本稿は,電気加工に関する記述である。
放電加工
放電加工は,水や油などの高い絶縁性をもつ加工液中で被加工物と加工電極間にパルス状のアーク放電を繰り返し発生させることによって加工するのがその原理である。
放電加工は,さまざまな形状や,複雑な形状の加工が容易であり,加工精度が高く自動化しやすいという特徴があるものの,機械加工に比べて加工速度が遅く,工具電極の消耗がある。
放電加工法が誕生(1950 年頃)してから約 70 年が経過し,硬度の高い材料への金型,部品等の加工に留まらず,アークプラズマを利用した表面改質などの表面への機能付与にも発展している。
放電加工には大別して二つの方式がある。
一つは総型の電極を転写加工する型彫放電加工であり,もう一つはワイヤ電極を走行させながら工作物を糸のこ式に加工するワイヤ放電加工である。
型彫放電加工
型彫放電加工は,向かい合った材料と電極間の間隔の短いところから放電がおこり,そのアーク熱により材料が溶融,蒸発を起こす。
順次,材料と電極間隔の短いところで,次々と放電が起こり最終的に電極間の間げきが均一になるように加工される。
材料と電極の間隔は数十 μm 程度に保たれる。
また,加工点には,最大 20 000 A 程度の電流が流れ,加熱温度は 10 000 °C 以上に達する。
この型彫放電加工に用いられる電極には,銅またはグラファイト製のブロック電極が用いられる。
ワイヤ放電加工
ワイヤ放電加工は,電極に細い金属ワイヤを用い,この電極をリールに巻き取りながら被加熱物を切断加工するものである。
放電加工は,数値制御(NC)方式を用いて主として金属加工に用いられる。
微細放電加工
加工反力の小さい放電加工法においては,微細加工は得意とする分野である。
おおよそ 0.5 mm 以下の形状を対象とする加工を微細放電加工の領域と定義している。
(参考)放電加工法のはじまり
1947 年に東京大学にて,ソ連のラザレンコ氏夫妻が液体中の放電を利用して硬い鋼板に星形の孔を加工するニュース映画が上映された。
日本における放電による加工の研究の端緒は,この映像を見た鳳誠三郎*1によって加工実験が着手されたことに始まる。
ビーム加工
ビーム加工には電子ビーム加工,イオンビーム加工などがある。
電子ビームの発生源には金属中の自由電子などがあり,金属が高温に加熱されるとこの電子が熱電子として外部に放出され,適当な分布をもつ電界によって一定方向に集中・加速されて指向性に優れたビームになる。
飛行する電子の 1 個当たりのエネルギー $E$ は,電子の電荷を $e$,加工電圧を $V$ とすると $E=eV$ のように表わされる。
このビームが電磁レンズを用いることによって収束や方向転換など空間的に制御されて被加工物に照射され,加熱加工できる。
電子ビーム加工
電子ビーム加工は,電子ビームを絞ることにより微細加工が可能で,局所加熱ができるため高融点材料の加工が可能である。
また,加工位置,パワー密度の制御が容易であり,自動化しやすいという特徴がある。
この加工方式は,陰極に発生した電子を電界により加速して電子ビームを作り,被加工物を照射する。
このとき電子が被加熱物に衝突し,運動エネルギーが熱エネルギーになって被加熱物を加熱して加工する。
電子ビームを利用した穴あけ加工は,穴あけ速度が数千個/秒と極めて速く,耐熱合金などの難削金属や,セラミックなどの硬くてもろい材料の加工に適する。
電子ビーム加工は,電気エネルギーから電子ビームの運動エネルギーへの変換効率が 100 % に近い反面,真空作業のため作業性が悪く,加工周辺では熱による変質が起こる。
レーザ加工
レーザは単色性,指向性,集光性,制御性に優れた電磁波であり,広い分野に応用されている。
レーザ加工は使用環境を問わず,非接触で精密かつ高速の加工ができることが特徴である。
産業用途によく利用されている加工用レーザは,赤外域の波長をもつ YAG レーザ,CO2 レーザなどがある。
加工材料である金属にレーザビームを照射すると,一部は表面で反射され,残りは内部を透過しながら吸収される結果,光エネルギーが熱エネルギーに変換される。
赤外域の光の金属への吸収率は導電率の平方根に反比例し,一般的には温度上昇によって導電率が低下するので吸収率が増加することになり,加熱が加速される。
レーザ熱処理(laser heat treatment)
レーザ加熱を利用してワークを表面から熱処理すること。
レーザ焼入れ(laser hardening)
レーザ加熱を利用してワークを表面から焼入れすること。
レーザクラッディング(laser cladding)
レーザ加熱を利用してワークの表面に異質の材料を付着させること。
レーザアロイング(laser alloying)
ワーク表面に金属材料を添加しレーザ加熱することによって合金をつくること。
レーザ溶接(laser welding)
レーザ加熱を利用してワークを接合すること。
レーザ切断(laser cutting)
レーザ加熱を利用してワークを切断すること。
レーザ穴あけ(laser drilling)
レーザ加熱を利用してワークに穴をあけること。
代表的な加工用レーザ
エキシマレーザ
エキシマレーザは,希ガスとハロゲンガスとの混合ガスを用いる気体レーザであり,紫外域のパルス光を発生する。
エキシマレーザは半導体製造工程における露光装置の光源などに用いられる。
YAG レーザ及び CO2 レーザ
YAG レーザ及び CO2 レーザは,金属などの穴あけ,切断,溶接,微細な表面加工などに用いられている。
YAG レーザは,赤外光を発生する固定レーザであり,発光する光の波長は CO2 レーザの波長よりも短く,集光スポット径をより小さくできる。
このため,より微細な加工が可能である。
しかし,非金属物質を対象とする場合には,多くの物質においてその波長における光エネルギーの吸収率が低いため,加工対象物の種類は限られる。
一方,CO2 レーザは,加工対象物の種類が多く,YAG レーザよりも出力の大きな連続した光を得ることができるため,厚板の切断や溶接により適している。
参考文献
- 電気専門用語集(WEB 版)
- 谷 貴幸,「放電加工技術の変遷と展望」(電学誌,142 巻 3号,2022 年)
- 令和4年度 エネルギー管理士試験 電気分野 問題13
- 平成24年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問4
- 平成17年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問6
更新履歴
- 2022年2月8日 新規作成
- 2022年2月11日 参考文献に「平成17年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問6」を追加
- 2023年4月30日 参考文献に「令和4年度 エネルギー管理士試験 電気分野 問題13」を追加