目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

地熱発電

地熱発電(geothermal generation)とは,地下から噴出する蒸気又は熱水を利用して汽力発電を行うもので,地下からの蒸気等を直接タービンに入れる場合と,熱交換器を通して発生した蒸気をタービンに入れる場合とがある。

後者は蒸気に含まれるガスや不純物によるタービン内の腐食対策として有効である。また,地熱資源の枯渇を防止するため,使用済蒸気の地中還元も行われている。

2016年6月現在,アメリカ,フィリピン,インドネシアなどの諸国を中心に世界で約 1 300 万 kW の地熱発電設備が稼働中であり,日本では約 50 万 kW の設備が稼働している。

風力や太陽光発電とは異なり,天候に左右されず,安定した発電出力が得られる点が特徴である。

九州電力グループは国内初の事業用発電所である大岳発電所(14,500 kW),国内最大規模の八丁原発電所(110,000 kW)など,国内に保有する設備容量は約 22 万 kW と全国の設備容量の 4 割以上を占めている。

地熱発電の仕組み

地熱発電の仕組みは基本的には火力発電と同じであり,ボイラの代わりに,地下深部の地熱貯留層から採取される地熱流体を用いて発電する。

適正な地熱貯留層が形成されるには,地層が高温であるだけでは不十分で,流体を貯める器となる割れ目,流体を地表へ移送,利用するのに不可欠な水の 3 条件が満たされる必要がある。

高温であっても他の条件に恵まれない地熱地帯では,高水圧を注水して人工的に熱水系を造成する技術(高温岩体発電)が用いられる。

www.iee.jp

地熱発電の技術

地熱エネルギーの利用を一層促進するため,開発リスクの低減を目指した地熱貯留層の探査技術,掘削技術及び評価・管理技術の技術開発,未利用温泉熱を利用する低温域でのバイナリー発電システム開発,次世代の方式として超臨界地熱発電の熱抽出に関する実現可能性調査等が進められている。

バイナリーサイクル発電

従来の地熱発電方式は,およそ 200 °C 以上の高温の地熱流体から得られる蒸気のみを対象としている。このため通常,蒸気の数倍程度随伴する熱水は,その熱エネルギーが十分に利用されずに地下に還元されている。また自噴力が弱いか,または自噴しないため熱水資源を利用することなく放置される坑井も数多い。バイナリー発電方式は,このような未利用熱源のもつ熱エネルギーを,熱交換器を介して低沸点媒体(ペンタン等)に伝え,媒体を加熱蒸発させ,その高圧の蒸気によってタービンを駆動し発電する方式である。

加熱源としての蒸気・熱水サイクルとペンタン等を用いた媒体サイクルの二つの熱サイクルを有していることから,「二つの」という意味を持つバイナリー(Binary)発電方式と呼ばれている。

2021年10月28日現在,新エネルギーとして定義されている地熱発電は「バイナリー方式」のものに限られている。

トータルフロー発電

生産井から噴出する流体を上記と熱水に分離せず,直接,膨張機に導いて発電する方式である。膨張機の効率が蒸気タービンより低いため効率向上が求められる。

高温岩体発電

地熱地帯には,温度は高いが割れ目が少ないため,地熱流体が存在しない高温岩体がある。この高温岩体に人工的に割れ目(フラクチャ)を作り注水することにより蒸気または熱水を作り,それを取り出して発電する方式が高温岩体発電である。

www.enecho.meti.go.jp

地熱発電の開発と運用の課題

地熱貯留層に存在する熱水量は,還元井および地下水の流れと地中から供給される熱量とで決まり,安定的なエネルギー供給には,この熱資源の収支均衡が条件となる。

そのため地熱発電の開発には,十分に資源探査を行ってエネルギー収支を見積もる必要があり,これが大容量の発電設備が建設し難い理由ともなる。

運用開始後も,持続的な利用のためには地熱貯留層の状態を把握必要がある。

熱水には,一般に SiO2,Ca,S などの不純物が含まれ,これらは熱水や蒸気の通り道に付着する。

そのため,地上設備は高圧ジェット水による洗浄などを行い,還元井は,掘削機で不純物を機械的に除去するか,井戸を途中から横堀りして再生させるなど,保守にも手間が必要となる。

地熱増産システム

地熱増産システム(EGS : Enhanced Geothermal Systems)では,従来の地熱発電では活用できなかった地熱資源の活用が期待されている。

EGS には次のタイプがあり,研究開発が進められている。

貯留層造成型(高温岩体発電)

高温ではあるが亀裂や熱水のない岩盤(高温岩体)に高圧の水を圧入し人工の貯留層を作成する。

貯留層改善型

貯留層の透水性や熱量が小さいため自噴しない場合,注入井から水の圧入で亀裂を拡大させ熱水の流動を改善して,生産井にポンプを設置して熱水を汲み上げる。

貯留層涵養型

貯留層内の熱水量や圧力が減衰し出力が低下した地熱発電所の貯留層に注入して熱水量や圧力を回復させる。

超臨界型

火山の周辺では比較的浅部で冷却過程のマグマ(超高温岩体)が水の臨界温度(374 度)を超える高温状態にある。

この熱を利用できれば大きな出力が得られる可能性がある。

令和3年度 第二種電気主任技術者 一次試験 電力 問2

地熱発電は,地下の地熱貯留層に向けて生産井を掘削し,そこから得られる二相流体を用いて蒸気タービンを駆動し発電を行う方式である。

生産井から得られた二相流体は気水分離器で蒸気と熱水に分けられるが,熱水の割合が比較的大きい場合が多いため,フラッシャで圧力を下げ熱水から蒸気を得ることにより,出力増加を図る方式が広く用いられている。そこで得られた蒸気は,気水分離器から得られた蒸気とともに,蒸気タービンで膨張し発電機を回す。また,タービン排気は混合復水器を用いて凝縮され,その凝縮水は冷却塔で温度を下げ,その一部を復水器の冷却水として用いる方式が広く採用されている。ここに冷却塔を用いるのは,地熱発電所では冷却水を得ることが難しい場合が多いことによる。フラッシャで分離された熱水は,還元井を通して地中に戻す。

なお地熱発電では,低温の熱水が保有するエネルギーを有効に利用するため,沸点の低い作動媒体を用いてタービンを回すバイナリーサイクル発電を採用している例もある。

平成24年度 第二種電気主任技術者 一次試験 電力 問2

地熱発電の方式は地熱流体の汽水比によっていくつかの方式に分けられる。

地熱流体が加熱蒸気あるいはわずかに熱水を含む場合には,汽水分離器で蒸気のみを取り出し,タービンを回して発電を行う。タービン出口側に関しては,出力を大きくとるためにタービンの出口側に凝縮器を設置して背圧を低くする方式が一般的である。

地熱流体中の熱水割合が高い場合は,汽水分離後の熱水から再度蒸気を抽出し,タービンの中段に送り発電を行うフラッシュ発電方式が採用される。

熱水の温度は低いが熱水量が十分な場合,熱水の熱エネルギーによって低沸点の熱媒体を加熱沸騰させ,その蒸気でタービンを回して発電を行うバイナリー方式が採用されることがある。

参考文献

更新履歴

  • 2021年10月28日 新規作成
  • 2021年12月1日 加除修正
  • 2022年5月6日 地熱増産システム(EGS)の説明を追加
  • 2022年7月31日 参考文献に「平成30年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 法規 問4」を追加