目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

生産ラインにおける自動化技術

コンピュータを活用して複雑な設計・製図を効率よく行えるものとして CAD システムがある。

3 次元 CAD を用いると,ディスプレイ上で設計対象物を立体的に表示でき,様々な方向から確認することができる。

CAM システムはコンピュータを活用した機械加工を中心とした生産準備の自動化システムをいい,CAD システムと連携させることで,設計対象物の加工手順を生成し,NC 制御された工作機械で加工することが可能である。

XYZ の各軸に主軸又はテーブルの回転,傾斜を加えた多軸制御の工作機械では,CAD システムの 3 次元設計データを活用して,複雑な形状や曲面を加工することができる。

ただし,制御軸が増えると構造が複雑となり,剛性が低くなることや,加工時に切削工具が加工物に接触する角度や面積が変化することで切削抵抗の変動があり,精度や表面粗さが悪化しやすくなることに注意が必要である。

マシニングセンタは,自動的に工具を交換する機能を有する NC 工作機械であり,加工内容の自由度が増え,CAM システムとの親和性が良い。

一方で,より複雑な形状を造形する方法では,3D プリンタが試作や少量生産の製品などへ利用されている。

耐久性のある金属製の立体形状を作成する場合は,粉末状の材料にレーザを照射して溶着させる方法がある。

生産ラインでは,各種工作機械やマシニングセンタの他,溶接,組立,塗装などを行う産業用ロボットや,無人搬送車,自動倉庫などが組み合わされて,工場全体の自動化が行われる。

このようにして工場の自動化をすることをファクトリーオートメーションという。

参考文献

  • 令和5年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問7「生産ラインにおける自動化技術」

更新履歴

  • 2023年9月3日 新規作成

変圧器の冷却

変圧器に入力する電力の一部は,変圧器の内部で損失となり熱に変わる。

この熱による温度上昇は絶縁物の劣化等につながるため,温度上昇を抑制する観点から冷却は必要である。

変圧器の冷却方式には容量や使用環境によって種々の方式がある。

巻線及び鉄心の冷却媒体により方式を大きく分けると,空気(大気)を使用する式,絶縁油を使用する油入式,及び,不燃性,非爆発性を必要とする場所に設置するための不活性ガスを使用するガス冷却式がある。

油入変圧器では,変圧器本体を絶縁油に浸し,巻線の絶縁耐力を高めるとともに,冷却によって本体の温度上昇を抑制する。

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絶縁油に必要な条件は,化学的に安定であること,引火点が高いこと,流動性に富み冷却効果が大きいことなどである。

大形の油入変圧器では,負荷変動や外気の温度変化に伴い油の温度が変動し,油が膨張・収縮を繰り返すため,外気が変圧器内部に出入りを繰り返す。

これを変圧器の呼吸作用という。

呼吸作用により油が劣化する主な原因は,空気中の水分の混入と,油と空気との接触により生じる酸化作用である。

この劣化を防止するため,本体の外部にブリーザやコンサベータを設ける。

変圧器の冷却方式記号の例

変圧器の冷却方式を記号で表示する場合には,冷却媒体の種類および循環方式を記号に配列する。

  • ONAD : 油入自冷式
  • OFAN : 送油自冷式
  • ODAN : 導油自冷式
  • OFAF : 送油風冷式
  • ODAF : 導油風冷式
  • ONWF : 油入水冷式
  • OFWF : 送油水冷式
  • GNAN : ガス入自冷式
  • GDAF : 導ガス風冷式
  • AN : 乾式自冷式
  • AF : 乾式風冷式
  • ANAN : 乾式閉鎖自冷式
  • ANAF : 乾式閉鎖風冷式
  • ONAN/ONAF : 油入自冷式 / 油入風冷式

参考文献

  • JEC-2200「変圧器」
  • 令和5年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問2「変圧器の冷却」

更新履歴

  • 2023年9月2日 新規作成

スマートメータ

本稿ではスマートメータについて説明する。

スマートメータの概要

従来,使用されてきた誘導形電力量計は,電力の使用量に応じて機械的に動く円盤が内蔵されている。

そのため,逆潮流があると電力の使用量の正確な計測ができないことから,太陽光発電設備を有する需要家には逆回転防止装置付き誘導形電力量計が 2 台設置されていた。

現在は,デジタルで計測する電力量計の機能により,逆潮流電力量も測定が可能となっている。

その機能に加え,回路の開閉機能,双方向の通信機能,アンペアブレーカの機能(一部の地域は未実装)が付与されたスマートメータ (Smart Meter) が展開されている。

さらに,通信機能の搭載により,検針の自動化が図れるとともに,これまで電力量計で行っていた時間帯別電力量の仕分けを 30 分ごとの計測値を用い MDMS (Meter Data Management System) で行うことが可能となった。

これにより,多様な料金メニューの実現が可能となった。

スマートメータから取得可能な情報

三菱電機製のスマートメータ M5 VM シリーズを具体例として,送信可能な情報の一覧を示す。

計測管理データ

スマートメータの保守管理に必要なデータの取得も可能である。

  • 計量状態(動作・無負荷・逆電流)
  • 誤結線判別情報
  • 計器種別
  • 製造年
  • 製造番号
  • 検定有効期限(基準適合品のみ)

計測データ

スマートメータでは,30 分ごとに電力量が計測できるだけでなく,現在の電圧や電流,力率など電力に関係する物理量をより詳細に計測できる。

  • 電力量(受電・送電)の現在値
  • 30 分電力量(受電・送電)
  • 電圧の現在値
  • 電流の現在値
  • 電流の最大値
  • 電力の現在値
  • 電力の最大値
  • 力率の現在値

スマートメータの通信方式

スマートメータの通信方式について説明する。

B/NET 伝送システム

B/NET はシングルリーダ・マルチフォロワ式の通信であり,検針コントローラから各スマートメータへの指令を送ることができる。

各スマートメータは固有のアドレスを有しており,どのユニットに対する命令であるかは,命令に付随したアドレスによって識別される。

MODBUS RTU プロトコルを利用した通信

MODBUS の通信プロトコルが公開されており,その通信プロトコルに対応したスマートメータであれば,メーカを問わず,中央監視装置でデータ取得が可能である。

B/NET と同様に,MODBUS でも固有のアドレスによって接続されたデバイスを識別している。

無線通信

無線方式のスマートメータの利点は,通信用の配線が困難な場所にも設置可能な点である。

商業用ビルなどの大規模施設内で無線親機までの距離が遠い場合は,無線子機が中継器となって親機まで情報を送信する場合がある。

PLC (Power Line Communication) による通信

PLC は,電力線を用いた通信であり,家庭用コンセントなど電力線に接続できる場所であればどこでも通信システムを構築することができる。

仕組みとしては,電気の周波数より高い周波数の情報信号を電力線上で送信している。

受信側のデバイスは,フィルタリングによって電気と情報信号を分離することで情報を受け取る。

電力デジタル革命キーワード 250

西村 陽・巽 直樹による『まるわかり 電力デジタル革命キーワード 250』において,スマートメータは次のように説明されている。

スマートメータとは,検針・料金徴収業務に必要な双方向通信機能や,遠隔開閉機能を有した電子式メータのことで,使用者の 30 分ごとの使用電力量の計測や,宅内向けの通信機能を有している。使用電力量などのデータを発信するルートは 3 つあり,それぞれ「A ルート」,「B ルート」,「C ルート」と呼ばれている。

A ルート

スマートメータで計測した使用電力量のデータなどを送配電事業者へ送るルート

B ルート

スマートメータで計測した使用電力量データなどをリアルタイムで需要家へ送るルートで,EMS (Energy Management System) によって使用電力量や電気料金などの「見える化」,機器の制御などを行うことができる。

C ルート

使用電力量データなどをスマートメータから直接または送配電事業者を経由して小売電気事業者やその他の民間事業者など第三者に送るルートで,これによって得られたデータを活用し,需要家への多様なサービスの提供が検討されている。日本ではまだ利用されていない。

 

グリッドで理解する電力システム

東京電力パワーグリッド株式会社 取締役副社長 岡本 浩 著『グリッドで理解する電力システム』において,スマートメータは次のように説明されている。

通信・制御機能を備えた電子式電力量計。検針業務の自動化,電力の遠隔制御などが可能になるほか,30 分ごとの使用電力量計測が可能になるため,計量データを活用した新ビジネス・新サービスが登場しつつある。2024 年度までに全国すべての世帯・事業所で設置される予定。さらにリアルタイムでの計量や,個人の電力データ活用に向けた検討が進められているところ。欧米諸国でもビジネス活用に向けた動きが活発化しているが,メーターの普及率は,実は日本が最も進んでいる。

参考文献

  • 『進化した電力量計「スマートメータ」の仕組み』,電学誌,143 巻 12 号,2023 年
  • 西村 陽・巽 直樹,『まるわかり 電力デジタル革命キーワード 250』,日本電気協会新聞部,2018年8月8日
  • 岡本 浩,『グリッドで理解する電力システム』,日本電気協会新聞部,2020年12月9日
  • 令和5年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4「スマートメータ」

更新履歴

  • 2023年8月28日 新規作成
  • 2023年8月29日 参考文献に『まるわかり 電力デジタル革命キーワード 250』,『グリッドで理解する電力システム』を追加
  • 2023年12月31日 参考文献に『進化した電力量計「スマートメータ」の仕組み』を追加し,スマートメータから取得可能な情報,スマートメータの通信方式を追加

発電用太陽電池設備の支持物の構造等

次の文章は,「発電用太陽電池設備に関する技術基準を定める省令」及び「発電用太陽電池設備に関する技術基準の解釈」(以下,「太陽電池設備技術基準の解釈」という。)に基づく,支持物の構造等に関する記述である。

太陽電池モジュールを支持する工作物(以下,「支持物」という。)は,次により施設しなければならない。

  1. 自重,地震荷重,風圧荷重,積雪荷重その他の当該支持物の設置環境下において想定される各種荷重に対し安定であること。ここで,支持物の安定とは,規定の荷重に対して,支持物が倒壊,飛散及び移動しないことをいう。
  2. 土地に自立して施設される支持物の基礎部分は,杭基礎若しくは鉄筋コンクリート造の直接基礎又はこれらと同等以上の支持力を有するものであること。
  3. 土地に自立して施設されるもののうち設置面からの太陽電池アレイ(太陽電池モジュール及び支持物の総体をいう。)の最高の高さが 9 m を超える場合には,構造強度等に係る建築基準法及びこれに基づく命令の規定に適合するものであること。

太陽電池設備技術基準の解釈」では,支持物の標準仕様として,一般仕様,強風仕様及び多雪仕様の三つが示されている。

これらは,基準風速などの諸条件を満たす場合に,強度計算を実施せずとも必要な強度等を確保できるよう,地上設置型の設備に適用できる標準仕様となっている。

 

発電用太陽電池設備に関する技術基準を定める省令

第四条 支持物の構造等

太陽電池モジュールを支持する工作物(以下「支持物」という。)は、次の各号により施設しなければならない。

  1. 自重、地震荷重、風圧荷重、積雪荷重その他の当該支持物の設置環境下において想定される各種荷重に対し安定であること。
  2. 前号に規定する荷重を受けた際に生じる各部材の応力度が、その部材の許容応力度以下になること。
  3. 支持物を構成する各部材は、前号に規定する許容応力度を満たす設計に必要な安定した品質を持つ材料であるとともに、腐食、腐朽その他の劣化を生じにくい材料又は防食等の劣化防止のための措置を講じた材料であること。
  4. 太陽電池モジュールと支持物の接合部、支持物の部材間及び支持物の架構部分と基礎又はアンカー部分の接合部における存在応力を確実に伝える構造とすること。
  5. 支持物の基礎部分は、次に掲げる要件に適合するものであること。
    1. 土地又は水面に施設される支持物の基礎部分は、上部構造から伝わる荷重に対して、上部構造に支障をきたす沈下、浮上がり及び水平方向への移動を生じないものであること。
    2. 土地に自立して施設される支持物の基礎部分は、杭基礎若しくは鉄筋コンクリート造の直接基礎又はこれらと同等以上の支持力を有するものであること。
  6. 土地に自立して施設されるもののうち設置面からの太陽電池アレイ(太陽電池モジュール及び支持物の総体をいう。)の最高の高さが九メートルを超える場合には、構造強度等に係る建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)及びこれに基づく命令の規定に適合するものであること。

参考文献

更新履歴

電気自動車における電動機制御

電気自動車は,搭載された電動機により車輪・タイヤに回転力を伝え,路面とタイヤとの摩擦により駆動する。

電気自動車では,永久磁石同期電動機が主流である。

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また,制動する際に,駆動用の電動機を用いて,運動エネルギーを電気エネルギーに変換する方式がある。

変換されたエネルギーは,電気自動車ではバッテリーに蓄えられる。

この制動方法のことを回生ブレーキと呼び,エネルギーの再利用が可能である。

しかし,電気自動車のバッテリーが満充電である場合には,回生ブレーキを利用する事は出来ないため,このようなときには,従来の摩擦によるブレーキに切り替える制御が用いられる。

電気自動車

電気をエネルギー源とし,搭載されている蓄電池(バッテリー)へあらかじめ充電することによって電動機(モーター)を動力源として走行する自動車のこと。

ハイブリッド車プラグインハイブリッド車との区別のために「バッテリー EV (Electric Vehicle)」という表現を使うこともある。

また,最初から電気自動車専用として設計されたものを「ピュア EV」,ガソリンエンジンなどの内燃機関を搭載する前提で設計された車両の動力源をモーターに転換したものを「コンバート EV」と呼ぶ。

なお,架線集電方式のトロリーバス無軌条電車ともいい,電気自動車とは区別される。

参考文献

  • 西村 陽・巽 直樹,『まるわかり 電力デジタル革命キーワード 250』,日本電気協会新聞部,2018年8月8日
  • 令和5年度 第二種電気主任技術者 一次試験 機械 問2「電気鉄道・電気自動車における電動機制御」

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更新履歴

  • 2023年8月27日 新規作成
  • 2023年8月29日 『EV 推進の罠』のアフェリエイトを追加

次世代原子炉

エネルギー供給の不安定化と地球温暖化が懸念される中,2023年2月,政府は原子力発電の推進にかじを切った*1

注目されているのは,次世代原子炉である。

革新軽水炉

革新軽水炉の特徴は,既存の原子炉(軽水炉)をベースに,炉心溶融地震津波などへの安全対策を強化。

主な次世代炉の中で,実用化が最も近いとされる。

ただし,大型炉のため建設地の選定に時間がかかる可能性がある。

革新軽水炉の主な安全対策

地震津波対策
  • 固い岩盤の中に建屋を埋め込み,地震の大きい揺れに耐える。
  • 予想されている津波よりも高い位置に建屋を建設する。
放射性物質の拡散防止

事故時に格納容器からの常規を,放射性物質を取り除いたうえで大気に放出する。

炉心溶融対策

原子炉から燃料が溶け出しても,コアキャッチャーで受け止めて水で冷やす。

二重の原子炉格納容器

大型の航空機衝突にも耐えられるように原子炉格納容器を強化。

小型モジュール炉(SMR)

小型モジュール炉(SMR)は,出力 30 kW 以下の小型炉を複数連結させ,出力を調整する。

主要部を工場で一括生産し,コストや工期を短縮する。

出力規模が小さい場合,採算が取れるかどうかは不透明である。

米ニュースケール・パワー社が 2029 年の米国での稼働を目指しており,同社には重工大手の IHI やプラント大手の日揮ホールディングスが出社している。

高速炉

高速炉は,高速の中性子を利用し,効率的に核燃料を燃やせる。

強い放射線を長期間出す放射性廃棄物の量も減るとされる。

高速炉の冷却材の液体ナトリウムは水や空気に触れると反応するなど扱いが難しい。

テラパワー社が開発しており,米政府の支援を受け,2028 年に米ワイオミング州で実証炉の運転を始める計画で,2022年1月に日本原子力研究開発機構三菱重工業が技術協力することで合意していた。

ただ,ロシアのウクライナ侵略の影響で,核燃料の確保が難しくなったとして,稼働が 2 年遅れるという。

高温ガス炉

高温ガス炉は,炉心の核燃料から出る熱をヘリウムガスで取り出す原子炉である。

700 度超の高熱を,発電だけでなく水素の製造などに産業利用できる。

水素の安定的な製造などの技術確立が必要である。

日本原子力開発機構は,英国やポーランドでの高速ガス炉の開発計画に参加している。

参考文献

  • 「読売新聞 くらしサイエンス」,2023年3月5日

 

更新履歴

  • 2023年3月6日 新規作成
  • 2023年8月29日 参考文献に『「超小型原子炉」なら日本も世界も救われる!』を追加

*1:2023年2月,政府は電力の安定供給と脱炭素社会の実現を図る「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を決定した。

送配電設備のアセットマネジメント

託送料金制度(レベニューキャップ制度)にて,一般送配電事業者は国からの指針に基づいた事業計画を策定する。

策定すべき事業計画の設備保全計画の中に,アセットマネジメント等の手法に基づく更新投資,修繕の方針が記載されており,高経年化設備更新ガイドラインにまとめられている。

このような背景からアセットマネジメントシステムが着目されている。

アセットマネジメント

先進諸国において電力流通設備の高経年化対策は重要課題であり,アセットマネジメント技術導入による合理的な対応が志向されている。

日本でも 2023 年度から託送料金制度見直しに合わせ,電力広域的運営推進機関(OCCTO)により「高経年化設備更新ガイドライン」が策定され,リスク評価に基づく更新物量算定手法が導入される。

このガイドラインは,広域系統長期方針の取組みとして,送配電設備が有するリスク量の標準的な算定方法や設備更新に係る工事物量算定の基本的な考え方を定め,2023年度からの新たな託送料金制度の導入にあたって,一般送配電事業者における各設備のリスク量の把握や,これを踏まえた適切かつ合理的な設備保全計画の策定に資することを目的とする。

(出典)「高経年化設備更新ガイドライン」総則 1. 目的

送配電設備の場合,系統全体でベネフィットを生み出しているため,設備個々の寄与分を評価することは難しく,多くの場合,設備規模や供給信頼度の維持を制約条件(前提条件)とし,それを維持するために必要なコストや統計的に評価されるリスクを最小化することで最適保全方策の選択を図る。

このうち「リスク」は,一般的に「故障時の影響度 × 故障率」として,すなわち統計的期待値として求められる。

その際,「故障時の影響度」を金額換算して定量化すること,および,設備状態を的確に把握した上で故障率を推定することを精緻に行うことが望ましい。

信頼性が高く,低故障率が想定される電力流通設備を対象とした場合,精度よく故障率推定を行うためには長期間にわたる実績データの蓄積が必要である。

設備リスク量の算定式

高経年化設備更新ガイドライン」において,設備リスク量の算定式は,以下のように定義されている。

定義においては,日本金属学会誌 第 66 巻 第 12 号(2002)「リスクベースの材料工学・材料技術」等を参考にしている。

リスク量(円/年) = 各設備の故障確率 × 故障影響度

なお,「高経年化設備更新ガイドライン」において,用語は以下のように定義されている。

  • 故障:設備劣化により機能不全となる状態
  • 故障確率:故障が発生する確率(%/年)
  • 故障影響度:故障が発生した場合の影響(円*1

託送料金 第一規制期間におけるリスク量の算定対象設備は,安定供給の観点で影響の大きい主要設備である工務設備 5 品目(鉄塔,電線,ケーブル,変圧器,遮断器),配電設備 4 品目(電柱,電線,ケーブル,柱上変圧器)としている。

アセットマネジメントシステム

電力業界におけるアセットマネジメントシステムは大きく 3 つの要素から構成される。

EMA

Enterprise Asset Management の略で,設備情報や工事情報,並びに巡視・点検情報などを統合管理する。

あらゆる資産の状態を統合管理することで,事業者の資産管理や保守を効率化できる。

設備台帳管理ソリューション

設備・機器の仕様書や図面,完成図書,点検履歴,保全情報等を一元的に管理するソリューションである。

設備管理やアセットマネジメントの情報を業務の過程で管理でき,設計から維持管理に至るさまざまな立場のユーザがいつでも欲しい情報を参照することで,業務での活用と情報共有が可能である。

APM

Asset Performance Management の略で,設備状態を管理する。

2023 年の託送料金制度の第一規制期間に向けて,高経年化対策が必要な 9 設備のリスク量算出方法が,高経年化設備更新ガイドラインにまとめられた。

設備の故障確率と故障影響度から設備状態をリスク量として算出することで,設備状態を定量化する。

AIPM

Asset Investment Planning and Management の略で,設備投資計画の策定,最適化を行う。

APM で算出されたリスク量を基に投資を計画し,リスク量や費用を制約として投資群を最適化する。

特定のグループ毎に制約を設定することで,事業特性に沿った最適な投資計画が策定できる。

アセットマネジメントソリューション

設備の劣化等,機能診断や更新計画に関する情報管理を可能とするものである。

機能診断で評価された設備の定量的な劣化状態(健全度評価)から今後の劣化進行を予測し,更新が必要な時期の見通しを把握する。

また,設備の重要度に応じたリスク値の設定により,予算規模や優先度等の実情に応じた中長期の更新需要量の把握による予算の平準化検討等が可能である。

参考文献

  • 電力広域的運営推進機関,「高経年化設備更新ガイドライン」,2021年12月17日
  • 高橋 紹大,「長寿命設備を想定した運用実績に基づく故障統計解析手法の検討」"Study of statistical failure analysis for long life equipment based on operation data",電力中央研究所報告 GD21025
  • 上田 修,「設備保全・維持管理技術の DX 化と課題」,電学誌,143 巻 3 号,2023 年
  • 用語解説 第140回テーマ:アセットマネジメントシステム

www.iee.jp

更新履歴

  • 2023年2月20日 新規作成
  • 2023年3月11日 参考文献に「設備保全・維持管理技術の DX 化と課題」を追加

*1:各影響度を金額換算(定量化)した値であり,実際の更新費用とは異なる