目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

火力発電所の燃料増分費

本問は,燃料増分費(incremental fuel cost)に関する問題である。需給バランスを満足しつつ,燃料増分費が等しくなる出力で運転することで燃料費を最小とできる。(Lagrange の未定乗数法を適用し,Lagrange 関数を最小化するという最適化問題である。)

これを等増分燃料費則とよび,火力ユニットの経済運用の基礎となる考え方である。

問題文

水力発電所と二つの火力発電所 G1,G2 からなる電源から供給している系統がある。

水力発電所を昼間・夜間一定運転した場合の,火力発電所の需要分担は下表のとおりであり,火力発電所の $P$ [MW] に対する増分燃料費 $\lambda$ は,下式のとおりとする。

発電所 運転時間帯 発電出力 [MW]
水力発電 昼間・夜間一定運転 15
火力発電所 2 か所合計 昼間時間帯(8 時から 22 時) 250
夜間時間帯(0 時から 8 時,及び 22 時から 24 時) 50
火力発電所 G1 : $\lambda_1(P_1) = 1000 + 12P_1$
火力発電所 G2 : $\lambda_2(P_2) = 650 + 20P_2$

これから,水力発電所を夜間時間帯に停止し,停止中に調整池に貯留した分の水を昼間時間帯に出力増加して使い切ることで,火力発電所の出力を平準化するものとして,次の (1) から (5) に当てはまる数値を求め,記述用紙の解答欄に記入しなさい(答の有効数字は 3 けたとする)。

なお,調整池への河川流入量 [m3/s] は常に一定で,水力発電所の出力と使用流量 [m3/s] とは比例関係にあるものとする。

また,系統の送電損失は無視するものとする。

水力発電所による調整前,火力発電所 G1,G2 の $\lambda$ 特性から経済的に出力配分すると,G1 の発電出力は昼間時間帯が (1) [MW],夜間時間帯が (2) [MW] となる。

水力発電所で夜間時間帯に停止した分に相当する電力量と同じ分の電力量を,昼間時間帯に均等に水力発電所の出力増に充てるものとすると,水力発電所の昼間時間帯の発電出力は (3) [MW] になる。

水力発電所による調整後,火力発電所 G1,G2 を経済的に出力配分すると,G1 の発電出力は昼間時間帯が (4) [MW],夜間時間帯が (5) [MW] となる。

1. 水力発電所による調整前

(1) G1 の発電出力(昼間時間帯)

昼間時間帯,火力発電機の出力は次式となる(昼間時間帯の制約条件)。

$P_1 + P_2 = 250$

等増分燃料費法の考え方より,$\lambda_1 = \lambda_2$ のとき,最も経済的となる。

$1000 + 12P_1 = 650 + 20 P_2$

上記の 2 式より,$P_1 =$ 145 [MW] となる。

水力発電所による調整前,昼間時間帯の火力発電所 G1 の出力 $P_1$ と燃料費の関係を下図に示す(火力発電所 G1 の燃料費は $F_1$,火力発電所 G2 の燃料費は $F_2$)。

図 火力発電所の燃料費(昼間時間帯,水力発電所による調整前)

図 火力発電所の燃料費(昼間時間帯,水力発電所による調整前)
等増分燃料費法の考え方

全火力発電機の総発電量を一定にする条件のもとで,総燃料費を最小とする出力配分は,理想条件下ではラグランジュの未定乗数法によって求めることができる。

その結果として,各発電機の増分燃料費が一致する出力配分のときであることが示される。

これを等増分燃料費法(または等 $\lambda$ 法)と呼ぶ。

(2) G1 の発電出力(夜間時間帯)

夜間時間帯,火力発電機の出力は次式となる(夜間時間帯の制約条件)。

$P_1 + P_2 = 50$

等増分燃料費法の考え方より,$\lambda_1 = \lambda_2$ のとき,最も経済的となる。

$1000 + 12P_1 = 650 + 20 P_2$

上記の 2 式より,$P_1 =$ 20.3 [MW] となる。

水力発電所による調整前,夜間時間帯の火力発電所 G1 の出力 $P_1$ と燃料費の関係を下図に示す(火力発電所 G1 の燃料費は $F_1$,火力発電所 G2 の燃料費は $F_2$)。

図 火力発電所の燃料費(夜間時間帯,水力発電所による調整前)

図 火力発電所の燃料費(夜間時間帯,水力発電所による調整前)

2. 水力発電所による調整後

(3) 水力発電所の昼間時間帯の発電出力

水力発電所を夜間時間帯(10 時間)停止し,昼間時間帯(14 時間)に均等に水力発電所の出力発電所の出力増に充てる。よって,水力発電所の昼間時間帯の発電出力は,次式で求められる。

15 + 15 × 10 ÷ 14 = 25.714 ≈ 25.7 [MW]

(4) G1 の発電出力(昼間時間帯)

昼間時間帯,水力発電所の出力は増加しているため,火力発電機の出力は次式となる(昼間時間帯の制約条件)。

$\displaystyle P_1 + P_2 = 250 - \frac{15\times 10}{14} = 239.29$

等増分燃料費法の考え方より,$\lambda_1 = \lambda_2$ のとき,最も経済的となる。

$1000 + 12P_1 = 650 + 20 P_2$

上記の 2 式より,$P_1 =$ 139 [MW] となる。

水力発電所による調整後,昼間時間帯の火力発電所 G1 の出力 $P_1$ と燃料費の関係を下図に示す(火力発電所 G1 の燃料費は $F_1$,火力発電所 G2 の燃料費は $F_2$)。

図 火力発電所の燃料費(昼間時間帯,水力発電所による調整後)

図 火力発電所の燃料費(昼間時間帯,水力発電所による調整後)

(5) G1 の発電出力(夜間時間帯)

夜間時間帯,水力発電所は停止しているため,火力発電機の出力は次式となる(夜間時間帯の制約条件)。

$P_1 + P_2 = 50 + 15 = 65$

等増分燃料費法の考え方より,$\lambda_1 = \lambda_2$ のとき,最も経済的となる。

$1000 + 12P_1 = 650 + 20 P_2$

上記の 2 式より,$P_1 =$ 29.7 [MW] となる。

水力発電所による調整後,夜間時間帯の火力発電所 G1 の出力 $P_1$ と燃料費の関係を下図に示す(火力発電所 G1 の燃料費は $F_1$,火力発電所 G2 の燃料費は $F_2$)。

水力発電所による調整後,夜間時間帯の火力発電所 G1 の出力 $P_1$ と燃料費の関係を下図に示す(火力発電所 G1 の燃料費は $F_1$,火力発電所 G2 の燃料費は $F_2$)。

図 火力発電所の燃料費(夜間時間帯,水力発電所による調整後)

図 火力発電所の燃料費(夜間時間帯,水力発電所による調整後)

(参考)火力発電所の燃料費

火力発電所の $P$ [MW] に対する増分燃料費 $\lambda$ を $P$ で積分して,火力発電所の燃料費 $F$ は,次式で表される。

火力発電所 G1 : $F_1(P_1) = C_1 + 1000 P_1 + 6{P_1}^2$
火力発電所 G2 : $F_2(P_2) = C_2 + 650 P_2 + 10{P_2}^2$

ここで,$C_1$ は火力発電所 G1の固定費,$C_2$ は火力発電所 G2 の固定費である。本問では燃料増分費に着目しているため,いずれも 0 円として扱う。

(火力発電所の出力と燃料費の関係のグラフも固定費は 0 円であると仮定して描画している。)

参考文献

更新履歴

  • 2022年9月4日 新規作成