変電所の負荷の増大などに対応するため,複数台の変圧器を並行運転(parallel running,または並列運転)することが必要となる。
変圧器の並行運転に必要な条件は,以下のとおり。
- 一次,二次の定格電圧が等しく,巻線比(変圧比)が等しいこと(定格電圧と巻線比が等しくなければ,後述するように変圧器間に循環電流が流れる)
- 結線にあたっては極性を合わせる(極性が一致しない場合,誘導起電力の位相が 180 度ずれるため,非常に大きな循環電流が変圧器間に流れてしまう)
- 漏れインピーダンス比が定格容量の逆比に等しいこと*1
- 抵抗とリアクタンスの比が等しいこと(% 短絡インピーダンスが等しい)
- 三相の場合は角変位と相回転が等しいこと
各変圧器がその容量に比例した電流を分担
各変圧器がそれぞれの定格容量に比例して負荷電流を分担するためには,自己容量をベースとする百分率インピーダンス降下が近いものを用いる*2。
百分率インピーダンス降下が大きく異なる場合は,定格容量に比例した負荷分担が不可能になる。
例えば,短絡インピーダンス 7.5 %(自己容量 10 MVA ベース)の変圧器と短絡インピーダンス 15 %(自己容量 20 MVA ベース)の変圧器とは,並行運転することができる。
各変圧器を流れる電流の分担率は短絡インピーダンスに反比例する。
電圧インピーダンスの裕度
変圧器の規格 JEC-2200 では,電圧インピーダンスの裕度 ± 10 % が定められており,「漏れインピーダンス比が定格容量の逆比に等しいこと」は実際には難しく,「漏れインピーダンス比が定格容量の逆比にほぼ等しいこと」である。
変圧器タップと短絡インピーダンスとの関係
変圧器のタップ位置によって,変圧器の短絡インピーダンスは変化する。
例として,タップ数 17 の変圧器における変圧器タップと短絡インピーダンスとの関係を下図に示す。
この変圧器では,タップ 1 で短絡インピーダンスが最も高く,タップ 17 で短絡インピーダンスが最も低くなっている。
一方,変圧器の巻線配置によっては,タップ 1 で短絡インピーダンスが最も低く,タップ 17 で短絡インピーダンスが最も高くなることもある。
そのため,変圧器の並行運転を行う場合(そもそも変圧器の増設や更新を行う場合),変圧器タップと電圧インピーダンスとの関係の傾向にも留意する必要がある。
短絡インピーダンスの仕様について
各巻線間の短絡インピーダンスは,特に指定がない場合,基準タップでの短絡隠避ダンスをいう。
定格電圧,および一つ以上のタップ電圧で短絡インピーダンスが指定される場合には,巻線の配置などに設計上の制約が生じることがある。
したがって,合理的な理由のない場合には基準タップ以外での短絡インピーダンスの指定は避けるべきである。
基準タップ以外のタップで短絡インピーダンスを指定する場合には,設計上の自由度をもたせるために,最大限許容できる裕度を注文者と製造者により協議することが望ましい,と JEC で規定されている。
合理的な理由が変圧器の並行運転である場合,変圧器の並行運転時に最大限許容できる裕度を検討しておく必要がある。
変圧器間の循環電流が実用上問題ないレベル
この満足するためには,変圧比の差が小さいことが必要である。変圧比はタップにより変化するため,定格タップ以外の値についても確認する必要がある。
また,結線(星形結線,三角結線など)により二次側電圧に位相の差が生じるため,これによる循環電流が生じないような結線・接続とする必要がある。
例題 単相変圧器 2 台の並行運転
いま,一次定格電圧が 22 kV,及び二次定格電圧が 3.3 kV である 2 台の単相変圧器 A 及び B があり,定格容量及び百分率インピーダンス降下はそれぞれ変圧器 A が 20 MV・A,5.5 %,変圧器 B が 16 MV・A,5.2 % である。
また,各変圧器の巻線抵抗の漏れリアクタンスに対する比は等しいものとする。
これら 2 台の変圧器を並行運転して定格容量以内で供給できる最大負荷は 34.9 MV・A であり,定格容量に達する変圧器は,B である。
例題の解説
20 MV·A を基準した変圧器 A 及び B の百分率インピーダンス降下をそれぞれ $\%Z_\text{A}$,$\%Z_\text{B}$ とする。
\[ \%Z_\text{A}=5.5 \text{ [%]} \] \[ \%Z_\text{B}=5.2 \times \frac{20}{16} = 6.5 \text{ [%]} \]
これら 2 台の変圧器を並行運転して定格容量以内で供給できる最大負荷を $S$ とすると,以下の 2 式が成り立つ。
変圧器 A が定格容量以内で供給できる条件
\[ S\times\frac{\%Z_\text{B}}{\%Z_\text{A}+\%Z_\text{B}} \le 20 \] \[ S \le 20 \times \frac{5.5+6.5}{6.5} = 36.92 \]
変圧器 B が定格容量以内で供給できる条件
\[ S\times\frac{\%Z_\text{A}}{\%Z_\text{A}+\%Z_\text{B}} \le 16 \] \[ S \le 16 \times \frac{5.5+6.5}{5.5} = 34.90 \]
上式より,最大負荷 $S$ は 34.9 MV·A,定格容量に達する変圧器は,B である。
参考文献
- JEC-2200-2014「変圧器」
- 令和5年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 機械 問3 「単相変圧器の並行運転」
- 令和3年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問4 「タップ付き変圧器の並行運転」
- 平成30年度 第二種 電気主任技術者 一次試験 電力 問6 「変圧器の並行運転」
- 平成27年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問3 「単相変圧器の並行運転」
- 平成22年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問3 「2 台の変圧器の並行運転」
- 平成19年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問3 「2 台の変圧器の並行運転」