目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

電力用変圧器の損失と効率

本稿では,電力用変圧器の損失と効率について述べる。

まず,電力用変圧器の損失は無負荷損と負荷損からなり,それらについて述べる。

次に,変圧器の効率について説明する。

無負荷損(no-load loss)

無負荷損は,鉄損(ヒステリシス損と渦電流損),励磁電流による巻線の抵抗損,絶縁物における誘電損などであり,負荷電流の大きさに関係なく一定である。

一つの巻線に定格周波数の電圧を加え,他の巻線をすべて開路としたときに消費される有効電力をいう。

(備考)無負荷損は,鉄損・無負荷電流による巻線の抵抗損および絶縁物中の誘電体損などを含む。特に指定されない場合は,無負荷損は基準タップに定格電圧を加えたときの値で表す。

(出典)JEC-2200-1995「変圧器」

二巻線変圧器の場合,無負荷損は,一方の巻線を開路し,他方の巻線に定格周波数の電圧を加えたときに消費される有効電力である。

無負荷損は,そのほとんどが変圧器の鉄心に生じる鉄損であり,ヒステリシス損とうず電流損の和である。

鉄損を推定するには,鉄心 1 kg 当たりのヒステリシス損およびうず電流損を計算し,これに鉄心の質量 [kg] を乗じて求められる。

配電用変圧器は,夜間は低負荷で使用されるのが一般的であるので,上記の効率を上げるためには,鉄損を減らすことが重要である。

このため,ヒステリシス損の小さい磁区制御形けい素鋼板やアモルファス薄帯が鉄心に用いられている。

ヒステリシス損

ヒステリシス損は,鉄心内の磁束が方向及び大きさを変化することにより鉄心を構成する磁気分子が方向及び配列を変え,分子相互間に摩擦損を生ずるのに起因するもので,ヒステリシスループを囲む面積に比例する。

鉄心を形成するけい素鋼板の厚さに無関係である。

交番磁界の下では周波数の 1 乗と最大磁束密度の 1.6 ~ 2 乗に比例する。

渦電流損

渦電流損は,磁束の変化によって鉄心内に起電力を生じ,電流が流れる結果,抵抗損失を生ずるもので,鋼板の厚さ,周波数及び磁束密度のそれぞれ 2 乗に比例する。

変圧器の鉄心は,厚さ 0.3 ~ 0.35 [mm] 程度のけい素鋼板を互いに絶縁して積層しており,板面を貫く(貫層)方向に渦電流が流れるのを防止している。

電力用変圧器に一般的に用いられる方向性けい素鋼板は,結晶粒が圧延方向に配向しており,無方向性けい素鋼板に比べて鉄損が小さく透磁率が高いので,大容量変圧器の高性能化,小型化に寄与している。

アモルファス磁性材料は,原子配列が無秩序で結晶磁気異方性や結晶粒界がなく,抵抗率が高く保持力が小さい高透磁率材料である。このため,鉄損が小さい。

無負荷損の測定

変圧器の二次側を開放し,一次側に定格周波数,定格電圧を加えたとき,すなわち無負荷運転時の一次入力を測定すればよい。

無負荷電流

無負荷電流とは,一つの巻線に定格周波数の電圧を加え,他の巻線をすべて開路としたときの線路電流実効値をいう。

  • 一般に一つの巻線の無負荷電流は,その巻線の定格電流に対する百分率で表す。多巻線変圧器の場合は,容量の最大な巻線を基準にとる。
  • 三相変圧器で各相の無負荷電流の値が異なるときは全部の平均値をとる。
  • 特に指定されない場合,無負荷電流は基準タップに定格電圧を加えたときの値で表す。

負荷損(load loss)

負荷損は,負荷電流による巻線の抵抗損(銅損),巻線鉄心の抑え,および,そのほかにおける漏れ磁束による漂遊負荷損などであり,負荷電流の 2 乗に比例して変化する。

二巻線変圧器の負荷損とは,一方の巻線を短絡して,他方の巻線に定格周波数の電圧を加えて,電流を通じた場合に消費される有効電力をいう。多巻線変圧器の負荷損とは,二つの巻線について,一方の巻線を短絡して,他方の巻線に定格周波数の電圧を加えて,電流を通じた場合の損失をいう。この場合,これら二つの巻線以外の巻線はすべて開路とする。

(出典)JEC-2200-1995「変圧器」

二巻線変圧器の場合,負荷損は,一方の巻線を短絡した状態で他方の巻線へ定格周波数の電圧を加え,定格電流を流したときに消費される有効電力であり,基準巻線温度における値に補正して表す。

その値は巻線の抵抗損(電流の 2 乗 × 直流抵抗)よりも大きくなる。

これは,漏れ磁束が巻線やタンクなどへ鎖交して渦電流が流れることによって漂遊負荷損を生じるためである。

漂遊負荷損

二巻線変圧器の場合,一次巻線あるいは二次巻線とのみ鎖交する漏れ磁束によって,巻線その他の金属部分に漂遊負荷損が発生する。

一次・二次巻線が同心配置(内鉄形)のときは,漏れ磁束が通る方向は主として軸方向であり,その大きさは両巻線の中間の空間において最大となる。

漂遊負荷損は,大容量・高インピーダンスの変圧器ほど大きく,巻線抵抗損の 50 [%] に及ぶこともある。

漂遊負荷損の低減対策

漂遊負荷損を低減するため,以下のような対策が施されている。

  1. 導体では漏れ磁束と直角方向の寸法を制限する。
  2. 変圧器タンクの内側に磁気遮へいを設ける。
  3. 構造物の一部に非磁性金属を設ける。
導体の対策

漏れ磁束によって巻線内に発生する損失は,漏れ磁束と直交する方向の巻線導体幅の 2 乗におおむね比例することから,これを低減するためには導体の細分化が有効である。

導体を複数の絶縁素線に分割し,途中で素線の相互位置を変える電線を転位電線といい,定格電流が大きい巻線などに適用されている。

磁気遮へい

漏れ磁束によってタンクなどで発生する損失は局部過熱の原因ともなる。

タンクへ鎖交する漏れ磁束への対策として,けい素鋼板やアルミニウムなどのシールドを設置することが行われている。

この内,アルミニウムなどの良導電性のシールドは,シールドに渦電流が流れタンクへ向かう漏れ磁束を打ち消すことで損失・局部過熱を防止するものである。

負荷損の測定

変圧器の二次側を短絡し,一次側に定格周波数の電圧を加え,定格電流が流れたときの入力を測定すれば,それが負荷損である。

この測定は,インピーダンス試験の一部であり,この値はインピーダンスワットと呼ばれている。

また,負荷損を測定したときの電圧はインピーダンス電圧とも呼ぶ。

銅損及びインピーダンス試験

変圧器巻線の一方(通常,低圧側)を短絡し,他方の巻線から定格周波数の電圧を加えて定格電流を流した状態の入力電力及び電圧を測定する。

これは,効率計算に必要な負荷損と,電圧変動率の算出及び並列運転の検討に必要なインピーダンス電圧の値が,規格,仕様書,設計値などを満足するか判定するための試験である。

単相変圧器の場合,下図のように電圧計,電流計,そして電力計を接続し,定格周波数の電圧を徐々に上昇させ,定格電流が流れたときの入力電力,すなわち電力計の指示値が銅損,電圧計の指示値がインピーダンス電圧である。

図 インピーダンス試験(単相の場合)

裕度

JEC-2200-1995「変圧器」による変圧器の仕様書に指定または保障された数値には,裕度が適用される。

全損失,無負荷損,負荷損の裕度を以下のとおり。

  • 全損失:保証値の +10 %
  • 無負荷損:保証値の +15 %
  • 負荷損:保証値の +15 %

変圧器の効率(efficiency)

変圧器の効率とは,出力と入力との比をいい,百分率で表す。

二巻線変圧器の効率とは,定格二次電圧および定格周波数における有効出力と(有効出力+全損失)の比をいい,百分率で表す。

(出典)JEC-2200-1995「変圧器」

図 変圧器の図記号

図 変圧器の図記号

効率の標準には無負荷試験および短絡試験から得られる損失を基準として,次式による規約効率を採用し,指定のないかぎり出力は定格出力,力率は 100 %,波形は正弦波,基準温度は 75 °C における値*1とする。

効率 = 出力 / (出力 + 無負荷損 + 負荷損) × 100 [%]

無負荷損と負荷損との和を全損失というので,次のように表すこともできる。

効率 = 出力 / (出力 + 全損失) × 100 [%]

定格容量 $S_\text{n}$ [V·A] の変圧器がある。

その定格電圧における無負荷損は $P_\text{i}$ [W],定格電流を通じたときの負荷損は $P_\text{c}$ [W] である。

力率が $\cos{\phi}$ の負荷を二次端子に接続し,定格二次電圧及び定格周波数としてこの変圧器を負荷率(負荷の容量の変圧器定格容量に対する比) $ m $ [p.u.] で用いたときの効率 η は,次式となる。

\[\frac{m\cdot S_\text{n}\cos{\phi}}{m\cdot S_\text{n}\cos{\phi}+P_\text{i}+m^2 \cdot P_\text{c}}\times 100 \]

最近の変圧器は,損失の少ない鉄心材料を使用しているため無負荷損が減少し,最高効率となる負荷点が低負荷側に移行する傾向にある。

配電用油入変圧器のエネルギー消費効率の基準値は,日本産業規格 JIS C 4304 で規定しており,この値を計算するときの基準負荷率は,定格容量によって分類され,500 kV·A 超では 50 [%] となっている。

変圧器の全日効率

配電用変圧器では,負荷は 1 日中一定の大きさであることはほとんどなく,昼間において大きく,夜間において小さくなるのが一般的である。

このため,省エネルギーの観点から変圧器の効率を検討する場合,1 日の電力の使用パターンを分析し,1 日における全出力電力量 [kW・h] と 1 日における全入力電気量 [kW・h] の比で総合効率を考える必要がある。

このような 1 日を通算した総合効率は,全日効率と呼ばれる。

1 日における全入力電力量 [kW・h] は,全出力電力量 [kW・h],負荷損による全電力量 [kW・h] 及び無負荷損による全電力量 [kW・h] の和である。

ここで,定格二次電圧を $V_2$ [V],定格二次電流を $I_2$ [A],$I_2$ のときの負荷損を $k{I_2}^2$($k$ は定数) [kW],無負荷損を $P_0$ [kW],時間を $t$ [h],1 日における全負荷に対する負荷の割合の時間的変化を $m(t)$,負荷の力率を一定と仮定して $cos\phi$ とすれば,1 日における全出力電力量は $V_2 I_2 \cos\phi \int_0^{24}{m(t)}\text{d}t$ [kW・h],1 日における負荷損による全電力量は $k{I_2}^2 \int_0^{24}{m(t)}^2 \text{d}t$ [kW・h],1 日における無負荷損による全電力量は $24P_0$ [kW・h]である。

補足

転位(twist)

巻線の電流が大きくなると巻線導体の断面積を大きくする必要があるが,表皮効果で導体の見かけ上の抵抗(交流抵抗ともいう)が大きくなるため,銅線が大きくなり,巻線作業が困難となるので複数の絶縁導体に分割して並列にして用いる。

この場合,複数の導体を軸方向に重ねて巻くと,導体は外周になるに従って上側の全長が長くなり,各導体ごとの抵抗とリアクタンスが異なるため,並列導体間に横流が流れ,漂遊負荷損の増大を招く。

これを防ぐため,各導体の径方向の位置を入れ替えて平均化させる。

また,軸方向に並列にした導体の漏れ磁束の影響を平均化するため,各導体の軸方向の位置を入れ替える。

このように,導体の円周方向の位置または軸方向の位置を入れ替えることを転位(twist)という。

図 変圧器巻線の転移

図 変圧器巻線の転移

大容量変圧器の巻線においては,あらかじめ転移されている転移電線を用いる。

図 転移電線の断面

図 転移電線の断面

参考文献

  • JEC-2200-1995「変圧器」
  • JIS C 4304 : 2013「配電用 6 kV 油入変圧器」6 kV Oil-immersed distribution transformers
  • 令和5年度 エネルギー管理士 電気分野 課目 電気設備及び機器 問9 電気機器
  • 平成30年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問5「変圧器の損失及び効率」
  • 平成28年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問3「電力用変圧器の運転時に発生する損失」
  • 平成21年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問2「二巻線変圧器の損失と効率」
  • 平成20年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問2「配電用変圧器の効率と損失」
  • 平成16年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4「電力用変圧器に使用される鉄心材料」
  • 平成16年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問5「大容量変圧器の漂遊負荷損」

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更新履歴

  • 2021年11月25日 新規作成
  • 2021年12月5日 ヒステリシス損,渦電流損,無負荷損の測定方法,負荷損の測定方法,転移の説明を追加
  • 2021年12月19日 参考文献に「平成16年度 第二種 電気種に技術者 一次試験 電力 問4」を追加
  • 2021年12月26日 参考文献に「平成30年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問5」を追加
  • 2022年1月22日 図「変圧器巻線の転移」「転移電線の断面」を追加
  • 2022年2月11日 参考文献に「平成21年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問2」「平成20年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問2」を追加
  • 2022年2月12日 参考文献に「平成16年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問5」を追加
  • 2022年7月30日 参考文献の過去問題の題目を追記
  • 2022年10月2日 銅損及びインピーダンス試験を追加
  • 2023年1月8日 裕度を追加,参考文献に JEC-2200-1995「変圧器」を追加
  • 2023年12月10日 参考文献に JIS C 4304 : 2013「配電用 6 kV 油入変圧器」,「令和5年度 エネルギー管理士 電気分野 課目 電気設備及び機器 問9 電気機器」を追加

*1:変圧器の損失は温度によって変化するから,損失あるいは効率は,ある基準の温度を標準として定めておき,その温度における値で示す必要がある。この温度を基準温度といい,規格(JIS 及び JEC)では 75 度と定められている。