目指せ!電気主任技術者~解説ノート~

第一種電気主任技術者の免状保有者がまとめた電気主任技術者試験の解説ノートです。

製鋼用アーク炉設備

製鋼用アーク炉はアーク加熱応用の代表的な例であり,商用周波の三相交流電力をそのまま用いる交流アーク炉と整流装置を用いた直流アーク炉がある。

両者共に電圧は数百ボルト程度,電流は数千アンペアから数万アンペア以上のアークを黒鉛電極と被溶解物である鉄くずや還元鉄の間に発生させ,これにより溶解し鋼を作る炉である。

炉内でのアーク長を一定に保つように機械的な制御装置が設けられているが,炉内のアーク長の変化は急しゅんで,機械的な制御装置ではこの急しゅんな変動への十分な応答は困難である。

交流炉の単純化された電気的等価回路は,アーク抵抗と給電回路のリアクタンスが直列接続されたものと表現できる。

この回路で,抵抗に相当するアークが炉内での短絡からアークの消滅までを変動すると考えると,基本的には有効-無効電力の変動軌跡は半円を描く。

一方,直流炉における交流側での両電力の変動軌跡は,整流装置の電流制御機能により 1/4 円となる。

このように電力動揺の範囲は直流炉では交流炉の 50 [%] となることから,同一電気定格容量の場合,弱小の電源系統への接続が比較的容易といわれている。

直流アーク炉では,直流母線に流れる電流が作る磁場により,アークに電磁力が作用し,アーク偏向が発生することで被溶解物の不均一溶解や炉内にホットスポットを生成する原因となる。

これを抑制するために直流母線の配置には工夫が必要となる。

参考文献

  • 平成18年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問3「製鋼用アーク炉設備」

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  • 2022年8月1日 新規作成

暗号化技術

電気設備の監視制御装置などにインターネットが利用されつつあるが,電気設備のみならず現代のネットワーク社会において,暗号化技術が重要な役割を果たしている。

暗号化には,主に二つの機能があり,情報を「秘匿(守秘)機能」により保護するだけでなく,「認証」機能により情報に本人性や完全性等の信用を与えることで,ネットワーク社会における安全性と信頼性を実現できる。

秘匿(守秘)機能は,平文(データ)を送信者と受信者以外の第 3 者から隠すことであり,送信側で暗号鍵を用いて平文を暗号化し,受信側で復号鍵を用いてその暗号文を元の平文に復号して保護する。

この暗号鍵と復号鍵とが同じであるか,あるいは暗号鍵から復号鍵が容易に導けるものを共通鍵暗号方式と呼び,送信者と受信者はともにそれぞれの鍵を秘密に保たなければならない。

一方,公開鍵方式は,暗号鍵と復号鍵とが異なり,前者の鍵から後者の鍵を求めるのは難しく,鍵の管理の簡素化や,当事者間の解決に有用であるが,暗号化や復号が複雑となり,処理速度も低くなる。

認証機能は,人間やメッセージあるいは時刻といった対象によって分類される。

これらへの偽造行為の対策として,関数値から元の因数の値を求めるのが困難であるような一方向性ハッシュ関数と呼ばれる関数を利用して,メッセージ認証やディジタル署名などが実施される。

参考文献

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  • 2022年7月31日 新規作成

誘導発電機

三相誘導電動機の固定子を電源に接続して,固定子が作る回転磁界の回転方向と同一方向に,他の原動機を用いて同期速度を超える速度で回転させると,滑りは負の値となる。

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このとき,回転子巻線は電動機の場合と逆方向に回転磁束を切り,二次巻線の誘導起電力及び二次電流の方向は,電動機の場合と逆になる。

したがって,二次電流と回転磁束とによるトルクの方向は,回転子の回転方向と逆になる。

固定子電流の方向も電動機の場合と逆になるから,原動機から回転子への機械的入力は,電気的出力となって固定子から電源に送り出されることになる。

すなわち,誘導発電機 (induction generator) としての動作となる。

誘導発電機の特徴

このタイプの誘導発電機は以下のような特徴がある。

回転磁束を作るための励磁電流は,誘導発電機が接続されている電源から供給を受けなければならない。

周波数は,電源の周波数で定まる。誘導発電機の出力を増加するには,原動機の回転速度を増やさなければならない。

同期発電機と異なり,始動が簡単で,同期化の必要がない。

線路に三相短絡を生じた場合,励磁が失われるので,短絡電流は同期機に比べて小さく,持続時間も短い。

上記のような特徴から,誘導発電機は小水力発電機として用いられることがある。

参考文献

  • 電気学会,「電気学会大学講座 電気機器工学Ⅰ(改訂版)」,オーム社,1987年12月
  • 平成19年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問1「誘導発電機」

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  • 2022年7月30日 新規作成
  • 2023年5月17日 参考文献に「電気学会大学講座 電気機器工学Ⅰ(改訂版)」を追加

潮流調整と潮流計算

本稿では,電力潮流の調整と電力潮流の計算について説明する。

潮流調整(power flow control)

電力潮流は,需要変動に応じて調整する供給力の変動により時々刻々変化している。

電力潮流を適正に調整することにより,電力設備の過負荷防止や安定度向上等の系統の安定運用,送電損失の軽減および適正電圧の維持を図っている。

潮流調整方法として,有効電力潮流については発電機出力調整,発変電所送電線路の接続系統の変更により行い,また無効電力潮流については発電機の運転力率調整や調相設備の運転,停止により行う。

ループ状を構成している電力系統では,移相変圧器や直列コンデンサ,直列リアクトルを設置して潮流調整を行っている。

送配電会社間の連系点潮流調整は,融通電力のベース変更に伴う潮流調整の他に,常時の負荷変動によるランダムな潮流変動に対しては,周波数調整と組み合わせて自動制御を行っている。

潮流計算

潮流計算は,電力系統やプラントなどの電力システムの計画・運用に必須な計算技術である。

一般に潮流計算は,電力方程式を厳密に解いて,電圧,位相角,有効・無効電力潮流を求める交流法を用いることが多い。

この電力方程式では,送電線や変圧器をブランチ,発変電所などの母線をノードとして,アドミタンス行列で表現された電気回路に基づいて構成され,電力システムの場合,非零要素が極めて少ないスパース行列となる。

一方,この電力方程式の既知量は,そのノードの特性に応じて指定される。

一般的には,発電母線に対して有効電力及び電圧を指定するノードを PV 指定ノードと呼び,負荷母線に対して有効電力及び無効電力を指定するノードを PQ 指定ノードと呼び,さらに,電圧位相角の基準となるノードをスラックノードと呼び,系統の有効・無効電力損失分を充当させている。

また,この方程式の電圧座標の取り方に応じて,直角座標又は極座標が使用される。

電力方程式は非線形代数方程式であり,これを解くには未知数に適当な初期値を設定して反復計算により正確に収束させる必要がある。

その代表例として,ニュートンラフソン法があり,反復計算する係数として,ヤコビアン行列と呼ばれる電力方程式の微分係数を用いて収束計算する方法が著名である。

ニュートン・ラプソン法の計算フローを下図に示す。

図 ニュートン・ラプソン法の計算フロー

図 ニュートン・ラプソン法の計算フロー

参考文献

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  • 2022年7月29日 新規作成
  • 2022年10月7日 潮流調整の説明を追加,参考文献に「電気事業講座 電気事業辞典」を追加
  • 2022年10月30日 ニュートン・ラプソン法の計算フローを追加
  • 2022年11月4日 参考文献に「平成30年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問4」を追加

太陽光発電システム用パワーコンディショナ

太陽光発電システム用パワーコンディショナ(PCS)は太陽電池で発電した直流電力を交流電力に変換し,交流系統に接続された負荷設備に電力を供給するとともに,余剰電力を系統に供給する装置である。

PCS は直交変換だけでなく,様々な機能を有している。

太陽電池モジュールは,特有の電圧電流特性を持つため,電圧と電流の積である発電電力を最大とする動作電圧が存在する。

最大電力点追従(MPPT)制御はモジュールから最大限の電力を引き出すための制御であり,PCS の大きな特徴でもある。

いかにその制御の一例を示す。

電池の出力電力が $P_0$ で運転されているものとする。

電圧を微小に減少させたときの出力電力 $P_1$ を計測してから,電圧を元に戻し,そのときの出力電力 $P_2$ を計測する。

$P_0 \lt P_1$,$P_1 \gt P_2$ を条件 1,$P_0 \gt P_1$,$P_1 \lt P_2$ を条件 2 とするとき,条件 1 を満足する場合には,動作電圧を減少させ,条件 2 を満足する場合は動作電圧を増加させる。

条件 1,2 ともに満足しない場合は,雲などの影響による日射強度の一時的な変動があったものとして動作電圧を変更しない。

この操作を一定時間間隔で行い常に最大電力点で動作するように制御する。

配電系統が停止した場合,発電電力と負荷電力が概ね平衡していると,電圧リレー(OVR,UVR)や周波数リレー(OFR,UFR)では停電を検出できず系統に電力を供給し続けることがある。

これを単独運転という。

PCS にはこのような運転状態を防止する機能が設けられており,その検出方法には,電圧波形や位相などの変化を捉える受動的方式と,電圧や周波数に変動を与え単独運転移行時にこの変動が顕著となることを利用する能動的方式がある。

また,太陽光発電システムが系統から解列された状態で運転することを自立運転といい,PCS は MPPT 制御から出力電圧一定制御に切り替わる。

参考文献

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  • 2022年7月28日 新規作成

リラクタンスモータ

ラクタンスモータは,計算機設計ツールの普及やパワーエレクトロニクス技術の発展などによって,近年実用化が進んでいる。

永久磁石を用いないリアクタンスモータは,構造的にシンクロナスリラクタンスモータ(SynRM)とスイッチトリラクタンスモータ(SRM)に分けられる。

ともに突極性を有し,回転子位置に応じて変化するリラクタンス(磁気抵抗)に基づくトルクによって回転する。

シンクロナスリラクタンスモータの固定子構造は,従来の交流機と同様に固定子のスロットに分布巻コイルが配置され,三相交流の給電によってギャップに正弦波分布した回転磁界を発生する。

強磁性体で作られた回転子は,発生した回転磁界に同期してその磁気抵抗が最小になるように回転する。

負荷がかかると回転子は回転磁界より負荷角 $\delta$ だけ遅れ,この角度は負荷の大きさに依存する。

回転子構造は突極構造を実現するため,種々の形状が提案されている。磁気抵抗の小さい軸を $d$ 軸,大きい軸を $q$ 軸とし,対応するインダクタンスをそれぞれ $d$ 軸リアクタンス $L_d$,$q$ 軸インダクタンス $L_q$ とすれば,両者の比 $\displaystyle \frac{L_d}{L_q}$ を突極比と呼ぶ。

トルク対電流の比,力率及び効率の向上のためには,突極比の大きいことが望まれる。

一方,スイッチトリラクタンスモータの基本構造は,固定子,回転子とも突極構造をなし,固定子には集中巻コイルが配置される。

固定子,回転子の突極数については種々の組み合わせがある。

その動作は,固定子突極に対して回転子突極がその磁気抵抗を最小にするように,非対向状態から対向状態にトルクを発生させる。

その対向直前で次の相に励磁を切り換え,回転を維持する。

参考文献

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  • 2022年7月27日 新規作成

同期発電機の回転子の軸の両端間に発生する電圧

同期発電機の回転中に回転子の軸の両端間に電圧が発生する。

この発生のメカニズムは,次の二つに大別することができる。

その一つは,構造上の原因から,回転子鉄心の磁気抵抗が円周方向に不同であると,回転子の軸と鎖交する交番磁界が発生し,軸に起電力を誘導することによるものである。

この起電力は,通常,数ボルト程度の大きさである。

同期発電機の回転中には,回転子の軸は軸受の油膜の上に乗っているので,この電圧では油膜の絶縁が破壊されるようなことはない。

しかし,給油不測などにより油膜が切れて軸と軸受面が金属接触すると,軸,軸受,固定子又はベースからなるほとんど短絡状態に近い閉回路ができ,かなり大きな電流が流れる。

この電流は軸電流と呼ばれている。

この電流が大きくなると,それによって軸受面を損傷し,著しい場合には,軸受の過熱損傷を招いて軸に過大な振動が生じ,事故の発生につながる。これを防止するためには,磁極数に対する鉄心の分割数が最適になるように設計すればよいが,工作上のばらつきは免れないので,軸受メタルの支持部,軸受ブラケットの固定子枠の間,あるいは軸受台とベースの間に絶縁物を入れるなどの対策が採られている。

他の一つは,蒸気タービンに接続された同期発電機に見られる現象で,蒸気の粒子が相互に摩擦したり,あるいはタービンの動翼や軸に高速で衝突又は摩擦したりする際にイオン化し,タービンの軸に静電荷が生じ,それが軸に蓄積されて電位を高めていくことによるものである。

この電位が軸受の油膜の耐電圧以上になると,絶縁を破壊して間欠的に放電し,軸受を損傷することにより,軸振動が増大して事故の発生につながる。

これを防止するためには,軸にブラシを取り付ける方法が採られている。

参考文献

  • 平成20年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 機械 問1「同期発電機の回転子の軸の両端間に発生する電圧」

更新履歴

  • 2022年7月26日 新規作成