直流電気鉄道用の電動機には,大きな始動トルクを必要とすることから,かつては主として直流直巻電動機が採用されてきた。
1970 年代になって大容量サイリスタが開発され,1980 年代には国内でもインバータ制御車両が登場して交流電動機駆動方式が実用化された。
現在では,保守の容易性や軽量・大出力化などの理由により,在来線電車や電気機関車から新幹線電車まで,国内の新製車両のほとんどすべてが交流誘導電動機駆動方式となっており,直流電動機は過去のものとなった。
電動機制御
鉄道車両用の駆動電動機には直流直巻電動機が長い間主流となっていた。
その理由は,車両の駆動用に適した直流直巻電動機の特徴として,以下が挙げられる。
- トルク制御および速度制御が容易であること
- 低速でトルクが大きく,弱め界磁制御による高速回転が可能であること
- 広範囲な速度域で効率よく使用できること
抵抗制御
直流電動機の抵抗制御は古くから使われてきた方式で,構成は簡単であるがエネルギー効率が悪い欠点がある。
直流直巻電動機の制御に古くから使われているのが抵抗制御方式である。
この方式は,制御そのものは簡単であるが,エネルギー効率が悪い欠点がある。
主回路の直並列切換制御
偶数個の電動機主回路の接続を直列,直並列,並列と切り換えることによって主電動機の端子電圧を変化させて速度制御を行う方法である。
この方法は抵抗制御のような抵抗器による熱損失はないが,速度制御が段階的にしか行えない。
弱め界磁制御
電動機の界磁巻線に抵抗ないしタップによる分流回路を設けることで主電動機の界磁磁束を弱めて速度制御する方法である。
一般に,抵抗制御あるいは界磁制御によって起動後,ある程度速度が上昇した後に界磁を弱めてさらに加速するための制御用に使われる。
ただし,界磁磁束が弱くなるので電機子反作用の影響を受けやすくなるので整流不良が生じやすい。
チョッパ制御
1970 年代には,半導体電力変換装置の開発・実用化が進み,直流チョッパによる電気車の速度制御方式が導入された。
チョッパ制御方式は従来の方式に比べて著しく少ない損失で電圧制御ができ,回生制動も可能であるため省エネルギー効果がある。
また,連続制御ができるので乗り心地がよく,粘着特性も優れている。
現在の新製車両には,車両保守の省力化,車両装置の小形・軽量化,及び車両の高性能化が可能な誘導電動機方式が多く採用されている。
この方式では,大容量の電力変換装置一台で複数台の誘導電動機を駆動しており,車輪径のばらつきやレールと車輪間の粘着差によるそれぞれの車輪の回転速度差を電動機の滑りで吸収できる特長をもっている。
なお,誘導電動機は,直流電動機に比べ,小形・軽量化,信頼性の向上などの点でも優れている。
可変電圧可変周波数変換装置
現在では,パワー半導体デバイスとして IGBT などを使用した大容量の可変電圧可変周波数変換装置が開発され,電動機の高度な制御が可能となっている。
この電動機として,主に我が国では,構造が簡単で堅ろう,保守が容易な三相かご形誘導電動機が使用されており,1 台の変換装置で複数台の制御が容易である。
また,その電動機の制御方式には,可変電圧可変周波数変換装置の出力電圧を $V$,出力周波数を $f$,電動機電流を $I_\text{M}$,滑り周波数を $f_s$ とすると,定加速域では $V/f$ 一定・$I_\text{M}$ 一定・$f_s$ 可変制御,定出力域では $V$ 一定・$I_\text{M}$ 一定・$f_s$ 可変制御,更に高速の特性域では $V$ 一定・$f_s$ 一定制御が一般的に適用されている。
電気鉄道の電力回生車
直流電気鉄道においては,ブレーキ時に電動機を発電機として動作させ,電力を架線に戻す電力回生車の導入が増えている。
具体的には,制動する際に,駆動用の電動機を用いて,運動エネルギーを電気エネルギーに変換する方式である。
変換されたエネルギーは,電気鉄道では架線・レールを通じて他の列車により消費される。
この制動方法のことを回生ブレーキと呼び,エネルギーの再利用が可能である。
電気鉄道では,他の列車により電気エネルギーを消費できない場合には,制動する車両の電動機を用いて変換した電気エネルギーを車上の抵抗で消費する方法などが用いられている。
しかしながら,通常の直流電気鉄道の変電所では,ダイオード整流器は直流側から交流側への逆変換ができないため,電力回生車のブレーキの電力を力行車で消費しきれない場合には回生失効を招くこととなって,エネルギーの有効活用が阻害される。
電力貯蔵装置
回生失効防止策としては,自励整流装置やインバータなどを設備し,交流側へ逆変換させる方法のほか,直流側に電力貯蔵装置を適用する方法がある。日本では電力貯蔵装置としてフライホイール,二次電池,キャパシタが実用化されている。
首都圏のように電車密度の稠密な路線では,回生車の電力は力行車で有効利用され,貯蔵装置は設置されていない。
貯蔵装置は,電車の運行間隔が 5 ~ 10 分程度の都市近郊区間を中心に設置が進められている。
現在我が国の直流電気鉄道では,変電所や鉄道沿線に 20 か所程度の電力貯蔵装置が設備されている(2013年度末)。
参考文献
- 萩原 善泰,「電気鉄道車両における交流電動機駆動方式の発展」,電学誌,121 巻,第 7 号,2001 年
- 令和5年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問2「電気鉄道・電動機自動車における電動機制御」
- 平成28年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問5「直流電気鉄道における電動機制御」
- 平成27年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問3「電気鉄道の電力回生車の導入」
- 平成26年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問5「電気鉄道の直流電気車」
- 平成17年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問6「電気鉄道用の電動機及びその制御方式」
- 平成11年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問2「直流電気車」