変圧器充電時における鉄心内の磁束は印加電圧の積分で表されるので,例えば電圧零の時点で電源が投入されると,最初の 1 サイクルの間に磁束は定常状態の磁束最大値の 2 倍に達し,飽和磁束密度を超えるので,過渡的に大きな電流が流入する*1。
この電流を励磁突入電流(inrush current)という。
励磁突入電流の概要
変圧器投入時に鉄心内に残留磁束(residual flux)*2があり,それが印加電圧による磁束の変化と同一方向の場合には,両者が加算されるため更に大きな励磁突入電流となる。
具体的には,変圧器に電源が投入されると,鉄心内の磁束は,投入前における鉄心内の残留磁束を初期値として,印加電圧の積分値に比例した波形になる。
鉄心内の残留磁束が無い状態において,印加電圧 0 の瞬間に投入されると,半周期の間に鉄心内磁束は定常状態の磁束最大値の 2 倍近くまで増加し,鉄心の飽和磁束密度を超えると過渡的に大きな電流が流入する。
また,電源投入時に鉄心内に残留磁束がある状態では,それが印加電圧による磁束の変化方向と同一方向に重畳する場合には,鉄心内の磁束が定常状態の磁束最大値の 2 倍を超え,励磁突入電流の波高値はさらに高くなる。
このようにシフトした磁束は徐々に定常状態に戻っていき,それとともに励磁突入電流も落ち着くが,この継続時間は回路のインダクタンスと抵抗によって決まり,容量が大きくなるほど長く,数十秒以上に及ぶことがある。

このように大きな突入電流による比率差動リレー*3の誤動作を防止するため,変圧器投入後,一定時間リレーをロックする方法や,突入電流に第二高調波が多く含まれているので第二高調波抑制機能付比率差動リレーを用いる方法がとられる。
励磁突入電流による電圧変動
励磁突入電流によって電圧変動が誘起される。
励磁突入電流による電圧変動を抑制するため,変圧器投入時の抵抗投入や投入位相の制御*4などを行うことがある。
- 変圧器加圧
- 変圧器の残留磁束を初期値とした交番磁束発生
- 鉄心の磁気飽和現象発生
- 励磁突入電流の増大
- 電圧低下
残留磁束,変圧器の加圧位相の関係によって 2 相の励磁突入電流が大きく流れ込む状況となると,励磁突入電流による電圧降下により線間電圧が大きく低下する。
磁束と電圧の関係
変圧器の一次側に印加される電圧 $v(t)$ と鉄心内の磁束 $\phi(t)$ の関係は、ファラデーの法則に基づき以下のように表される。
\[\phi(t) = \frac{1}{N} \int v(t) \, dt + \phi_{\text{res}} \]
- N : 巻数
- $\phi_{\text{res}}$ : 残留磁束(投入前に鉄心に残っている磁束)
つまり、磁束は電圧の時間積分に比例する。
定常状態の最大磁束の 2 倍になる理由
定常状態では、磁束は正弦波的に変動し、最大値は一定である。
しかし、電源投入のタイミングによっては、磁束が急激に増加することがある。
ケース : 電圧ゼロの瞬間に投入(最悪条件)
- 電圧波形 : $v(t) = V_m \sin(\omega t)$
- 電源投入時刻 : \(t = 0\),かつ,\(v(0) = 0\)
このとき、磁束は次のように積分される。
\[ \phi(t) = \int_0^t V_m \sin(\omega t) \, dt = -\frac{V_m}{\omega} \cos(\omega t) + C \]
積分結果は余弦波になり、投入直後の半周期(0 〜 $\pi$)で磁束は最大値に向かって一方向に増加する。
定常状態では磁束は $\pm \Phi_{\max}$ の範囲で振動するが、投入直後は初期値がゼロ(または残留磁束)で、一方向に最大値まで積分されるため、定常状態の最大磁束の約 2 倍に達する。
系統連系要件「電圧変動対策(瞬時電圧低下)」
連系用変圧器加圧時の励磁突入電流による瞬時電圧低下により,系統の電圧が常時電圧から 10 % を超えて逸脱するおそれがあるときは,その抑制対策を実施すること,が2024年4月より追加された。
電圧変動対策(瞬時電圧低下)の目的
- 系統用変圧器加圧時の励磁突入電流による瞬時電圧低下により,系統を利用する事業者の電気の使用を妨害する可能性を低減させる必要がある。
- 系統連系技術要件に,瞬時電圧低下の抑制対策の閾値を規定することによって実効性が高まるとの考えより,高圧と同様に特別高圧系統についても対策を必要とする閾値について明文化された。
- 発電事業者にとって特別高圧系統についても対策要否の判断基準が具体化し,瞬時電圧低下による機器停止の回避や事業継続等のメリットがある。
励磁突入電流の解析例
上位系統のインピーダンス
一般に,連系点からみた上位系統のインピーダンスが大きいほど瞬時電圧変動の低下率が大きい。
このため,通常の運用で想定される範囲の中で,過酷と考えられる上位系統のインピーダンスを用いて瞬時電圧低下を算定する。
変圧器の諸元
変圧器の諸元を条件に用いる。
- 定格容量
- 定格電圧
- % インピーダンス
- 結線方式
変圧器の残留磁束は過酷な評価として,a 相 0.8 p.u.,S 相 0.0 p.u.,T 相 -0.8 p.u. とする。
なお,変圧器および周辺の対地静電容量,変圧器の励磁抵抗,励磁インダクタンスの値が明らかであれば,残留磁束の最大値を推定することが可能とされている*5。
遮断器の投入位相
磁束を加算する位相を想定し,遮断器の投入位相を設定する。
上記が面倒な場合は,遮断器の投入時間を 1 周期変化させた解析を行うこともある。
参考文献
- 第11回 グリッドコード検討会 資料5「個別技術要件検討「電圧変動対策(瞬時電圧低下)」」
- 第17回 グリッドコード検討会 資料4「系統連系要件への反映」
- 令和3年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2
- 令和3年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問2
- 平成27年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問2
- 平成22年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問2
- 長谷 良秀・亀澤 朋将・井上 真二・山村 俊一郎:「変圧器残留磁束の実態解明と励磁突入電流抑制」,電学論 B,Vol. 133,No. 7 ,pp. 606 - 615(2013)
- 久納 敬史・野田 琢・市川 路晴:「励磁突入電流の瞬時値解析を目的とした三相変圧器の電流-磁束特性推定手法」,電学論 B,Vol. 140,No. 2,pp. 34 - 41(2020)
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更新履歴
- 2021年11月30日 新規作成
- 2021年12月2日 参考文献に「変圧器残留磁束の実態解明と励磁突入電流抑制」「励磁突入電流の瞬時値解析を目的とした三相変圧器の電流-磁束特性推定手法」を追加
- 2021年12月28日 参考文献に「令和3年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問2」を追加
- 2022年1月22日 参考文献に「平成22年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問2」を追加
- 2022年1月29日 参考文献に「令和3年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2」を追加
- 2024年8月15日 投入位相の制御の説明を追加
- 2025年8月8日 定常状態の最大磁束の 2 倍になる理由を追加,記事の概要,検索エンジン向けタイトル,SNS 向けタイトルを追加
- 2025年8月9日 励磁突入電流波形の例を追加
- 2026年2月15日 系統連系要件「電圧変動対策(瞬時電圧低下)」を追加
*1:定格電流の数倍~数十倍の大きさの電流が流れる。その大きさは,変圧器の容量,結線,変圧器鉄心内部の飽和特性,投入時の電圧位相と残留磁束,そして,系統インピーダンス等に依存する。
*2:安易な既成概念は「励磁電流遮断時の鉄心磁束が残留磁束である」である。長谷 良秀らはこの既成概念を否定し,「無負荷励磁状態の変圧器が遮断器操作によって系統から解列された直後において,変圧器内部では電圧・電流・磁束の過渡現象が短時間続き,その過渡現象終了時点の磁束収斂値が残留磁束としてそのまま鉄心に残される」としている。
*3:比率差動リレーは,変圧器保護に用いられる。
*4:鉄心中に残留磁束が無く,電源電圧の瞬時値が 0 V のときを基準として π/2 [rad] の位相となる瞬間に遮断器が投入されたとすると,磁束は零から出発して正弦波を描き,常規運転状態と同様になるので,励磁電流は常規の小さな値となる。
