目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

直流送電の送電方式

直流送電(direct-current power transmission)とは,交流系統に設けた交直変換器により交流を直流に変換し,直流送電線(架空送電線およびケーブルを含む)を介して送電した後,他の交流系統に設けた交直変換器により直流から好悪流に変換する送電方式のことである。

本稿では,直流送電の送電方式について説明する。

直流送電線の主回路構成としては電流を流す 2 路の一方に大地(又は海水)を用いる大地(又は海水)帰路方式と双方に送電線を用いる導体帰路方式が存在する。

また,回路の極数から単極構成と双極構成があり,組み合わせで 4 通りの構成が存在する。

単極構成

単極構成の大地(又は海水)帰路方式では,線路条数を少なくすることができ経済的ではあるが,大地帰路電流によりパイプラインなど地下埋設金属の電食や鉄道の軌道信号への影響が考えられる場合,また,大地(又は海水)帰路電流によって発生する磁界による磁気偏差の影響が考えられる場合には使用できない。

この問題は双極構成とすることで回避できるが,片極運用時や事故時など電流がアンバランスとなったときには同様に問題となる。

単極大地(または海水)帰路方式

架空線またはケーブルを往路とし,大地または海水を帰路として使用する方法で,電線路は 1 条で済むため建設費は安く,経済的である。

しかし,大地に埋設された水道・ガス・パイプラインそのほかの金属埋設物に対する電食や,通信線の電磁誘導障害,海底ケーブルの場合は磁気コンパスに対する影響などの難点もある。

この方式の適用例は,以下のとおり。

単極導体帰路方式

帰路として導体を使用する方式で,人口過密地域で各種の工作物の多いところでは,直流送電による電食の影響などを避けることが必要となり,この方式が用いられる。

この方式には,以下の例があった。

  • 日本 第1期 北海道-本州連系
  • 日本 第2期 北海道-本州連系

双極構成

一方,導体を介して帰路電流を戻す方式が導体帰路方式である。

この方式では,帰路導体を片側の変換所の中性点の接地網に接続し,もう一方の変換所では常時は避雷器などを介して変換所の接地網から開放しておく。

帰路導体は低絶縁設計となっており,架空送電線区間では架空地線としての機能ももたせることもできる。

現在わが国で用いられている直流送電では,双極導体帰路方式が採用されている。

双極中性点接地または片端接地方式

一方の線路に正電圧,他方の線路に負電圧を加え,中性点を接地した方式である。

常時は,中性点にほとんど電流がながれないので,大地帰路方式のような各種障害はなく,線路または変換装置の片極事故時にも 1/2 の電圧で運転ができ,1/2 の容量の電力を送ることができる。

この方式には,以下の事例があり,直流送電の最も一般的な方式として広く採用されている。

双極中性線導体方式

一方の線路に正電圧,他方の線路に負電圧を加え,中性線導体については順または逆変換のいずれか一点のみを接地したものである。

線路または変換装置の片極事故時にも大地帰路とせずに 1/2 の電力送電を継続することができる。

この方式には,以下の事例がある。

多端子直流送電

これまで直流送電の多くは,二地点間を直流送電線で結ぶ「二端子直流送電」であったが,従来の他励式交直変換器(サイリスタを使用)に比べて運転性能に優れている自励式交直変換器*1の導入が進んだ結果,多地点間を直流送電線で結んで送電する「多端子直流送電」の実用性が高まり,研究開発や実設備の運転開始が進んできた。

多端子直流送電線は,洋上ウィンドファーム群から陸上交流系統の複数拠点へ送電する用途や,交流系統を補強する地域間連系線の用途への適用が期待されている。

参考文献

  • 電気学会 用語解説 第137回テーマ:多端子直流送電
  • 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4

更新履歴

  • 2021年12月14日 新規作成
  • 2021年12月15日 4 種類の送電方式の説明を追加
  • 2022年8月3日 参考文献に「電気学会 用語解説 第137回テーマ:多端子直流送電」を追加

*1:IGBT(絶縁バイポーラトランジスタ)などのパワー半導体バイスを使用