目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

保護リレーシステム

電力系統を構成している送配電線や機器は,雷,風雨,塩風などの自然条件をはじめとする原因などによって事故が発生する。

このような電力系統で発生した事故を速やかに除去するためには,事故を迅速に検出して事故点周囲の局限した区間を的確に選別する必要がある。

この検出と選別との動作に相当するのが保護リレーシステム(protective relaying system, 保護継電方式)である。

また,電力系統に事故が発生した場合に,これを高速・確実に除去しても,この波及によって,大きな発電力や負荷を系統から切り離し周波数が異常となったり,残りの設備が過負荷を生じたり,安定度が破れて脱調現象を生じ需要の不平衡を生じて大停電事故に発展する場合もある。

このような場合でも電力系統を安定化し,大停電の未然防止はもとより,供給支障を極力最小限の範囲に留めるのが保護リレーシステムの重要な役割である。

保護リレーシステムの役割

大浦 好文他による「保護リレーシステム工学」では,保護リレーシステムの役割は,次のように記されている。

電力機器の故障や電力系統の異常が発生した場合,公衆安全および設備保安の確保のため,故障や異常の影響を局限化する必要がある。

保護リレーシステムの責務は,電圧,電流などの変化から,電力系統や設備に発生した異常を検出し,遮断器に遮断指令を与えることで,速やかに事故区間を電力系統から切り離すことである。

系統保護リレーシステムは,電力系統の安定運用を維持するための重要な役割を担っており,系統事故様相をよく把握し,絶えず保護性能の改善に努め,設備形成や系統運用計画と十分協調のとれたシステムとしていくことが必要である。

保護リレーシステムの主な役割を以下に示す。

事故除去

送電線や変電所などで発生する事故は,落雷・氷雪といった自然現象や,樹木・鳥獣などの接触,電力機器の故障などを要因としており,主に導体間の短絡,地絡あるいは断線として電力系統に現れる。

事故電流は人体に危害を加えたり,設備を損傷させたりするおそれがあるため,極力速やかに事故の発生を検出し,事故点を電力系統から切り離す必要がある。

また,供給信頼度の維持・向上を図るためには,切離し区間を必要最小限に留めることが重要である。

このために保護リレーには区間判別や方向距離判別の基本検出機能を有することが重要となる。

事故波及の局限化

電力系統に事故が発生すると,大幅な電圧低下が生じ,発電機出力が低下する。

事故区間を高速,最小区間で切り離したとしても事故が除去されるまでの間に発電機に入力される機械エネルギーは,事故による変化に即座に対応できないため,発電機の回転数が上昇し,最悪の場合は脱調に至るおそれがある。

そのような状況になると,発電機を分離したり,系統を分離したりする必要があるため,需要と供給のバランスが崩れ,周波数異常が生じる。

さらには事故が電力系統全系へ波及し,最終的には系統崩壊へ繋がる可能性がある。

万が一,系統崩壊を引き起こした場合,復旧に多大な時間を要することから,大規模かつ長時間の停電が継続する。

したがって,保護リレーシステムには高速かつ確実な動作が必要不可欠である。

復旧の迅速化

電力系統における事故の中でも,特に架空送電線での事故は,雷害などによる一時的な絶縁破壊に起因するものがほとんどであり,遮断器の開放により一定時間以上無電圧にすると,絶縁の回復が期待できる。

保護リレー装置は,事故除去後に電力系統の安定性向上を図るため,遮断器に投入指令を送出し,自動かつ高速に系統復旧を行う再閉路機能を実装しているものが多い。

上記以外にも,必要に応じ,停電時間の短縮や復旧操作の自動化のみを目的とした中速・低速再閉路(自動復旧装置)なども実装している。

保護リレーシステムの構成

保護リレーシステムは,電力系統に発生した事故を高速に除去することにより,公衆安全を確保し,事故設備の損傷を軽減するとともに,電力系統を安定的に運用する重要なシステムである。

保護リレーシステムを保護リレー装置単体で実現することは困難であり,保護リレーシステムとして機能を果たすためには,保護リレー装置へ系統状態(電圧・電流など)に関する情報を伝達する装置や,事故点を電力系統から切り離す設備などの周辺設備が必要不可欠である。

保護リレーシステムは,下図に示すように保護リレー装置と以下の周辺設備により構成される。

図 保護リレーシステムの構成

図 保護リレーシステムの構成

計器用変成器

計器用変成器とは,保護リレー装置などに使用する電流および電圧の変成用機器で変流器(CT : Current Transformer)および計器用変圧器(VT : Voltage Transformer)の総称である。

CT は,電力系統に流れる大きな電流を取り扱いやすい小さな電流に変換し,同時に,主回路と計測装置や保護リレー装置を電気的に絶縁することができる。

VT は,CT と同様に主回路と保護リレーを電気的に絶縁することに加え,主回路の電圧を計測しやすいような大きさに変換するものである。

VT には,電磁誘導作用を利用したものと,コンデンサ分圧を利用したコンデンサ形計器用変圧器(CVT : Capacitor Voltage Transformer)がある。

electrical-engineer.hatenablog.jp

遮断器

遮断器(CB : Circuit Breaker)は,回路の投入,遮断をする装置であり,事故時には保護リレー装置からの制御指令により,短絡や地絡などの事故電流を速やかに遮断して事故点を切り離し,電力系統の正常化を図る。

electrical-engineer.hatenablog.jp

監視制御装置

変電所・開閉所の構内に設置される構内系統の状態監視や CB 開閉などの操作を担い,遠方および現地での電力設備の監視制御,事故時の自動復旧,記録・保守支援などの機能を備える制御装置や監視制御盤から構成されるシステムをいう。

保護リレーの種類

回線選択リレー

回線選択リレー方式は,平行 2 回線送電線路の保護リレー方式として,66 ~ 77 kV 級送電線路を主体に広く採用されている。

この方式は,保護対象区間の範囲内の 1 回線事故の場合に,電源端では事故回線に流れる事故電流が健全回線に流れる電流と比べて大きくなること,及び,非電源端では両回線で事故電流の方向が反対になることを利用して事故回線を検出する。

距離リレー

距離リレーはその設置箇所の電圧,電流の測定値を用いて事故点までの距離を測距し,事故点が保護区間の内か外かの判定をしている。

主保護として即時遮断が可能な保護範囲は,本来は保護すべき区間の全長とするのが望ましいが,変成器の誤差リレー動作値の誤差,さらには送電線インピーダンス定数の誤差などによる事故点までの測距誤差を考慮し,一般に保護すべき区間の 80 [%] 程度としており,この範囲を第一段保護範囲と呼ぶ。

距離リレー方式は,複数のリレー要素の組合せで実現されるのが一般的であり,事故点の方向を識別するのに適したモー形リレー要素や事故点抵抗の影響を受けにくいリアクタンス形リレー要素から構成される。

後備保護の主体である距離継電器においても,系統事故時に発生する過渡高調波の含有率の増加と低次化などに起因する検出感度の低下を解決するため,ディジタル化の特長を活かして,演算形距離継電器や逆相距離継電器が開発,実用化されている。

electrical-engineer.hatenablog.jp

PCM 電流差動リレー

事故除去リレー装置のうち,事故区間を高速かつ確実に選択遮断できる方式として,PCM 電流差動リレーが挙げられる。

電力用通信システムのディジタル化や光ファイバー伝送路の拡充により,基幹系統を中心に PCM 電流差動継電器が大幅に普及した。

従来の方向比較方式や回線選択方式では,保護が難しい多端子等の複雑な系統に対しても PCM 電流差動継電器が適用されるようになった。

比率差動リレー

主要変圧器の保護には比率差動リレーが用いられる。

比率差動リレーは変圧器内部事故を検出するもので,巻線間短絡事故などの事故電流が負荷電流よりも小さい事故でも検出することが可能である。

なお,励磁突入電流による誤動作を防止するため,励磁突入電流に第二調波成分が多く含有することを利用した誤動作防止機能が付加されている。

変圧器の一次,二次の結線が Y-Δ 結線の場合,変圧器一次,二次の電流の位相が異なる。

そのため,差動リレー方式を適用する際,内部のソフトウェアで補正しない場合には,変圧器一次側の CT 二次結線には Δ 接続,変圧器二次側の CT 二次結線には Y 接続を用いて電流位相の整合をとらなければならない。

CT 二次結線を,変圧器一次側 Y 接続,二次側 Δ 接続とした場合でも電流位相を合わせることができるが,変圧器一次側の中性点が接地してあると,外部地絡事故が発生した場合,変圧器一次側の CT 二次回路にのみ零相電流が流れることで,リレーの誤作動につながる。

また,差動リレー方式のように複数の CT の差電流で事故を検出する場合,CT 間の特性差により誤差電流が発生することが考えられる。

このようなことから,差動リレーの誤動作を防ぐために,リレーに入力された電流のスカラー和で抑制量を作り,リレーの感度を調整する比率差動リレーが一般に採用される。

母線保護リレー

母線の保護には電流差動方式による母線保護リレーが用いられ,外部事故時に変流器が磁気飽和しても誤動作しない高インピーダンス形差動方式による一括保護,又は一括保護と母線切替え時の変流器切替えが容易なインピーダンス形差動方式による分割保護の組み合わせが適用される。

なお,近年のディジタルリレーでは,変流器磁気飽和対策を施し一括保護にもインピーダンス形差動方式を用いる事が多くなっている。

保護リレーの保護範囲

電力系統のどの箇所に事故が発生しても,その事故区間を明確にし,適切な遮断器により事故区間を系統から分離できるようにするためには,保護リレーの保護範囲を明確に決めておく必要がある。

このため,保護範囲は互いに隣接する装置を接続する遮断器を挟んで相互に重複していることが原則である。

主保護は,異常事態に対して高速に事故区間だけを除去することを主目的とした保護であり,これが失敗したときに後備保護装置が作動することになる。

その場所により遠方後備保護と自端後備保護に分けられるが,主保護の動作失敗を確認してから実行されるため,リレー間の時限の協調が必要となる。

electrical-engineer.hatenablog.jp

事故除去リレー装置

事故除去リレー装置では,系統事故を速やかに検出し,健全な電力系統から事故区間を確実に切り離すために,様々な信頼度向上策が講じられている。特に基幹系統では,多系列化により保護の確実化を図っている。

しかし,事故除去リレー装置の動作失敗や遮断器不動作現象の発生による事故除去時間の遅延,さらには大規模電源の脱落や事故除去区間の広範囲化により,系統脱調,周波数異常,電圧異常や設備過負荷などの種々の異常状態を引き起こすことがある。

この影響を系統全体に波及拡大するのを防止し,電力系統の安定運転を維持するのが事故波及防止リレー装置の役割である。

なお,再閉路方式の選定にあたっては,一時的な無電圧・欠相状態の把握による過渡安定性のほか,火力機や原子力機の軸ねじれの問題を考慮する必要がある。

保護リレー装置の誤動作,誤不動作時の影響

保護リレー装置の不良は,動作信頼度の面から,誤動作と誤不動作とに分けて考える必要がある。

誤動作は,系統が健全であるにもかかわらず動作したり,保護範囲外の系統事故で動作するなど不要な遮断を起こすものである。

一方,誤不動作は,系統の事故時にこれを保護する保護リレー装置が不動作となるもので,後備保護遮断となって事故除去が遅れるとともに,隣接した電気所でも遮断が行われるため,供給支障が広範囲となり,場合によっては系統の安定性も失われる。

これらの誤動作や誤不動作の確率をシステム的に減少させようとする方策が多重化であり,同一又は類似の機能をもった装置を追加して動作信頼度の向上をねらうものである。

保護リレーシステムの信頼度向上策

保護リレーシステムの信頼度向上策,ねらい,具体例を下表に示す。

第1表
信頼度向上策 ねらい 具体例 誤動作率 誤不動作率
不良発生の防止 故障する要因を排除し故障しにくいものにする。 サージ対策
自動監視の適用 稼動信頼度の向上(故障したらすぐ発見・修復を行う) 電圧監視,情報伝送回路のパリティチェック
多系列化 装置不良と系統事故との同時発生に備え保護の確実化を図る 並列二重化
直列多重化 故障しても直ちに不要動作につながらない構成とする フェイルセーフ

送電線保護に用いられる電流差動リレーの誤動作

送電線の外部事故発生時において,故障電流が大電流になると,CT にも大きな電流が流れるため比例分誤差が大きくなる。

特に CT の鉄心飽和に伴い電流値の誤差が大きくなると,端子間に不要な差電流が生じて電流差動リレーが誤動作するおそれがある。

電流差動リレーの比率特性を小電流域特性と大電流域特性の二つの要素から構成し,大電流域において誤差が大きくなったときに動作感度を低下させることにより,誤動作を防止する。

変圧器保護に用いられる比率差動リレーの誤動作

変圧器を停止したときに変圧器鉄心に残留磁束が残った状態で,次に変圧器を充電すると,系統電圧の位相によっては大きな励磁突入電流が発生するため差動回路に大きな差電流が発生し,比率差動リレーが誤動作するおそれがある。

励磁突入電流には第二高調波が多く含まれることから,これを検出した場合は差動リレーの抑制量を増やしたり,リレーを短時間ロックすることにより,誤動作を防止する。

母線保護リレーに用いられる電流差動リレーの誤動作

母線の外部至近端の回線で事故が発生した場合,事故回線の CT 一次側に大きな故障電流が流れる。

この際,交流電流に過渡直流分が重畳するため CT 鉄心に磁気飽和が生じ誤差が生じる。

一方,事故回線以外の変流器は飽和せず誤差も生じないため,母線保護リレーが不要な差電流を検出し誤動作するおそれがある。

事故回線の CT の非飽和期間に差電流の無変化を検出した場合は外部事故と判定して,リレーを短時間ロックすることにより,誤動作を防止する。

保護リレーの自動監視

保護リレーにはその責務から高い信頼度が要求される。

このため機器そのものの信頼度を向上させるとともに,自動監視機能が備えられ,稼動信頼度の向上と保守の省力化が図られている。

自動監視は常時監視と自動点検に大別されるが,アナログリレーでは,常時監視は誤動作となる不良の発見を目的にしており,自動点検は誤不動作となる不良の発見を目的としている。

ディジタルリレーの場合,ほとんどの不良は常時監視で発見が可能である。

大部分の自動監視機能はソフトウェアによる診断機能により実施され,ハードウェアのブロック単位に高精度な検出が可能である。

常時監視では保護リレーの一過性故障に不要応動しないよう,故障の頻度監視を行う。

アナログ入力部や出力回路などで常時監視により十分なチェックができない部分については,保護リレー機能を中断して自動点検を行う。

点検処理としては模擬信号を印加し,その結果を確認することで短時間に健全か否かをチェックする方法が採られている。

参考文献

  • 「実務に則した保護リレーシステム技術の基礎の学び方」,電気学会技術報告 第1425号(2018年2月)
  • 令和4年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問5「系統保護のための距離リレー」
  • 令和4年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3「距離リレー」
  • 令和3年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2
  • 平成30年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3「保護リレーシステム」
  • 平成30年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3「送電線保護リレー」
  • 平成29年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3「主要変圧器及び母線の電気的保護に用いられるリレー」
  • 平成22年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6「保護リレーシステムの信頼度向上」
  • 平成22年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3「保護リレーシステム」
  • 平成19年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6「変圧器の保護に用いられる差動保護リレー方式」
  • 平成18年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問2「保護リレーの自動監視」
  • 平成17年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問5「送電系統に用いられる距離リレー方式」
  • 平成17年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4「保護リレーの保護範囲」
  • 平成16年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3「保護リレー装置の誤動作,誤不動作時の影響」
  • 平成9年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3「送電線の最近の保護継電器」

www.iee.jp

更新履歴

  • 2021年11月14日 新規作成
  • 2021年11月22日 用語解説を追加
  • 2021年12月12日 参考文献に「平成18年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問2」「平成17年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4」を追加
  • 2021年12月19日 参考文献に「平成16年度 第二種 電気種に技術者 一次試験 電力 問3」を追加
  • 2021年12月25日 「受電設備の保護協調」のリンクを追加
  • 2021年12月30日 参考文献に「平成17年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問5」を追加
  • 2022年1月29日 参考文献に「令和3年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2」を追加
  • 2022年5月14日 参考文献に「平成30年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3」を追加
  • 2022年5月22日 参考文献に「平成22年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6」を追加
  • 2022年6月11日 参考文献に「平成9年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3」を追加
  • 2022年8月27日 参考文献に「令和4年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3」を追加
  • 2022年8月28日 参考文献に「令和4年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問5」を追加
  • 2022年9月11日 「距離リレー」のリンクを追加