電力系統の電気の流れをみると,水力,火力ならびに原子力などの発電所で発電した電気は,電圧を昇圧して,送電線によって変電所(substation)に送られる。
変電所では,電圧を降圧(または昇圧)し,送電線でさらに他の変電所に送電したり,送電線や配電線を通して需要家に電気を届ける。
電気設備に関する技術基準を定める省令 第 1 条【用語の定義】において,「変電所」は,次のように定義されている。
「変電所」とは,構外から伝送される電気を構内に施設した変圧器,回転変流器,整流器その他の電気機械器具により変成する所であって,変成した電気をさらに郊外に伝送するものをいう。
変成とは,電力を経済的に輸送するために行う,主として電圧の変成(変圧)である。
変電所の分類
変電所は,用途,電圧階級,形式などにより分類できる。
変電所の用途による分類
変電所の用途として,送電用変電所,配電用変電所および周波数変換所がある。
送電用変電所
特別高圧で受電した電気をほかの特別高圧*1に変成して送電する変電所で,昇圧用変電所と降圧用変電所がある。連系用変電所(略称「連変(れんぺん)」)とも呼ばれる。
昇圧用設備は,水力,火力ならびに原子力などの発電所に併置されることが多い。
配電用変電所
特別高圧で受電した電気を高圧*2に降圧して配電する変電所である。略称「配変(はいへん)」。
周波数変換所
周波数の異なる二つの電力系統を連系する変電所である。
周波数変換所では,東日本は交流 50 Hz で,西日本は交流 60 Hz となるため*3,一度,交流を直流に変換(順変換)して,それを交流に変換(逆変換)することを行っている。
日本では,佐久間周波数変換所,新信濃周波数変換所および東清水周波数変換所があり,東日本と西日本の間が連系されており,災害時などで電力が不足した場合には,これらの周波数変換所により,電力を融通することが可能となる。
しかしながら,2011年3月に発生した東日本大震災において,計画停電の実施といった電力供給力が大幅に不足する事態が発生し,大規模災害発生時の電力供給力の向上に対する必要性が高まった。
それに伴い,東日本 50 Hz と西日本 60 Hz の異周波数間の電力連系強化に向けて,飛騨信濃周波数変換設備の建設がスタートし,2021年3月に運転を開始した。
飛騨信濃周波数変換設備により,電力の供給信頼度が向上し,電力ネットワークはより強固になった。
また,周波数が同一の電力系統を直流で連系する変電所で,直流部分に直流線路がなく,二つの交直変換器で交流系統を背中合わせにして接続した直流連系方式(BTB : Back-to-Back)がある。南福光変電所*4がそれに該当する。
電圧階級による分類
高圧側の電圧により,変電所を分類する。
500 kV 変電所
500 kV から 275 ~ 154 kV へ降圧する送電用変電所をいう。
超高圧変電所
275 ~ 187 kV から 154 ~ 66 kV へ降圧する送電用変電所をいう。
一次変電所
154 ~ 110 kV から 77 ~ 22 kV へ降圧する送電用変電所をいう。
中間または二次変電所
77 ~ 66 kV から 33 ~ 22 kV へ降圧する送電用変電所をいう。
配電用変電所
154 ~ 22 kV から配電電圧(一般には 6.6 kV)に降圧する変電所
形式上の分類
屋外式変電所
変圧器,開閉設備など主要設備を全て屋外に設置し,配電盤など制御装置だけを屋内に設置したもの。
用地面積は大きいが,機器を整然と配置することができ,工事費は安くなる。
屋内式変電所
変圧器,開閉設備など主要設備および配電盤など制御装置を全て屋内に設置したもの。
屋外式変電所に比べて,屋内式変電所の用地面積は縮小できるが,建物工事費が高くなる。
半屋内式変電所
主要設備の一部を屋内に置き,残りを屋外に設置するものを半屋内式変電所という。
地下式変電所
都心部などで用地の取得が困難なとき,ビルや公園などの地下に変圧器,開閉設備など主要設備を設置する方式。変圧器などの冷却設備は,ビルの屋上や地上に設置する。
工事費は,一般に屋内式よりも高くなる。
地下式変電所の機器配置の設計に当たって,次の事項を考慮する。
- 変電所のユニット化
- 保守の安全化
- 点検修理における安全確保と作業スペースの確保
- 将来の需要を見込んだ機器配置
- 所要面積の縮小
- 主要変圧器などの重量機器を最下層部に配置し,重量を直接,基礎から地盤に伝達できるようにする
- 自動消火設備の適正配置
- 排気装置の設置
- トータルガス絶縁化による防災対策と変電所の縮小化
- 機器搬入への考慮
- 浸水対策の検討
変圧器と電力ケーブルの防火対策として,次の事項を考慮する。
変圧器については,絶縁油を使用しない乾式変圧器(H 種絶縁など)やガス絶縁変圧器を使用する。
油入変圧器を使用する場合は,タンクを補強し,内部事故時のタンク破壊による発火を防止する。
電力ケーブルについては,OF ケーブルを採用せず,CV(架橋ポリエチレン)ケーブルを採用,ケーブルシース・介在物に難燃性を付加したケーブルを採用する。
さらに変電所ピットへの砂の充填,難燃材料(防火シート)のケーブルへの巻き付け・塗布も有効である。また,壁貫通部などには耐災シール材で防火区画を施す。
半地下式変電所
住宅地などに変電所を設置する場合には,建物の高さに制限を受けることがある。その場合,建物の高さを低減するために地下室を設け,主要変圧器などの一部の機器を地下室に設置し,残りの機器を地上階に設置する方式である。
移動式変電所
トレーラやトラック上に移動用の変圧器,電力ケーブル,キュービクルなどを積載し,事故時や機器増設工事または機器取替工事の際に用いられる。
形態別分類
変電所は,その形態により気中絶縁形変電所,GIS 変電所およびその混合形であるハイブリッド GIS 変電所などに分類される。
気中絶縁形変電所
主要回路を大気圧空気にて絶縁(気中絶縁)する方式の変電所である。用地面積は大きいが,電気設備に要する工事費は安価である。
GIS 変電所
主要回路を SF6 ガスで絶縁したガス絶縁開閉装置(GIS)を用いて構成した変電所である。気中絶縁形変電所に比べ,用地面積は大幅に縮小するが,電気設備に要する工事費は割高である。
550 kV GIS では,大容量の一点切遮断器の適用,72/84 kV GIS では急速な小形化が進み,据付面積の縮小化など変電所建設の経済性向上に大きく貢献している。
ハイブリッド GIS 変電所
気中絶縁形変電所と GIS 変電所の中間的形態の変電所である。主要回路のうち母線部分を気中絶縁とし,主要な開閉設備を GIS により構成する。用地面積は気中絶縁形変電所に比べ縮小し,電気設備に要する工事費は GIS 変電所に比べ安価となる。
変電所の環境調和
変電所は,通常の運転をするうえでは,排ガスや汚水など,環境を汚染する廃棄物はほとんど発生しないが,地域との共生や周囲との調和を図るためには,以下のような対応が必要となる。
変電所から発生する騒音の対策
変電所から発生する騒音には,変圧器騒音や開閉器操作音,空気圧縮機の騒音などがある。
これらの騒音対策としては,低騒音機器の採用,騒音源となる機器を屋内に設置,騒音源となる機器の周囲を防音壁で囲むなどの処置がとられる。
変圧器自体の騒音の発生原因としては,① 鉄心の磁気ひずみによる振動,② 鉄心のつなぎ目及び成層間に働く磁気吸引力による振動,③ 巻線導体間又は巻線間に働く電磁力による振動,④ 強制冷却の場合,ポンプ,ファンなどの補機が発生する振動などがある。
鉄心から発生する騒音を低減するためには,主な原因である ① を小さくすることが有効であり,具体的には,経時変化の少ない材料を使用したり,鉄心の磁束密度の値を低減させたりする方法が考えられる。
変電所の景観対策
変電所の有効な景観対策としては,変電所周囲の緑化,目隠し効果のある壁の設置,充電部隠ぺい化機器の採用,屋内式又は地下式変電所の採用などがあるがコストが高くなる欠点がある。
変電所から発生する電磁界 (EMF) のレベルを低減させる対策
変電所から発生する電磁界 (EMF) のレベルを低減させる対策として,磁界を閉じ込める方法と発生する磁界そのものを小さくする方法がある。
前者は,磁界発生源の周囲を覆うものとして,アモルファス素材や鉄などが用いられる。
後者は,三相交流の特徴を利用して,電流が流れる 3 本の導体を均等に配置して,発生する磁界を打ち消す方法や,隣接する機器やケーブルに流れる電流方向を向かい合わせて打ち消す方法などが採用されている。
参考文献
- 電気学会氏 2022 Vo. 142 No. 2,十見百聞「大規模災害時の電力供給能力向上を目指して~飛騨信濃周波数変換設備~」
- 令和5年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問5「変電所の環境調和」
- 平成21年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2「地下変電所の設計」
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