本稿ではスマートメータについて説明する。
スマートメータの概要
従来,使用されてきた誘導形電力量計は,電力の使用量に応じて機械的に動く円盤が内蔵されている。
そのため,逆潮流があると電力の使用量の正確な計測ができないことから,太陽光発電設備を有する需要家には逆回転防止装置付き誘導形電力量計が 2 台設置されていた。
現在は,デジタルで計測する電力量計の機能により,逆潮流電力量も測定が可能となっている。
その機能に加え,回路の開閉機能,双方向の通信機能,アンペアブレーカの機能(一部の地域は未実装)が付与されたスマートメータ (Smart Meter) が展開されている。
さらに,通信機能の搭載により,検針の自動化が図れるとともに,これまで電力量計で行っていた時間帯別電力量の仕分けを 30 分ごとの計測値を用い MDMS (Meter Data Management System) で行うことが可能となった。
これにより,多様な料金メニューの実現が可能となった。
スマートメータから取得可能な情報
三菱電機製のスマートメータ M5 VM シリーズを具体例として,送信可能な情報の一覧を示す。
計測管理データ
スマートメータの保守管理に必要なデータの取得も可能である。
- 計量状態(動作・無負荷・逆電流)
- 誤結線判別情報
- 計器種別
- 製造年
- 製造番号
- 検定有効期限(基準適合品のみ)
計測データ
スマートメータでは,30 分ごとに電力量が計測できるだけでなく,現在の電圧や電流,力率など電力に関係する物理量をより詳細に計測できる。
- 電力量(受電・送電)の現在値
- 30 分電力量(受電・送電)
- 電圧の現在値
- 電流の現在値
- 電流の最大値
- 電力の現在値
- 電力の最大値
- 力率の現在値
スマートメータの通信方式
スマートメータの通信方式について説明する。
B/NET 伝送システム
B/NET はシングルリーダ・マルチフォロワ式の通信であり,検針コントローラから各スマートメータへの指令を送ることができる。
各スマートメータは固有のアドレスを有しており,どのユニットに対する命令であるかは,命令に付随したアドレスによって識別される。
MODBUS RTU プロトコルを利用した通信
MODBUS の通信プロトコルが公開されており,その通信プロトコルに対応したスマートメータであれば,メーカを問わず,中央監視装置でデータ取得が可能である。
B/NET と同様に,MODBUS でも固有のアドレスによって接続されたデバイスを識別している。
無線通信
無線方式のスマートメータの利点は,通信用の配線が困難な場所にも設置可能な点である。
商業用ビルなどの大規模施設内で無線親機までの距離が遠い場合は,無線子機が中継器となって親機まで情報を送信する場合がある。
PLC (Power Line Communication) による通信
PLC は,電力線を用いた通信であり,家庭用コンセントなど電力線に接続できる場所であればどこでも通信システムを構築することができる。
仕組みとしては,電気の周波数より高い周波数の情報信号を電力線上で送信している。
受信側のデバイスは,フィルタリングによって電気と情報信号を分離することで情報を受け取る。
電力デジタル革命キーワード 250
西村 陽・巽 直樹による『まるわかり 電力デジタル革命キーワード 250』において,スマートメータは次のように説明されている。
スマートメータとは,検針・料金徴収業務に必要な双方向通信機能や,遠隔開閉機能を有した電子式メータのことで,使用者の 30 分ごとの使用電力量の計測や,宅内向けの通信機能を有している。使用電力量などのデータを発信するルートは 3 つあり,それぞれ「A ルート」,「B ルート」,「C ルート」と呼ばれている。
A ルート
スマートメータで計測した使用電力量のデータなどを送配電事業者へ送るルート
B ルート
スマートメータで計測した使用電力量データなどをリアルタイムで需要家へ送るルートで,EMS (Energy Management System) によって使用電力量や電気料金などの「見える化」,機器の制御などを行うことができる。
C ルート
使用電力量データなどをスマートメータから直接または送配電事業者を経由して小売電気事業者やその他の民間事業者など第三者に送るルートで,これによって得られたデータを活用し,需要家への多様なサービスの提供が検討されている。日本ではまだ利用されていない。
グリッドで理解する電力システム
東京電力パワーグリッド株式会社 取締役副社長 岡本 浩 著『グリッドで理解する電力システム』において,スマートメータは次のように説明されている。
通信・制御機能を備えた電子式電力量計。検針業務の自動化,電力の遠隔制御などが可能になるほか,30 分ごとの使用電力量計測が可能になるため,計量データを活用した新ビジネス・新サービスが登場しつつある。2024 年度までに全国すべての世帯・事業所で設置される予定。さらにリアルタイムでの計量や,個人の電力データ活用に向けた検討が進められているところ。欧米諸国でもビジネス活用に向けた動きが活発化しているが,メーターの普及率は,実は日本が最も進んでいる。
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参考文献
- 『進化した電力量計「スマートメータ」の仕組み』,電学誌,143 巻 12 号,2023 年
- 西村 陽・巽 直樹,『まるわかり 電力デジタル革命キーワード 250』,日本電気協会新聞部,2018年8月8日
- 岡本 浩,『グリッドで理解する電力システム』,日本電気協会新聞部,2020年12月9日
- 令和5年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4「スマートメータ」
更新履歴
- 2023年8月28日 新規作成
- 2023年8月29日 参考文献に『まるわかり 電力デジタル革命キーワード 250』,『グリッドで理解する電力システム』を追加
- 2023年12月31日 参考文献に『進化した電力量計「スマートメータ」の仕組み』を追加し,スマートメータから取得可能な情報,スマートメータの通信方式を追加