目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

変圧器の耐電圧試験

変圧器の耐電圧試験は,短時間交流耐電圧試験,長時間交流耐電圧試験,雷インパルス耐電圧試験の 3 種に区分される。

短時間交流耐電圧試験

短時間交流耐電圧試験は,所定の商用周波交流試験電圧を 1 分間程度印加し,絶縁破壊を生じることなく耐えることを確認する試験である。

JEAC 5001-2012『発変電規程(電気技術規程発変電編)』絶縁耐力試験

JEAC 5001-2012『発変電規程(電気技術規程発変電編)』絶縁耐力試験を行う場合の注意事項として,以下のように記載されている。

  1. 試験前に,その回路が絶縁されていることを絶縁抵抗計で確認し,また,試験後にも絶縁に異常がないことを絶縁抵抗計で確認する。
  2. 試験電圧は,商用周波数のなるべく正弦波に近い交流電圧を用いる。
  3. 試験電圧は急激に上昇させず,徐々に規定電圧まで上昇させることが望ましい。
  4. 試験中は,試験電圧確認用の電圧計の指針に注意し,常に一定の試験電圧が加えられるように調整する。
  5. 試験後は,必ず被試験回路を接地して充電電流を放電させる。

長時間交流耐電圧試験

長時間交流耐電圧試験は,有効接地系統に接続される段絶縁巻線の運転期間中の常規対地電圧と短時間過電圧に対する絶縁強度を検証することを目的とする。

変圧器の一つの巻線の端子に交流電圧を加えて試験を行う。

電圧はできるかぎり正弦波に近い波形とし,また励磁電流が過大となるのを防ぐため定格周波数より高い周波数を使用してよい。

商用周波交流試験電圧を規定の時間印加し,部分放電を測定することにより,短時間交流耐電圧試験より低い印加電圧で,前駆的な段階での絶縁検証が可能である。

判定基準は,電圧印加から,試験終了まで内部部分放電が検出されないものとする。

外部ノイズはできるだけ低く抑える。

550 kV 変圧器では,
475 kV × 5 分 ~ 635 kV × t 秒 ~ 475 kV × 1 時間

と規定されている。

ただし,t = (120 × 定格周波数) / (試験時の周波数) [秒]*1である。

図 長時間交流耐電圧印加のパターン

図 長時間交流耐電圧印加のパターン

長時間交流耐電圧の試験電圧と試験時間は,下表の通り。

長時間交流耐電圧の試験電圧と試験時間
公称電圧 [kV] 試験電圧 [kV]
5 分 t = (120 × 定格周波数) / (試験時の周波数) [秒] 1 時間
187 170 225 170
220 200 265 200
275 250 330 250
500 475 635 475

長時間商用周波耐電圧試験導入の背景

商用周波の 1 分試験電圧値も,絶縁物の電圧時間曲線($V-t$ 曲線)の上で,雷インパルス電圧と協調をとって低く選ばれるので,運転電圧に対する長期寿命が,これで検証できるのかどうかが問題になった。

30 年というような長期寿命に対しては,短時間高い電圧を印加して,そのときは異常がなかったとしても,例えば微小な部分放電が生じていて,長い間に絶縁劣化が進む可能性は否定できない。

事実,1 分間試験に合格した変圧器が故障を起こす実例もあり,もう少し低い電圧を長時間加えて,その間に部分放電を生じないことを確かめる方が信頼性は高い,そのような経緯で長時間耐電圧試験が導入された。

長時間交流耐電圧試験時間の決定根拠

長時間交流耐電圧試験時間については,長時間部分と短時間部分を組み合わせて実施することが規定されており,短時間部分は 1 分,長時間部分については個別機器の規格によることになっている。

短時間部分の印加時間

短時間部分の印加時間については,この部分で変圧器の寿命期間中の短時間過電圧に対する信頼性を検証するものとし周波数を補正して 1 分相当とした。

変圧器の長時間交流耐電圧試験は鉄心の飽和を避けるため高周波電源により実施される。

このため,短時間部分の印加時間は従来の方法に従って周波数補正をすることにした。

長時間部分の印加時間

短時間印加前の印加については供試品に異常な欠陥がないことを確認するのを目的とし,IEC でも採用されている 5 分を採用した。

短時間印加後の印加時間については,この部分で変圧器の寿命期間中の運転時間に対する信頼性を検証するものとし 1 時間とした。

試験時間の決定に際しては,変圧器の寿命期間中の無部分放電確率を算出し,試験時間の妥当性を評価した。

長時間交流耐電圧試験の判定基準

長時間交流耐電圧試験は,運転期間中の常規対地電圧と短時間過電圧に対する絶縁強度を検証することを目的とするもので,全印加時間にわたって内部部分放電が生じないことを原則とする。

ただし,実際の試験においては外部ノイズと区別できる内部部分放電が検出されない場合に,内部部分放電が生じていないものと判断する。

したがって,外部ノイズのレベルはできるだけ低くすることが望ましい。

旧規格 JEC-204 では,外部ノイズのレベルを,比較的容易に実現可能なレベルである 100 pC 以下とするように規定されていた。

その後の試験実績では,外部ノイズのレベルが数十 pC 程度となる例が多いが,本規格では適用変圧器範囲も広がっていることから外部ノイズのレベルの目安として 100 pC 以下を推奨する。

雷インパルス耐電圧試験

雷インパルス耐電圧試験は,主に雷サージに対する絶縁強度を検証することを目的とする。

試験順序は雷インパルス耐電圧試験-短時間交流耐電圧試験または,長時間交流耐電圧試験の順が望ましい。

全波試験電圧波形は,標準雷インパルス電圧波形 1.2/50 μs を用い,通常正負両極性において各 3 回ずつ印加を行う。

標準波形

送電線に表れる雷電圧の波形は千差万別であるが,試験規格においては雷インパルス試験電圧の波形を一義的に統一する必要があり,この規定された波形を標準波形と称している。

わが国の標準波形について,極性は正,負とも波頭長は 1.2 μs,波尾長は 50 μs が採用されており,裕度として波頭長は ±30 %,波尾長は ±20 % が認められている。

一般に,波形の表示は $\pm T_1/T_2$ [μs] ($T_1$:規約波頭長,$T_2$:規約波尾長)のように書かれる。

したがって,標準波形の表示は ±1.2/50 μs となる。

図 雷インパルス電圧絶縁試験の標準波形

図 雷インパルス電圧絶縁試験の標準波形

雷インパルス試験電圧値

雷インパルス試験電圧値は,LIWV(Lightning Impulse Withstand Voltage)とも呼ばれる。

試験電圧値

JEC-0102-2010「試験電圧標準」において,公称電圧ごとの試験電圧値は,次表のように定められている。

表 JEC-0102-2010 試験電圧値(対地)
公称電圧 [kV] 試験電圧値 [kV]
雷インパルス耐電圧試験 短時間商用周波耐電圧試験(実効値) 長時間商用周波耐電圧試験(実効値)
66 250 115
350 140
77 325 140
400 160
154 650 275
750 325
275 950 250 - 330 - 250
1 050
500 1 300 475 - 635 - 475
1 425
1 550
1 800

参考文献

更新履歴

  • 2022年5月31日 新規作成
  • 2022年10月22日 参考文献に「平成19年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問5」を追加
  • 参考文献に JEC-2200-1995「変圧器」

*1:試験時の周波数が定格周波数の 2 倍以下の場合は,1 分とし,2 倍を超える場合に適用する。ただし,最短 15 秒とする。