火力発電所や原子力発電所の発電機と主変圧器との間の電路*1には相分離母線(Isolated Phase Bus : IPB)が使用されている。
相分離母線は,各相の導体を接地した金属製外被で閉鎖して,各相を分離した構造の母線である。
外被材料として軽量で導電率の高い材料を使用する。
三つの相の外被を両端で相互に短絡することで,各外被には導体電流によって生じる磁束により電流が誘導される。
外被の誘導電流は導体電流と逆方向の電流となり,外部への漏れ磁束を少なくすることができる。
これにより,外部の鉄構造物に発生する渦電流による誘導加熱を抑制するとともに,短絡時に各相導体間に働く電磁力を小さくすることができる。
また,外被の放熱面積が大きいので電流容量も大きく得られるうえ,閉鎖された外被内部を風冷式にすれば,さらに大電流に対応できる特徴がある。
さらに,一線地絡事故が生じても,二相短絡,三相短絡へと発展しにくい構造である。
これらのことから,相分離母線は,信頼性,安全性が高く,大電流の通電に適している。
相分離母線の構造
相分離母線の導体と箱の支持方法には,主に導体を 1 本のがいしで支持する 1 点指示方式と,3 本のがいしで支持する 3 点支持方式とがあり,国内では 1 点支持方式が主流となっている。
3 点支持方式
3 点支持の母線は 1 点支持に比べて外形寸法が大きく,板厚が薄くなっている。
これは母線の発熱量を小さくするため,箱・導体ともに,外形寸法に対して表皮効果が小さな値となるように考慮したものである。
一方,板厚を薄くしたために低下する箱・導体の強度を 3 点で支持することによりカバーしている。
1 点支持方式
1 点支持の場合,外形寸法に対して板厚が薄くなると強度的に弱くなり,楕円形に変形するなどの不具合が出るため,板厚を薄くするには,おのずと限度がある。
また,風冷式相分離母線では,箱内の風の損失を考えた場合,1 点支持の方が効果的である。
相分離母線の外箱
相分離母線の外箱はアルミニウムなどの導電率の高い材料を使用して三相の両端を短絡し,これに誘起した逆方向の電流によって外部への漏れ磁界を小さくするとともに,外部磁界に対して渦電流が流れて遮へいするので,短絡時の大電流に耐えるようになっている。
また,外箱は放熱面積が大きいので,大きな電流容量も得られるうえ,外箱を密閉して風道とし,強制通風する風冷式にすれば,さらに大電流を流すことができる。
定格電流が 20 000 [A] を超過すると,風冷式が採用される場合が多く,わが国では現在 42 000 [A] 級まで実用化されている。
なお,導体にはアルミニウムが広く使用されている。
相分離母線の接地方式
相分離母線の接地は,ほぼ 100 [%] が連続接地方式である。
連続接地方式は,母線単位の箱相互間を連続して電気的接続を行い,さらに連続に接続された母線回路の箱の両端を三相とも短絡することにより,母線箱を強制的に閉回路に構成する。
これにより箱には導体と逆方向の電流が流れ,この電流による磁界が,導体から発生する磁束を打ち消すため,箱の外部には磁束がほとんど存在しない。
そのため,近接鋼材への誘導加熱の心配がない。
また異相間には電磁力も作用しなくなるため,大きな短絡電流に耐えられるという特長がある。
参考文献
更新履歴
- 2022年6月14日 新規作成
- 2022年6月21日 相分離母線の構造を追加
- 2022年6月23日 相分離母線の接地方式を追加
*1:11 kV 以上の大電流および短絡容量の大きな発変電所の主母線