目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

我が国におけるエネルギーセキュリティの確保と地球環境保全

次に示す発電設備について,使用する燃料又は利用するエネルギーとしての特性を踏まえ,我が国におけるエネルギーセキュリティ*1の確保と地球環境保全の観点から,特徴,現状及び課題について説明する。

今後の電源開発を進めるうえで,石油代替エネルギー導入,地球温暖化・大気汚染等の環境問題,供給安定性,経済性等総合的に考慮して適切なエネルギーミックスを図る必要がある。

原子力発電

原子力発電の特徴

原子力発電は,発電過程では地球温暖化ガスである CO2 を発生しないので,環境保全に寄与するとともに,燃料であるウラン資源の供給安定性に優れ,価格も高騰する可能性は低いことなど,エネルギーセキュリティー上優れたエネルギー源である。

原子力発電の現状(2003年時点)

原子力発電は,ベース供給電源の中核を担い,発電電力量も国内の全電力量の 1/3 を超えている。

今後も順次開発が計画されているが,安全性,信頼性に対する種々の意見もあり,電源立地を取り巻く状況は厳しい。

原子力発電の課題

安全性や信頼性を確保するための技術開発や原子力発電に対する国民の理解を深める必要がある。また,核燃料リサイクルの確立によりエネルギーセキュリティの一層の向上に取り組むとともに,定格熱出力一定運転の採用など発電コストの低減に取り組んでいる。さらに,放射性廃棄物処理や使用済み燃料の中間貯蔵などのバックエンド対策への取組みも重要である。

LNG 火力発電

LNG 火力発電の特徴

LNG は精製する過程でちりを除き,脱硫,脱炭酸,脱水などの前処理を行っているので,硫黄分などの含有量が少なく,大気汚染面で優れているほか,火炉内の付着物もきわめて少なく清浄である。

エネルギーのベストミックスを考えると,その埋蔵量からミドル的な利用に適したエネルギー源である。

LNG 火力発電の現状(2003年時点)

LNG 火力発電は,近年においてコンバインドサイクル発電の主流となってきており,ミドル火力の中心となりつつある。

LNG は,現在の我が国への供給源が比較的安定した地域であること,契約が長期であることなどから,供給の安定性は高く,CO2 の排出原単位が化石燃料のなかでは小さいことから,その導入推進が進められている。

LNG 調達の不透明性(2022年時点)

LNG は日本の一次エネルギー供給の約 25 %,電源構成の約 40 % を占める重要なエネルギー源である。

一方,ロシアによるウクライナ侵略により,世界的に LNG 市場の需給はひっ迫しており,仮に日本のエネルギー輸入量の約 1 割を占めるロシアからの輸入が途絶すれば,量・価格双方で,ガス供給,電力供給に甚大な影響がある。

LNG 火力発電の課題

LNG 価格と原油価格の連動性,液化のための設備コストの高さ,安全性の確保,契約形態の硬直性などを考慮すると,急速あるいは大幅な導入量の増大には制約があり,これらをエネルギーセキュリティ上十分留意しなければならない。

今後は,ほかの燃料とのバランス,つまり,エネルギーのベストミックスを十分考慮し導入を推進していくことが大切である。

石炭火力発電及び関連技術

石炭火力発電及び関連技術の特徴

石炭は,ほかの燃料と比較して価格面で優位性がある。

しかし,硫黄分を多く含むためそのまま燃料として使用すると硫黄酸化物および NOx の排出が多く,さらにばいじん,CO2 などの排出が多いので,環境保全上問題が大きい。

なお,賦存量の膨大さ,賦存の広さを考慮すると,供給安全性が非常に高く,また経済性の優位さからも中核的な石油代替エネルギーである。

石炭火力発電及び関連技術の現状(2003年時点)

微粉炭火力など,石炭をそのまま燃料とする火力発電所はきわめて少ない。

今後も石炭火力は廃止またはリフレッシュの方向性である。最近ではリフレッシュ工事を実施して,石炭と石油(COM 燃料)または石炭と水(CWM 燃料)を混合した燃料を使用する火力が主となっている。

また,高性能の脱硝装置・脱硫装置・集じん装置が研究開発され,環境上においても改善がなされてきている。

石炭火力発電及び関連技術の課題

引き続き NOx,SOx 排出の低減,さらには CO2 の排出原単位の大きさを考慮すれば,一定量を依存するものの,中長期的にはその導入の増大にはこれらの環境面に対する技術開発が必要である。

さらに,灰の処理や再利用を含めて,石炭のガス化に関する技術開発も推進していくことが大切である。

太陽光発電及び風力発電

太陽光発電及び風力発電の特徴

太陽光・風力は自然エネルギーであり,ばいじん,NOx,SOxの排出,CO2 の排出がなく,環境面においては非常に優れており,また,燃料費が必要ないので,我が国のエネルギーセキュリティの向上に大いに役立つ可能性をもっている。

そのため,風力や太陽光発電といった変動性再生可能エネルギーVRE)設備の設置が世界的に急拡大している。

しかし,天候に左右されエネルギー供給量が安定しない,エネルギー密度が希薄で設備コストが高く,設備の設置にも制約がある。

太陽光発電及び風力発電の現状

太陽光発電及び風力発電は,環境負荷低減の観点から導入推進が進められているが,現在,エネルギーの安定性・コストの割高面・設備設置地点の条件などの制約から,小出力の設備の導入が徐々に進んできている。

太陽光発電及び風力発電の課題

太陽光・風力の最大の欠点は,エネルギー供給が天候に左右され不安定,かつエネルギー密度が低いことである。

したがって,この課題を克服するため,電力貯蔵技術の大容量化のための研究(ナトリウム-硫黄電池の開発・実証などの推進)と並行して,発電技術(発電効率の向上・設備の大型化)の開発および設備の集合設置などを推進していく必要がある。

dark dokdrums

ダーク・ドルドラムズとは,無光無風のことである。太陽光・風力の低出力状態を引き起こす。

日本では,夏季の停滞前線・ヤマセや冬季の南岸低気圧来襲時に無光無風状態となり,VRE が低出力状態となる傾向にある。

wind drought

渇風,長期無風のことである。風力発電の低出力状態を引き起こす。

その他

SF6 代替新技術

2050 年カーボンニュートラルの目標に向け,欧州や北米を中心に電力用 SF6 ガスの環境規制が具体化しつつある。

SF6 ガスはガス絶縁機器のコンパクト化に対して非常に優れた絶縁ガスであるが,ガスの地球温高係数が極めて大きいことから電力用 SF6 ガスの使用量削減が叫ばれている。

SF6 ガスの代替技術として,主に 2 つの代替方法が提案されている。

Fluoronitrile ガス

主絶縁ガスに C4-FN ガスを用い,CO2 ガス,O2 などと混合して使用する技術が提案されている。

この C4-FN 混合ガスを用いた SF6 代替機器を考えた場合,SF6 ガスの GIS 技術の多くを転用できることや,超高圧クラスまで対応可能であるといわれている。

Natural origin ガス

自然由来のガス(N2,O2,CO2)を使用した代替技術であり,主には真空遮断器(VCB)の遮断性能を期待した機器構成が提案されている。

この場合は,たとえ大気開放したとしても環境面への影響が心配なく,クリーンな環境対応を実現可能である。

しかしながら,SF6 ガスの優れた絶縁性能を代替するためには機器の大型化を抑制することが課題である。

参考文献

  • GX 実行会議における議論の論点」,2022年7月27日
  • 電気学会 電力・エネルギー部門 用語解説 第150回テーマ:SF6 代替新技術
  • 電気学会 電力・エネルギー部門 用語解説 第151回テーマ:ダーク・ドルドラムズ
  • 平成15年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問6「我が国におけるエネルギーセキュリティの確保と地球環境保全
  • 平成9年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問6「適切なエネルギーミックス」

更新履歴

  • 2022年12月18日 新規作成
  • 2022年12月21日 参考文献に「GX 実行会議における議論の論点」を追加
  • 2022年12月24日 参考文献に「平成9年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問6」を追加
  • 2023年10月4日 参考文献に「電気学会 電力・エネルギー部門 用語解説 第151回テーマ:ダーク・ドルドラムズ」を追加
  • 2023年10月6日 参考文献に「電気学会 電力・エネルギー部門 用語解説 第150回テーマ:SF6 代替新技術」を追加

*1:エネルギーセキュリティは,エネルギー安全保障とも言われ,経済活動や市民生活を営む上で,必要十分なエネルギーを,安定的かつ合理的に,手頃な価格で確保することと定義される。