近年,省資源と環境保全の観点からガスタービンとその排気ガスを利用した蒸気タービンを組み合わせ,熱効率を向上させるコンバインドサイクル発電が火力発電の主流として多く採用されている。
コバインドサイクル発電とは,複合サイクル発電とも呼ばれ,異なるサイクルを組み合わせた発電方式のことである。
コンバインドサイクル発電の特性
LNGを燃料としたコンバインドサイクル発電(排熱回収方式)がミドル・ベース電源としても採用されている理由について,運用特性,経済特性,環境特性からみた特徴を説明する。
運用特性
一般の汽力発電では,系統負荷の増加・減少に対応した運用のための負荷上昇・下降速度及び細かい負荷変化に対応して応動するための追随性(変化幅と変化速度)は,高温部の熱応力及び燃料系統・蒸気系統などの速応性・安定性から制約を受ける。
LNG コンバインドサイクル発電では,燃焼ガスが持っているエネルギーの高温領域にガスタービンを利用し,その排熱を熱源とする蒸気タービンの組み合わせで構成されていることから,一般の汽力発電の熱効率向上を目指した高温化に伴う熱的制約を克服し,大幅な出力調整が可能となり,電力需要の変動にも迅速に対応することができる。
また,一般の汽力発電では,温度・圧力などが所定の条件に達するまで時間がかかること,ボイラやタービンにかかる熱応力が過大とならないように制御しつつ,出力を変化させる必要があるなどの理由から機動停止に相当の時間を要する。
一方,LNG コンバインドサイクル発電では,ガスタービンを使用した単機出力の小さい設備で構成されているため,一般の汽力発電に比べて,短時間での機動停止が可能で機動性が高い。
経済特性
発電設備の構成は,単機出力の小さい設備で構成されており,系統負荷に応じて出力の増減を運転台数の増減で行うようにしていることから,広い出力範囲にわたり熱効率の低下が小さく,単機の定格出力と同等の高い熱効率が得られるため,ベース領域のみならずミドル領域での経済性に優位性を有している。
環境特性
LNG コンバインドサイクル発電は,従来の火力発電に比べて熱効率が高く,キロワット時当たりの燃料消費量が少ないので,燃料時に地球温暖化の原因となる CO2 排出量が少ない。また,酸性雨の原因となる硫黄酸化物を排出しない。
コンバインドサイクルの発電方式
現在,実用化されているガスタービン・蒸気タービン複合サイクル発電には次の二つがある。
排熱回収方式
排熱回収方式は,ガスタービンの排気を,排熱回収熱交換器に導き,その熱回収によって蒸気を発生し,蒸気タービンを駆動する方式である。
コンバインドサイクル発電方式のなかでは最も簡単であるが,ガスタービンと蒸気系との整合性を最適化することによって,コンバインドサイクル発電方式のなかで最も高い熱効率を実現することができる。
天然ガスを燃料とする一軸形コンバインドサイクル(排熱回収サイクル)発電を複数台組み合わせた発電プラントについて,同容量の汽力発電プラントと比較した場合の特徴とその理由を述べる。
起動時間
ガスタービンを使用した小容量機の組合せのため負荷変化率が大きくとれ,また,蒸気タービンの分担出力がプラント全体の 1/3 と小さく汽力発電と比べて蒸気タービンが小形となるため,短時間での起動が可能である。
8 時間停止後の起動時間は,例えば 1 000 [MW] 級汽力発電プラントで約 3 時間であるが,一軸形コンバインドサイクル発電プラントの場合は 1 軸当たり約 1 時間である。
温排水量
コンバインドサイクル発電プラントの蒸気タービンの入口蒸気条件は,汽力発電プラントに比べて圧力・温度ともに低くなり,分担出力はプラント全体の 1/3 と小さいため,温排水量は汽力発電プラントの 6 割程度となる。
大気温度と最大出力との関係
コンバインドサイクル発電プラントはガスタービンを主体に構成されるため,最大出力は大気温度により大きく変化し,大気温度が低いほど出力が大きくなる。
ガスタービンは,高温域における耐久性の観点から,第一段動翼入口ガス温度の上限を定めて運転される。
一方,ガスタービンの圧縮機の吸込空気体積流量は大気温度に関係なくほぼ一定であるため,大気温度が下がって空気密度が増加すると,吸込空気質量流量は増加するため,ガスタービン入口ガス温度の上限値までの加熱代が大きくなり,吸込質量流量の増加とあいまって,より多くの燃料が投入可能となり,ガスタービン最大出力が増加する。
蒸気タービンについては,ガスタービン最大出力の増加による排ガス量及び熱量の増大により,排熱回収ボイラでの蒸気発生量が増加し,出力が若干増加する。
排気再燃方式
排気再燃方式は,ガスタービンの排気を,ボイラ燃焼用空気として利用し,排熱回収を行うとともに,ガス中の残存酸素で再燃焼させる方式である。
ガスタービン排気は高温であるため,一般にボイラで設置される空気予熱器が不要となり,その代わりにボイラ排ガスの熱は給水加熱などにより回収される。
排気再燃方式の特徴は以下のとおり。
- 発電機を回転させる動力源として,蒸気タービンのみを利用する既設のコンベンショナル(従来型)火力のリパワリング(出力増強と熱効率改善)に適用可能
- プラント出力に対する蒸気タービンの出力の割合が大
- 蒸気タービンの単独運転が可能
- ボイラに使用する燃料は,ガスタービンと無関係に選択可能
一軸型と多軸式
我が国の一軸型コンバインドサイクル発電方式と多軸式コンバインドサイクル発電方式の機器構成を延べ,システムの相違に起因する得失を説明する。
一軸型コンバインドサイクル方式
一軸型コンバインドサイクル発電方式は,ガスタービンと蒸気タービンの軸を同一軸として直結したものである。
そして,この軸に発電機が直結され,駆動されている。同発電方式の得失は以下の通り。
- 部分負荷でも発電機の運転台数を切り換えることで,高効率運転を行うことができる。→中間負荷の発電に適している。
- 機器構成が簡単であり,建設工期が短い。
- 始動時間が短い。
- ガスタービン単独での運転ができない。
多軸式コンバインドサイクル発電方式
多軸型コンバインドサイクル発電方式は,ガスタービンの軸と蒸気タービンの軸とが,別々にあり,それぞれの軸で発電機を駆動するようになっているものである。
また,蒸気タービン発電機 1 台に対して,ガスタービン発電機複数台を組み合わせて 1 組とすることもある。
同発電方式の得失は以下の通り。
- 蒸気タービン発電機1台に対してガスタービン発電機を複数台とすると,蒸気タービンの容量が大きくなり,定格負荷(全出力)時の効率は高くなる。したがって,一軸型に比べ,ベース負荷に適している。
- ガスタービン発電機と蒸気タービン発電機とで異なる出力で,出力を加減できる。
- 発電方式によっては,ガスタービンおよび蒸気タービンそれぞれを単独で運転することができる。
- プラント構成が一軸型に比べて複雑となる。
大気温度上昇が最大出力に及ぼす影響
ガスタービン発電は大気温度の上昇によって最大出力が低下する特性がある。
ガスタービン動翼入口温度は,高温部品の耐久性によって上限値が定められている。
圧縮機が吸入する空気の体積流量はほぼ一定であり,大気温度の上昇により空気密度が低下するため,空気の質量流量が低下する。
そのため,投入できる燃料量が減少し,ガスタービン出力は低下する。
また,これにより排ガス量も減少することから,排熱回収ボイラで回収する熱量も減少し,蒸気タービン出力も低下するので,コンバインドサイクル発電の最大出力は低下する。
大気温度上昇が最大出力に及ぼす影響の改善策
この対策として,圧縮機入口の空気温度を下げるため,吸気に水を噴霧することで水の蒸発潜熱によって吸気温度を下げ,空気の質量流量を増加し,出力低下を改善する方法や,エバポレータークーラ方式,チラー方式などのガスタービン吸気冷却装置を設置することが挙げられる。
また,蒸気タービン出力の低下分を改善するために,排熱回収ボイラに助燃バーナを追設することもある。
参考文献
- 平成29年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問1「コンバインド発電プラント」
- 平成28年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問1「火力発電所におけるコンバインドサイクル発電」
- 平成23年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2「一軸形コンバインドサイクル」
- 平成20年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問6「LNG を燃料としたコンバインドサイクル発電」
- 平成15年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問1「コンバインドサイクル発電(複合サイクル発電)」
- 平成10年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2「一軸型コンバインドサイクル発電方式と多軸式コンバインドサイクル発電方式」