過電流で変流比誤差が変化すると,保護リレーの誤・不動作の原因となるため,過電流域でも一次電流と二次電流の比例関係が良好に維持されることが必要である。

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巻線形 CT(wound type)

CT 本体の鉄心に変流比に応じた一次巻線,二次巻線を巻いた構造である*4。低電流領域の精度は良いものの,高コストであること,モールド金型に制約があり寸法や形状が制限されることから,主に 6 kV 系統における保護用,制御・計測用として用いられている。

貫通形 CT(through type)

ドーナツ形の環状鉄心に一様に二次巻線が巻かれ,環状鉄心の中心を一次導体(母線,ブッシング*5,ケーブルなど)が貫通する構造である。構造が比較的簡素で特性が安定していること,低価格であることから,国内では電圧階級問わず保護用,制御・計測用として採用されている。

一方,一次電流が小電流領域の場合,精度が悪くなるため,誤差特性などに制約がある。

変流器の残留回路を利用する場合の留意事項

地絡検出方式として,変流器(CT)の残留回路を利用する場合の,CT の選定に当たって留意すべき点を二つ挙げよ。

  • CT の特性を同一とすること。CT 特性が同一でない場合は,三相合成電流の誤差分として残留電流が通常状態でも流れることになり,継電器の誤作動を招くおそれがある。
  • CT の変流比が大きくなる(300/5 以上)場合,必要に応じて三次巻線付 CT の使用を検討する。CT の変流比が大きい場合の残留回路利用は,継電器入力が小さくなるためである。

変圧器

巻線形 VT(wound type)

巻線形 VT は,変圧器と原理的にはまったく同じであり,鉄心と一次巻線,二次巻線から構成される。

巻線形 VT は低コストかつ高精度であり,コンデンサ形 VT と合わせて広く採用されている。

接地形計器用変圧器

配電用変電所においては,高圧母線に設置する接地形計器用変圧器(EVT : Earthed Voltage Transformer)の三次側オープンデルタに限流抵抗を接続し,一次側で kΩ オーダーの高抵抗接地とすることが非接地方式としての主流である。

コンデンサ形 VT

コンデンサ形 VT(CVT : Capacitor Voltage Transformer*6)は,静電容量 $C_1$ および $C_2$ による容量分圧の原理を用いたものである。

CVT の原理図

CVT の原理図

CVT は,コンパクト,高精度,絶縁性に優れるといった利点があることから,巻線形 VT と同様,幅広い電圧階級において広く採用されている。ただし,リアクトル $L$,静電容量 $C$,抵抗 $R$ といった要素で構成されるため,過渡特性があることや鉄共振が発生することに留意する必要がある。

コンデンサ形計器用変圧器の基本回路を下図に示す。

図 コンデンサ形計器用変圧器の基本回路

図 コンデンサ形計器用変圧器の基本回路

変成器の誤差

変成器の誤差には,比誤差,位相角および合成誤差がある。

なお,変流器の比誤差及び位相角は,定格周波数で,定格負担と定格負担の 25 % の負担,負荷力率は 0.8 遅れ電流(ただし,標準用変流器及び定格二次電流 0.1 A の変流器の負担力率は 1.0)によって試験を行う。

比誤差(ratio error)

変成器の比誤差 $\epsilon$ [%] は,次式で表される。(ただし,$K_\text{n}$ は公称変成比,$K$ は真の変成比である。)

\[ \epsilon = \frac{K_\text{n}-K}{K} \times 100 \text{ [%]} \]

変流器の誤差を少なくするには高透磁率の鉄心を使用し,励磁電流を小さくすることである。

変流器の誤差の主な原因は励磁電流であり,一定負担の下では鉄心が飽和しない範囲であれば,励磁電流は二次電流に比例する。

現実には,大きさの限られた鉄心を使用し,負担の存在下では,一次電流が増えれば誘導電圧が大きくなり,やがては鉄心が飽和してくるので,励磁電流は著しく増える。

この変流器の特性を示すものとして,変流器の一次側を開放し,二次巻線に電圧を印加して電流を流し,印加電圧と電流の関係を示す変流器の二次励磁特性曲線がある。

位相角(phase angle)

一次電流ベクトルまたは一次電圧ベクトルと 180 ° 回転させた二次電流ベクトルまたは二次電圧ベクトルとの間の相差角で,180 ° 回転させた二次電流ベクトルまたは二次電圧ベクトルが進む場合の位相角 $\theta$ を正として分(単位)で表す。

合成誤差

計器用変成器が電気計器または測定装置の指示に影響を及ぼす誤差で,1 個または 1 組の計器用変成器の比誤差と位相角による誤差を合成したものをいう。

変流器の特性

過電流定数

変流器の過電流域での特性の一つとして過電流定数がある。

過電流定数は,電気学会 電気規格調査会標準規格 JEC-1201-1996 の中で,「定格二次負担(力率 0.8 遅れ電流)のもとで,定格周波数の電流を流して比誤差を試験したとき,その値が -10 [%] になるときの一次電流を定格一次電流で除した値」と決められている。

一般に $n$ なる記号が使われるが,$n=20$ といえば,定格負荷で定格一次電流の 20 倍の一次電流が流れると比誤差が 10 [%] となることを意味する。

変流器の銘板に記載される過電流定数は,定格二次負担における数値で示される。

短絡電流が大きな回路に,定格一次電流の小さな変流器を用いる場合には,過電流定数の大きな変流器が必要で,定格一次電流での磁束密度を小さくする必要がある。

しかしながら,変流器の二次巻線抵抗値が小さければ(過電流定数 × 定格二次負担)の値はほぼ一定となるので,二次回路に接続される電線路や器具類のインピーダンスによって,実用的な過電流定数は変化する。

一般に,主回路の短絡事故電流には減衰する直流分が含まれる。

この直流分電流によって変流器鉄心が偏磁や飽和を起こし,事故発生から数サイクルの間正確な変流器二次電流が得られない場合がある。

このような短絡事故電流に対して,高速度で確実な保護リレーの動作を得るための変流器として,磁路にギャップを設ける等の対策を施した過渡特性付変流器を使用することもある。

参考文献

  • 電気学会:「保護制御システムにおける計器用変成器と関連技術の現状と動向」,電気学会技術報告 第1475号(2020年3月)
  • 電気学会:「配電用変電所保護リレーシステム技術」,電気学会技術報告 第1540号(2022年11月)
  • 令和4年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問3「計器用変成器」
  • 平成30年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問3「コンデンサ形計器用変圧器(CVT)」
  • 平成20年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問3「変流器(保護リレー用)の特性」
  • 平成19年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問2
  • 平成18年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問6「受変電設備における地絡保護」
  • 平成17年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3「変電所等に設置される変流器の特性」

更新履歴

  • 2021年10月17日 新規作成
  • 2021年10月24日 加除修正
  • 2021年12月28日 参考文献に「平成20年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問3」を追加
  • 2022年2月11日 参考文献に「平成19年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問2」を追加
  • 2022年5月29日 参考文献に「平成17年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3」を追加
  • 2022年6月19日 アイキャッチ画像を変更
  • 2022年7月16日 参考文献に「保護制御システムにおける計器用変成器と関連技術の現状と動向」を追加
  • 2022年8月27日 参考文献に「令和4年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問3」を追加
  • 2022年10月22日 参考文献に「平成18年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問6」を追加
  • 2022年11月4日 参考文献に「平成30年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問3」を追加
  • 2023年8月12日 計器用変成器の分類を追加,参考文献に「配電用変電所保護リレーシステム技術」を追加

*1:東京電力では,1 A に変成しているようである。

*2:PT : Potential Transformer ということもある。

*3:電力の取引用に用いられるとき,MOF(metering out fit)と呼ばれ,指示電力計または電力量計と組み合わせて使用される。

*4:三次巻線を巻くこともある

*5:ブッシング用に用いられる貫流形 CT を BCT という。

*6:PD : capacitance potential device ということもある。