火力発電所においては,発電所からの排出物による環境への影響を未然に防止するため,大気汚染の防止策を実施する。
大気汚染防止対策としては,重原油燃焼時などに排出される SOx(硫黄酸化物),NOx(窒素酸化物),ばいじんなどの低減がある。
本稿では,SOx を除去する装置である排煙脱硫装置, NOx を除去する装置である排煙脱硝装置(exhaust gas denitrizer),帯電により粉じんを低減する電気集じん装置について述べる。
大気汚染防止法における「ばい煙」の定義
大気汚染防止法において,「ばい煙」は次のように定義されている。
大気汚染防止法 第二条 定義等
この法律において「ばい煙」とは、次の各号に掲げる物質をいう。
- 燃料その他の物の燃焼に伴い発生するいおう酸化物
- 燃料その他の物の燃焼又は熱源としての電気の使用に伴い発生するばいじん
- 物の燃焼、合成、分解その他の処理(機械的処理を除く。)に伴い発生する物質のうち、カドミウム、塩素、弗化水素、鉛その他の人の健康又は生活環境に係る被害を生ずるおそれがある物質(第一号に掲げるものを除く。)で政令で定めるもの
以下,略
排煙脱硫装置
排煙脱硫装置は排ガス中に含まれる SOx(硫黄酸化物)を除去する装置であり,発電用ボイラにおいては,石灰石などアルカリ剤のスラリーを排ガス中に噴霧して,石こうを副生品として回収することができる湿式法が一般的に用いられている。
吸収塔で脱硫された排ガスは,水分を多く含み冷却されているため,煙道などを腐食させやすく,そのまま大気に放出されると,拡散能力が低く白煙も発生するため,ガス-ガスヒータで再加熱してから煙突より放出される。
硫黄酸化物について
硫黄酸化物(SOx,sulfur oxides)は,硫黄の酸化物の総称であり,SO(一酸化硫黄),SO2(二酸化硫黄),SO3(三酸化硫黄)等がある。
硫黄酸化物は,燃料中に含まれる硫黄分が空気中の酸素と反応して発生する。
硫黄分が少ない低硫黄石炭を使用することで,硫黄酸化物を低減することができる。
排煙脱硝装置
燃焼排ガス中の NOx(窒素酸化物)を除去する装置を排煙脱硝装置という。
排煙脱硝技術には,NOx 吸収に水溶液を用いる湿式排煙脱硝法と乾式排煙脱硝法に分けられるが,現在実用化されているのはほとんどが乾式法である。
乾式法としては接触還元法,無触媒還元法,電子線照射法,吸着法等が開発されてきたが,実用レベルにあるのはアンモニアを還元剤とする選択式接触還元法のみである。
低 NOx バーナー
低 NOx バーナーでは,燃焼方法(燃焼温度低下)の改善により生成量を減らす。
排ガス混合法
排ガス混合法では,ガス混合機により排ガスを燃焼空気に混合して低酸素燃焼を行う。
ボイラ二段燃焼
ボイラ二段燃焼では,バーナー周りの空気比を下げ NOx の生成を抑制させ未燃分を後流から注入した空気で再燃焼させる。
脱硝装置
脱硝装置では,アンモニア接触還元法にて還元剤としてアンモニアを加え混合したのち触媒層に通すことで NOx とアンモニアが還元反応して窒素と水蒸気に分解される。
窒素酸化物について
窒素酸化物(NOx,nitrogen oxides)は,窒素の酸化物の総称であり,NO(一酸化窒素),NO2(二酸化窒素),N2O(一酸化二窒素)等がある。
窒素酸化物は,燃焼空気中の窒素が高温条件下で酸素と反応して生成される。
または,燃料中に含まれる窒素分が燃焼により酸化され生成される。
- 燃料の燃料に伴い燃料中の窒素が酸素と反応して生成される(fuel NOx : フューエルノックス)
- 燃焼空気中の窒素と酸素が反応して生成される(Thermal NOx : サーマルノックス)
ガスタービン燃焼器の窒素酸化物低減対策
ガスタービン燃焼器における燃料の燃焼に伴う窒素酸化物の発生量は,燃焼温度に大きく左右される。
局部的に燃焼温度が上昇すればその部分から発生する窒素酸化物の濃度が著しく増加する。
したがって,窒素酸化物を低減させるためには,燃焼室の温度を低く抑えるとともに,均一な燃焼が得られるようにすることが必要である。
現在,実用化されている低減方法としては,水または蒸気噴射法および乾式低窒素酸化物燃焼法がある。
電気式集じん装置
別名コットレル集じん装置(Cottrell dust precipitator)とも呼ばれ,平板,波形板,金網などで構成された集じん電極の中にピアノ線の放電極を配置してある。
この集じん装置は集じん電極を正極,放電極を負極とし,両極の間に 40 ~ 60 kV の直流電圧を印加させてコロナ放電によってガス中の微粒子を負に帯電させ,クローン力によって集じん電極に集じんさせる。
この集じん装置の特徴は,集じん効率が 95 % 程度以上と高く,微細な粒子でも捕集できる。
火力発電所で用いられる集じん装置については,別途解説する。
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通風装置
火力発電所における通風装置はボイラの燃焼に必要な空気を火炉に送り込み,燃焼ガスを排煙処理設備などに通過させた後,煙突から排出させるための設備である。
石炭焚きボイラに適用される平衡通風方式はボイラ上流側に配置した押込通風機と,ボイラ下流の煙道に配置した誘引通風機により,火炉内を大気圧又はやや負圧に保ちながら運転する方式である。
また,上記の通風機以外にも,燃焼用空気の酸素濃度を下げて NOx を低減する目的で設置される排ガス混合通風機などがある。
参考文献
- 令和3年 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問1「大気汚染防止法にて規制される大気汚染物質」
- 平成29年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 電力 問2「発電所における通風装置」
- 平成29年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問2
- 平成23年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問1
- 平成13年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問5「石炭火力発電所における大気汚染物質の低減技術」
- 平成10年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問1「ガスタービン燃焼器の窒素酸化物低減対策」