目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

配電系統の絶縁協調

配電用機器は線路開閉時の内部異常電圧(内雷)*1には機器の絶縁強度で十分に耐えられるように選定されているが,全ての雷に耐えるようにすることは経済的にも不可能に近い。

すなわち,配電線や配電用機器の絶縁を外雷の衝撃性過電圧に耐える程度に高めることは経済的に困難なため,避雷器のような保護装置を設置して,衝撃性過電圧の波高値を各機器の絶縁強度以下に抑制するような方策がとられている。

この避雷器の制限電圧に対し,線路及び各機器の絶縁強度が適切な余裕を持つよう絶縁設計を行うことで配電系統の絶縁協調(Insulation co-ordination)を図っている。

ここで,電気学会 専門用語集によると,絶縁協調は以下のように定義されている。

系統各部の機器・設備の絶縁の強さに関して,技術上,系統上,ならびに運用上からみて,最も合理的な状態となるように協調を図ること

一方で,避雷器には保護範囲*2があるため,避雷器の有効設置及び架空地線の架設が効果的となる。

配電線の雷害対策の対象

高圧架空配電線に侵入する雷は線路に直接落雷する直撃雷と,線路周辺での落雷あるいは雷雲間での放電による空間の急激な電界の変化によって線路に誘起される誘導雷に分けることができる。

配電線では直撃雷による雷害事故の頻度が少ないうえ,万一落雷した場合には線路機器の絶縁強度をはるかに超える異常電圧となるため,直撃雷に対する保護は困難である。

したがって,従来から配電線の雷害対策は,線路を構成するがいしや機器の絶縁レベルが低いことから,おもに誘導雷を対象として行われてきている。

高圧配電線路における雷害防止対策は,大別してフラッシオーバ防止とフラッシオーバ後の続流アーク被害の拡大防止とに分けられる。

フラッシオーバ対策

架空地線

架空地線は,雷直撃時の逆フラッシオーバの防止と誘導雷の抑制に効果のある耐雷施設で,その概要は次のとおりである。

  • 直撃雷に対しては,雷電流を架空地線の接地を通して大地に流入させ事故防止を図るため,設置間隔が短く,かつ,各接地点の接地抵抗値が小さいほど,架空地線の効果が期待できる。
  • 誘導雷に対しては,架空地線の接地点から流れ出す電流が導体との結合作用により相互誘導電圧を生じさせ,それが誘導雷電圧を低減させる。

架空地線雷電圧が誘導されると,接地点で雷電圧と逆位相の反射波が発生し,この反射波が架空地線との電気的結合により電線に誘導されて,電線に発生した雷電圧を低減することが可能となる。

したがって,架空地線は電線との結合率をできるだけ大きくする必要があるが,接地抵抗はそれほど低くする必要はない。

つまり,架空地線は,雷サージ予想発生回数などをもとに,配電線路の重要度,襲来頻度,事故実績ならびに保守面などを総合勘案して,地域実態に即した適切な適用区域を定める必要がある。

避雷器

避雷器は,襲雷時に,配電用機器を保護するために,機器の破壊電圧より低い電圧で放電を開始し,自動的に続流を遮断させるもので,このことにより,配電線路は絶縁を回復し,襲雷前と全く同じ状態で運転が可能となる。

避雷器の保護効果を高めるため,避雷器の接地は,接地抵抗値をできるだけ低くし,かつ配電用機器の接地と連接接地することが望ましい。さらに誘導雷サージの低減効果を高めるため,架空地線の接地とも連接接地する。

また,常時開放の開閉器については,一般にその前後に避雷器を取り付けることが望ましい。

フラッシオーバ後の続流アーク対策

高圧架空配電線の絶縁被覆化に伴い,雷サージフラッシオーバ時の続流アークによる電線の溶断事故がクローズアップされるようになってきた。

そこで,フラッシオーバ対策のような耐雷対策のほかに,次のような対策がとられている。

格差絶縁方式

変圧器周辺の絶縁レベルを本線部分よりも低くし,本線部分におけるフラッシオーバ事故を軽減するもので,高圧本線部分の絶縁レベルを従来の 6 号級から 10 号級に格上げしており,これによりフラッシオーバ箇所は変圧器周辺に集中するが,続流を PC ヒューズで遮断することにより配電線故障となるのを防止している。

アークホーン式(放電クランプ)

高圧がいし頂部にフラッシオーバ金具を取り付け,この金具とがいしベース金具間(あるいは腕金間)で雷サージによるフラッシオーバおよびこれに伴う AC 続流の放電を行わせ,高圧がいしの破損および電線の溶断を防止するものである。

送電線のアークホーンと同一原理によるものであるが,配電線用にコンパクト化,充電部隠ぺい化などが図られている。

酸化亜鉛素子付アークホーン

アークホーンの接地側に酸化亜鉛素子を取り付けたもので,雷サージのような高電圧領域では酸化亜鉛素子が容易に電流を通過させる反面,通常電圧のような低電圧領域では電流を阻止する働きを持つため,これにより AC 続流を遮断して断線を防止するとともに,がいしの破損をも防止することができる。

改良形絶縁電線

改良形絶縁電線は,素線径を大きくして,より線数を少なくし,かつ,スムースボディ化(圧縮形)にしたもので,従来の絶縁電線に比較して溶断時間を 10 ~ 20 倍と大幅に改善することができる。

配電設備と送変電設備との絶縁協調との違い

配電設備は送電設備と異なり,絶縁レベルが相対的に低い。また,機器が分散配置されていることから,雷事故を軽減するためには耐雷対策に十分配慮する必要がある。

配電設備で雷過電圧が発生する要因は,配電線への直撃雷と,近隣の落雷により発生する強い電磁界による誘導雷の 2 種類がある。

誘導雷の発生電圧は数百キロボルト程度にとどまり,送電線では脅威にならない。

配電設備の耐雷対策としては,架空地線で電力線と機器とを遮へいする方法と,侵入した雷による過電圧抑制や機器保護のため避雷器やアークホーンを用いる方法がある。

開閉器や変圧器は,避雷器を内蔵したり,近傍に設置して保護している。線路も保護範囲を考慮して避雷器を適切に設置したり,電線や碍子の雷による被害を防止するために,アークホーンを設置して保護している。

参考文献

masassiah.web.fc2.com

更新履歴

  • 2021年11月16日 新規作成
  • 2021年12月5日 電気学会 専門用語集「絶縁協調」を追加
  • 2022年2月5日 参考文献に「平成16年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問4」を追加
  • 2022年5月29日 加除修正
  • 2022年11月5日 参考文献に「平成27年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2」を追加

*1:電力系統外の要因(雷)による過電圧を外部異常電圧(外雷),電力系統内の要因(開閉等)による過電圧を内部異常電圧(内雷)という。

*2:避雷器が雷から機器を保護する範囲は,当初 150 m ぐらいと考えられていたが,効果は薄く,機器を十分に保護するには 50 m が最も効果的であることが種々の研究の結果判明した。そのため近年では,変圧器や開閉器に避雷器を内蔵する場合も生じている。