日々の電力需要は,季節,曜日,気温の変化に応じて大きく変化する。
そこで翌日の需要予想は,これまでの需要実績と気温の変化,季節的特徴や祝日などの特異日などをベースに作成する。
これに対し,供給力は各発電所の運転状況について,水力発電の出水状況,発電所の定期点検,電気設備の故障,他社受電などを勘案して総合的に積み上げる。
電力需給の特徴
電気の需要と供給との関係を電力需給という。電力需給は電気の特性に起因して他の商品の需給とは次の点で大きく異なる。
- 供給力(発電設備)による電気の発生と,需要(負荷設備)による電気の消費とが同時に行われるため,需要と供給の間に不均衡が生じると周波数が変動する。供給力が不足すると需給の均衡が破れて供給を継続することができなくなり,最悪の場合,大規模な停電に至る。
- 供給力は,水力を含む再生可能エネルギー・火力・原子力等の電源により構成されている。一方,需要は電気の使用形態を異にする多数の負荷で構成され,常に変動している。
したがって,全国規模での安定供給体制と需給調整機能を強化するためには,需給状況の監視,供給能力の確保,需給状況が悪化又はそのおそれがある場合の電気の供給の指示等を,全国的な視点を持った一つの法人が行う必要があるとされ,電力システム改革以降,電力広域的運営推進機関(OCCTO)がその役割を担っている。
電力広域的運営推進機関(OCCTO)は全ての電気事業者(発電事業者,小売電気事業者,一般送配電事業者,送電事業者,配電事業者,特定送配電事業者,特定卸供給事業者)が会員となることが義務付けられており,次に掲げる業務を行っている。
- 会員が営む電気事業に係る電気の需給の状況の監視
- 需給の状態が悪化又はそのおそれがある場合で需給の状況を改善する必要があると認められるときの,電源の出力増や電力融通により電気を供給する指示
- 送配電等業務の実施に関する基本的な指針の策定
- 電気事業者による供給計画及び当該供給計画に関する意見の経済産業大臣への送付
- 供給能力の確保の促進
- FC,地域間連系線等の送電インフラの整備に関する広域系統整備計画の策定
- 一般送配電事業者による災害時連携計画及び当該災害時連携計画に関する意見の経済産業大臣への送付
- その他電力広域的運営推進機関(OCCTO)の目的を達成するために必要な業務
日本の電力需給
電気は,供給が大幅に不足すると,需要の一部を制限しない限り安定供給を継続することが不可能となる。
したがって,常に最大需要に対処できる供給能力を準備しなければならない。
電力広域的運営推進機関の「平成 30 年度供給計画の取りまとめ」によると,平成 30 年度の需要電力(一般送配電事業者 10 者が届け出たエリア需要を全国合計したもの)の見通しは,8 月に最大となり,その最大 3 日平均電力(送電端)は約 15 800 万 kW である。
また,エリア別の需要見通しでは,一般送配電事業者 2 者のエリアで暖房需要がピークを迎える冬季に最大需要電力の発生を想定している。
各エリアの予備率は,連系線を活用した他のエリアからの供給力を考慮することにより,安定供給の基準とする予備率 8 %(沖縄エリアを除く。)を確保できる見通しである。
一方,平成 30 年度の年間需要電力量(一般送配電事業者 10 者が届け出たエリアの需要電力量を全国合計したもの)の見通しは,送電端で約 8 900 億 kW・h であり,年負荷率は 64 % となる見込みである。
エリア需要
エリア需要とは,一般送配電事業者の各供給区域において,小売電気事業者及び一般送配電事業者が一般送配電事業者の流通設備を介して一般の需要に応じて供給する電気の量のうち最大 3 日平均電力を示したものをいう。
最大 3 日平均電力
最大 3 日平均電力とは,各月における毎日の最大需要電力(1 時間平均値)を上位から 3 日とり,それを平均した値をいう。
最大 3 日平均電力は,H3(ホット 3)と略されることもある。
供給予備力
供給力は需要に対し若干の余裕を持つ必要があるが,これを供給予備力と呼び,次のように分類される。
待機予備力
大気中の火力発電所など,起動してから発電するまでに数時間以上を要し,需給の急変時には対応できないが,発電後は長時間継続して発電可能な予備力。
発電機の起動から全負荷をとるまでに数時間程度を要する供給力として,需要の想定値に対する持続的増加,渇水,停止までに相当の時間的余裕のある電源,または電源送電系統の不具合など相当の時間的余裕をもって予測しうるものに対応できるものをいう。
具体的な供給力としては,停止待機中の火力発電所で,起動後には長期間継続発電可能な設備が該当する。
運転予備力
天気急変などによる需要の急増や,短期間の系統の不足電力に対応するための,部分負荷運転中の発電機の出力の余力,停止待機中の水力など数分間で供給力増加が可能な予備力。
即時に発電可能なもの,および 10 分程度以内の短時間で発電機を起動して負荷をとり,待機予備力が起動して負荷をとる時間まで継続して発電しうる供給力として,社会的事情,天候の急変などによる需要の急増,電源を即時または短時間に停止,出力抑制しなければならない場合などに即時または短時間に系統の不足電力に対応できるものをいう。
具体的な供給力としては,水力発電所,火力発電所などの部分負荷運転中の発電機の余力分,およびダム式水力発電所,揚水発電所など停止待機中の水力設備が該当する。
瞬動予備力
電源脱落時の周波数低下に対して系統の周波数が許容値を超えないよう即座に出力増加が図られる,調速機運転分余力のような予備力。
電力系統の瞬時の周波数低下に対して即時に応動を開始し,10 秒程度以内で急速に出力を上昇し,少なくとも瞬動予備力以外の運転予備力が発動されるまでの時間,継続して自動発電可能な供給力として,万一,大電源脱落事故時において,系統の周波数が許容最大値を超えないように瞬時に対応できるものをいう。
具体的な供給力としては,ガバナフリー運転中の発電機のガバナフリー余力分が該当する。
予備率
電力広域的運営推進機関によると,予備率とは,電力需要に対して供給余力の余裕がどの程度あるか示したものである。
予備力(供給力-最大 3 日平均電力)を最大 3 日平均電力で除したものをいう。
供給力
供給力とは,最大 3 日平均電力発生時に安定的に見込める供給能力をいう。
ベース供給力
日負荷曲線に沿って需要が変化する中で,昼夜を通しフラットな部分の需要の供給を担う供給力で,ほぼ最大限の出力で長期間一定運転する発電設備であり,次の設備が該当する。
- 調整能力のない流れ込み式水力
- 定格出力で連続運転可能,燃料費が低廉な原子力
- 定格出力で連続運転可能,運転費が低廉で熱効率が高い大容量火力
ミドル供給力
深夜帯を除く中間部分の需要の供給を担う供給力で,ベースとピークの中間の役割をもって毎日運転・停止可能である発電設備であり,次の設備が該当する。
- 大きな需要変動に合わせて起動・停止ができ,出力調整も可能な中容量火力
ピーク供給力
最大値に近い需要部分の供給を担う供給力で,需要のピーク部分の変動に対応して運転可能である発電設備であり,次の設備が該当する。
- 時々刻々変化する需要に対応して出力調整が容易で,かつ出力変化速度も速く,さらに起動・停止も容易な貯水池式,調整池式および揚水式水力
最大電力量バランス
最大電力バランスとは,需要の最大と供給能力を比較するもので,供給能力が需要を上回る分を供給予備力といい,これは供給信頼度に関わるものである。
電力量バランス
電力量バランスは,月別・年度別に電力供給量の電源別の分担を決めるもので,発電所の運用計画などに役立てられる。
需給調整市場
一般送配電事業者は需給バランスを調整するための電源(調整力)確保,および周波数調整・需給調整を行う重要な役割を担っている。
公平性確保や調達コストの透明性・適切性確保の観点から各一般送配電事業者が調整力を管轄内(エリア)で公募調達してきたが,周波数調整や需給調整を行うための調整力をより効率的に調達・運用するために需給調整市場が 2021 年 4 月に開設された。
需給調整市場の概要
需給調整市場は,主に需給調整市場システムと広域需給調整システムによって調整力を調達し,運用されている。
需給調整市場システムは,各エリアで計算された必要調整力量を全国大で広域調達し,連系線の空き容量などの制約を満たした上で約定処理する機能を有する。
広域需給調整システムは,全国大で調達した調整力の中から,各エリアにおける発電・需要電力量の計画値と実績値の差分(インバランス)の調整と,調整力が発動した場合のコストを考慮し,調整量を各エリアに配分する機能を有する。
また,需給調整市場の取扱商品と導入スケジュールを次表に示す。
商品 | 応動時間 | 継続時間 | 導入開始 |
---|---|---|---|
三次 ② | 45 分以内(2025 年以降は 60 分以内) | 3 時間(2025 年以降は 30 分) | 2021 年 |
三次 ① | 15 分以内 | 3 時間 | 2022 年 |
二次 ② | 5 分以内 | 30 分以上 | 2024 年 |
二次 ① | 5 分以内 | 30 分以上 | 2024 年 |
一次 | 10 秒以内 | 5 分以上 | 2024 年 |
一般送配電事業者が指令を発信してから供出可能量まで出力変化するのに要する時間(応動時間)や最大値または指令値を継続して出力し続けることが可能な時間(継続時間)によって商品が区分されている。
2024 年度より,全ての商品が揃うことになる予定のため需給調整の更なる効率化が期待されている。
需給計画
需給計画(demand and suply plan)は,想定される将来の電力需要に対して,与えられた供給力をその特性に応じて適切に組み合わせて,必要な予備力を保持できるよう供給計画を策定することをいう。
需給計画はその策定期間により,短期需給計画,長期需給計画に区別される。
また,発電計画と実績,需要計画と実績の乖離をインバランスと呼ぶ。
短期需給計画
短期需給計画は,貯水池の使用計画ならびに発変電設備の補修点検計画等,日常運用の基礎となるもので,月単位で作成される。
長期需給計画
電源,送電設備等の開発計画を作成するために用いられ,代表月,年単位で作成される。
一般電気事業者における電力需給計画
電力需要計画は,電力の安定供給と設備の経済的開発,経済的運用を図ることを目的として策定されるもので,将来の電力需要を想定し,その需要に対する供給力が主なものとなっている。
また,その計画には,至近年を対象とした短期計画と,10 年程度先を対象とした長期計画とがある。
供給力の検討に当たっては,一般水力の河川流量の豊・渇水の影響,発電設備の定期検査や計画補修による一定期間の停止,発電設備の計画外停止などを考慮して,最大電力バランスと電力量バランスを策定している。
最大電力バランスは,短期計画では月別に,また長期計画では年間最大電力発生月の需要と供給力を対比させる。
供給力の算定のうち,一般水力は,河川流量に左右されるので,過去の実績可能発電力をもとに月ごとに毎日の持続曲線を求め,その最低 5 日平均出力を供給力として採用している。
供給力が需要を上回る分を供給予備力と呼び,安定供給を維持するためには,離島などの単独系統を除き一般に需要の 8~10 [%] 程度が必要とされている。
この必要な供給予備力は,わが国では一般に,月の最大 3 日平均需要に対して見込不足日数が 0.3 [日/月] 以下となることを目標値としたものである。
電力量バランスは,各発電設備の発電可能電力量から定期検査や計画補修等による一定期間の停止による発電電力量(停止電力量)を差し引き,短期計画では各月別,また長期計画では年度別に策定している。
需給バランス
需給バランス(demand and supply balance)とは,電力系統の需要と供給力のバランス(需給均衡度,供給力の稼働状況等)を表現するもので,通常は,最大電力バランス(kW),電力量バランス(kWh)の二つに大別される。
さらに,発電計画と需要計画は,瞬時瞬時でズレるため,調整力(ΔkW)で補正する。
最大電力バランス
短期および長期需給計画における最大電力バランスは,当月の想定最大需要(最大 3 日平均電力)と最渇水時点をベースとした水力および火力・原子力等各種供給力の供給能力の合計を対比して,月内におけるもっとも苦しい時点における供給予備力の保有状況を明らかにするために作成され,H3-L5 バランスとも呼ばれる。
また,需給運用時の最大電力バランスは,当該期間において実際に予想される最大需要に対し,その期間における出水状況や補修工事の実施状況,さらに系統の状況や各電源の運転特性等を考慮し,安定供給ならびに経済運用を維持するために必要な供給力を確保するために検討・作成される。
電力量バランス
電力量バランスは,当該期間に想定される需要電力量に対し,水力・火力・原子力等の各種供給力を種々の制約条件の中でどのように組み合わせて,全体として最も経済的・効率的な発電を行うかを検討するために作成される。
給電指令
給電指令所の業務のうち,次に掲げる給電指令について,その内容をそれぞれ簡潔に説明する。
運転指令
電力設備の始動・運転・停止などについての指令をいう。
調整指令
運転中の電力設備の発電電力・電圧・周波数・電力潮流などの調整をさせる命令をいう。
操作指令
電力系統の運転・調整のため,開閉装置,保護用継電装置用スイッチの操作をさせる指令である。
電力需給を巡る環境変化
2022年の需給ひっぱく
2022年の電力需給ひっぱくの背景には,地球規模の要因,短絡的な要因とが存在し,これらの組み合わせによる事態が悪化している。
- 電力自由化の下で供給力不足を回避するための事業環境整備の遅れ(再エネ拡大により稼働率が低下した火力の休廃止が加速)
- 原子力発電所の再稼働の遅れ
- 近年の世界的な脱炭素の加速に伴う影響(新設火力プロジェクトの中断)
- 地震などの自然災害の多発による供給力の低下
- 想定を上回る気象状況などによる需要増大
参考文献
- 電気事業講座 電気事業辞典
- 一般社団法人 電気学会 電力・エネルギー部門 用語解説 第153回テーマ:「需給調整市場」
- 送配電網協議会,「需給調整市場について」
- 「GX 実行会議における議論の論点」,2022年7月27日
- 令和5年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 法規 問6「電力需給」
- 令和4年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問7「電力供給と供給予備力」
- 平成30年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 法規 問6「日本の電力需給」
- 平成25年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問7
- 平成22年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 法規 問5「一般電気事業者における電力需給計画」
- 平成21年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問6「供給力と供給予備力」
- 平成10年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問6「給電指令」
更新履歴
- 2022年4月27日 新規作成
- 2022年7月31日 参考文献に「平成30年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 法規 問6」を追加
- 2022年8月13日 参考文献に「平成22年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 法規 問5」を追加
- 2022年8月27日 参考文献に「令和4年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 法規 問7」を追加
- 2022年11月12日 参考文献に「供給力と供給予備力」を追加
- 2022年12月21日 参考文献に「GX 実行会議における議論の論点」を追加
- 2022年12月24日 参考文献に「平成10年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問6」を追加
- 2023年9月2日 参考文献に「令和5年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 法規 問6」を追加
- 2023年12月16日 参考文献に「用語解説 第153回テーマ:需給調整市場」,送配電網協議会「需給調整市場について」を追加